あなたに・・・・・会いたい・1
Aerith & Cloud's Story
エアリスはゴーストホテルの窓を開け放った。 墓地を模したおどろおどろしい中庭の向こうの空に、きらびやかなネオンが点滅する。チョコボレースやシューテングコースターを楽しむ人々の歓声が遠くから響いてくる。時折花火が打ち上がり、彼女の顔を照らす。 −−−−−おもしろいところだな、ここ。わたし、すっごく、好き。 大変な旅の途中のはずなのに、そんなこと、忘れてしまいそうだった。 −−−−−ここでボディガード料払ったら、楽しいよね、きっと。 そう考えたらがまんできなくなって、エアリスはロビーに降りていった。 「すいません、アトラクションの営業時間って何時まで?」 彼女はホテルの受付に聞いた。 「今夜は週に一度のマジカルナイト。オールナイトで営業しております。まだお休みになられないのでしたら、お出かけになってはどうですか?」 「そう・・・・・・・・・。ありがと!」 −−−−−クラウド、まだ寝てないと、いいな。 そう願いながら、エアリスはクラウドの部屋のドアをノックした。 「クラウド?起きてる?」 「エアリス?どうしたんだ、こんな夜中に」 「エヘヘ。・・・・・・・・ねえ、デート、しない?」 「はあ?」 「デ・ー・ト!したこと、ないの?」 「バカにするな!デートのひとつやふたつ・・・・・・・・・」 「あ、むきになるの、あやしい」エアリスはくすくす笑った。「ま、いいわ。さ、いきましょ!今日は一晩中遊べるんだって!」 「お、おい!」 エアリスはクラウドの腕を抱きかかえると、まだ躊躇している彼を部屋からひっぱりだした。 −−−−−そういえば、クラウドと腕を組むの、初めて。あれからずーっといっしょにいるのに。 そう、クラウドが天から降ってきてから・・・・・・・・・。 |
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爆発音にも似た、ものすごい音が礼拝堂の方に響いた。 エアリスはびっくりして、奥の小部屋から顔を出した。 教会の屋根に穴が開き、ほこりが舞っていた。天井から木の破片がぱらりと落ちた。その落ちていった先、花畑の上に、青年がひとり、倒れていた。 −−−−−落ちてきたの?この人?さっきも上の方で大きな音がしていたけど・・・・・・・・・。 エアリスは青年の顔にそっと手をかざした。吐息がてのひらにあたる。彼女はほっとした。生きては、いる。 「もしもし?」 彼女は青年の頬をはたいた。なにかヘンだな、と思いながら。 −−−−−わたし、この人に会ったこと、ある。誰だったっけ?天から降ってくるような人に知り合いはいないはずだけど・・・・・・・・。 「もしも〜し!」 何度か呼びかけるうちに、青年の手がかすかに動いた。 「あっ!動いた!」 「う・・・・・・・・・・」 青年はうめき声を上げ、うっすらと目を開いた。魔晄を浴びた者特有の、不思議な青い光を放つ目。その目を見て、エアリスは思い出した。この人、この間花を買ってくれた人だ・・・・・・・・! 「だいじょぶ?」 エアリスは青年が体を起こすのを手伝った。あちこち痛そうにはしているが、骨が折れたりはしていないようだった。 「だいじょぶみたいね。屋根と花畑、クッションになったのかな。運がいいね」 「ここは・・・・・・・・・?」 「五番街のスラムの教会。いきなり落ちてくるんだもん、びっくりしちゃった」 「落ちてきた・・・・・・・・・」 「うん。さっきも上の方でなんか音してたけど、なにかあったの?」 青年は額に手をあてたきり、何も言わなかった。そして言葉の代わりに、ひょいと肩をすくめた。 エアリスはそのしぐさに、どきりとした。−−−−やっぱり、どこか、似てる。 「また・・・・・・・・会えたね」 「また?」 「おぼえていないの?」 青年は小首をかしげながら、彼女を見つめた。そのしぐさにも、エアリスはなつかしいものを感じた。 「・・・・・・・・ああ、そういえば・・・・・・・・。覚えてるさ。−−−−−花を売っていたな。八番街で」 「あっ!うれしいな〜〜〜〜!」エアリスの顔に笑みがこぼれた。「あの時は、お花買ってくれて、ありがとね」 あの時−−−−近くで響いた爆発音に混乱していた八番街で、彼女の方から彼に声をかけたのだった。人々が右往左往する中、なぜかひとりだけ落ちついた様子で歩いている彼に、何があったのか聞こうと。 そして気がついた。彼も魔晄の瞳を持つ者だということを−−−−あの人と、同じ。 あの時は、なんとなくそのまま別れてしまったけれど、あとですごく後悔した。もう少しお話しすればよかったのに、と。 そしてこうも思った。ソルジャーなんて何人でもいる。だけど、あの人みたいないい人が他にいるはずがないんだから、と。 だけどやっぱり、また会えて、うれしかった。登場のしかたは、すっごくヘンだったけど。 今度はこのままさよならしたくない−−−−! 「ね、いろいろお話ししたいんだけど、どうかな?せっかく、こうしてまた会えたんだし、ね?」 「−−−−−ああ、かまわないさ」 彼は肩をすくめた。 「よかったあ!・・・・・・・・あ!そういえば、まだおたがい名前、知らないね。わたし、エアリス。・・・・・・・・あなた、は?」 「俺は・・・・・・クラウド、だ」 「クラウド・・・・・。クラウドって言うの。ふ〜〜〜〜ん」 −−−−−バカみたい。わたし、何を期待してたんだろ。 あの人と同じ、魔晄の目。 あの人に似た、しぐさ。 だけど、あの人は黒髪だった−−−−−ザックスは。 |
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「ね、どこへ行って遊ぶ?チョコボレース?それとも、バトルスクェアの方が好き?」 クラウドは肩をすくめた。 「もう!−−−−−あ、わたし、ワンダースクェアに行きたい!あそこ、おもしろいゲームがいっぱいあるって。ケット・シーが言ってたよ」 かなり夜も遅くなっていたが、ワンダースクェアにも人がおおぜいいた。昼間は家族連れの姿も見かけるが、この時間はカップルばかり。 だけど、わたしのクラウドがいちばんステキだもん。エアリスはクラウドの腕をしっかりと抱きしめた。 「わあ〜〜〜〜〜、ほんとにおもしろそう。どれやろうかなあ・・・・・・・・。あ!ねえねえ、クラウド、これがいい!」 エアリスの目にとまったのは、ワンダーキャッチャー。 「このモーグリのぬいぐるみ、かわいい。ね、クラウド、これ取って!」 「俺が・・・・・・・・・?」 「そう!−−−−これ、やったこと、ない?」 「・・・・・・・・ない」 「そう。でも、クラウドなら簡単にできるよ!反射神経いいから」 「まいったな・・・・・・・・・・」 クラウドは苦笑いしながらも、エアリスに言われるままにコインを機械に入れた。 「あ・・・・・・、もうちょっと右・・・・・・・うん、そこそこ。もうちょっと・・・・・。あ!・・・・・・・・・あ〜あ、落ちちゃった」 目当てのぬいぐるみは、もう少しと言うところでアームから転げ落ちた。 「失敗したな・・・・・・・・。でも、だいたいやり方はわかった。もう一回やってみるか」 アームがふたたび動きだす。 「きゃ〜〜〜、クラウド、がんばって!うん、それそれ・・・・・・・・あ!あ〜あ」 アームは今度は、ぬいぐるみをかすめただけで元の位置に戻ってしまった。 「う〜ん・・・・・・・・。よし、もう一回!今度こそなんとか取ってやる!」 −−−−−うふふ、ムキになっちゃって・・・・・・・・・。なんか、かわいいなあ。 そんなクラウドを見ているのが、エアリスはうれしくてならなかった。 最近のクラウドは、何か考えこんでばかりいる。それもしかたがないことだというのは、エアリスも十分わかっていた。 −−−−−だけど、あまり思いつめないでね、クラウド。 その時ふっと、クラウドの横顔を何かが通りすぎた。 −−−−−あっ、また・・・・・・・・・。 それはつかむ間もなく、一瞬のうちに消えた。 「クラウド・・・・・・・・・・」 「ん?なんだ?」 「えっと・・・・・・・。あ、あのね、あれなら取りやすくない?」 −−−−−あまり思いつめないでね、クラウド。あなたが・・・・見えなくなってしまいそうだから・・・・・・・・・。 何度も失敗し、繰り返し挑戦するうちに、アームは中のぬいぐるみをしっかりとつかんだ。景品の出口にアームが動いていくのをふたりは息をつめて見守った。 「よし!取ったぞ!」その声とともに機械からころげ出てきたぬいぐるみは、黄色だった。「・・・・・・チョコボだけど」 「うんうん、いいの。チョコボもかわいい。クラウド、ありがと」 エアリスはにこにこしながらぬいぐるみにキスした。クラウドは気恥ずかしそうに頭をかき、くるりと背を向けた。 ザックスもそんなとこがあったなあ−−−エアリスはふと思った。いつもかっこつけてて、それがよく似合うんだけど、時々子供っぽいところが顔を出しては照れくさそうにする。 ザックス−−−−−わたしが初めて好きになった人。 彼に初めて会ったのも、クラウドと同じ、八番街の劇場の前だった。 |