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あなたに・・・・・会いたい・1
Aerith & Cloud's Story




 エアリスはゴーストホテルの窓を開け放った。
 墓地を模したおどろおどろしい中庭の向こうの空に、きらびやかなネオンが点滅する。チョコボレースやシューテングコースターを楽しむ人々の歓声が遠くから響いてくる。時折花火が打ち上がり、彼女の顔を照らす。
 −−−−−おもしろいところだな、ここ。わたし、すっごく、好き。
 大変な旅の途中のはずなのに、そんなこと、忘れてしまいそうだった。
 −−−−−ここでボディガード料払ったら、楽しいよね、きっと。
 そう考えたらがまんできなくなって、エアリスはロビーに降りていった。
「すいません、アトラクションの営業時間って何時まで?」
彼女はホテルの受付に聞いた。
「今夜は週に一度のマジカルナイト。オールナイトで営業しております。まだお休みになられないのでしたら、お出かけになってはどうですか?」
「そう・・・・・・・・・。ありがと!」
 −−−−−クラウド、まだ寝てないと、いいな。
そう願いながら、エアリスはクラウドの部屋のドアをノックした。
「クラウド?起きてる?」
「エアリス?どうしたんだ、こんな夜中に」
「エヘヘ。・・・・・・・・ねえ、デート、しない?」
「はあ?」
「デ・ー・ト!したこと、ないの?」
「バカにするな!デートのひとつやふたつ・・・・・・・・・」
「あ、むきになるの、あやしい」エアリスはくすくす笑った。「ま、いいわ。さ、いきましょ!今日は一晩中遊べるんだって!」
「お、おい!」
エアリスはクラウドの腕を抱きかかえると、まだ躊躇している彼を部屋からひっぱりだした。
 −−−−−そういえば、クラウドと腕を組むの、初めて。あれからずーっといっしょにいるのに。
 そう、クラウドが天から降ってきてから・・・・・・・・・。



×××



 爆発音にも似た、ものすごい音が礼拝堂の方に響いた。
 エアリスはびっくりして、奥の小部屋から顔を出した。
 教会の屋根に穴が開き、ほこりが舞っていた。天井から木の破片がぱらりと落ちた。その落ちていった先、花畑の上に、青年がひとり、倒れていた。
 −−−−−落ちてきたの?この人?さっきも上の方で大きな音がしていたけど・・・・・・・・・。
 エアリスは青年の顔にそっと手をかざした。吐息がてのひらにあたる。彼女はほっとした。生きては、いる。
「もしもし?」
彼女は青年の頬をはたいた。なにかヘンだな、と思いながら。
 −−−−−わたし、この人に会ったこと、ある。誰だったっけ?天から降ってくるような人に知り合いはいないはずだけど・・・・・・・・。
「もしも〜し!」
何度か呼びかけるうちに、青年の手がかすかに動いた。
「あっ!動いた!」
「う・・・・・・・・・・」
青年はうめき声を上げ、うっすらと目を開いた。魔晄を浴びた者特有の、不思議な青い光を放つ目。その目を見て、エアリスは思い出した。この人、この間花を買ってくれた人だ・・・・・・・・!
「だいじょぶ?」
エアリスは青年が体を起こすのを手伝った。あちこち痛そうにはしているが、骨が折れたりはしていないようだった。
「だいじょぶみたいね。屋根と花畑、クッションになったのかな。運がいいね」
「ここは・・・・・・・・・?」
「五番街のスラムの教会。いきなり落ちてくるんだもん、びっくりしちゃった」
「落ちてきた・・・・・・・・・」
「うん。さっきも上の方でなんか音してたけど、なにかあったの?」
青年は額に手をあてたきり、何も言わなかった。そして言葉の代わりに、ひょいと肩をすくめた。
 エアリスはそのしぐさに、どきりとした。−−−−やっぱり、どこか、似てる。
「また・・・・・・・・会えたね」
「また?」
「おぼえていないの?」
青年は小首をかしげながら、彼女を見つめた。そのしぐさにも、エアリスはなつかしいものを感じた。
「・・・・・・・・ああ、そういえば・・・・・・・・。覚えてるさ。−−−−−花を売っていたな。八番街で」
「あっ!うれしいな〜〜〜〜!」エアリスの顔に笑みがこぼれた。「あの時は、お花買ってくれて、ありがとね」
 あの時−−−−近くで響いた爆発音に混乱していた八番街で、彼女の方から彼に声をかけたのだった。人々が右往左往する中、なぜかひとりだけ落ちついた様子で歩いている彼に、何があったのか聞こうと。
 そして気がついた。彼も魔晄の瞳を持つ者だということを−−−−あの人と、同じ。
 あの時は、なんとなくそのまま別れてしまったけれど、あとですごく後悔した。もう少しお話しすればよかったのに、と。
 そしてこうも思った。ソルジャーなんて何人でもいる。だけど、あの人みたいないい人が他にいるはずがないんだから、と。
 だけどやっぱり、また会えて、うれしかった。登場のしかたは、すっごくヘンだったけど。
 今度はこのままさよならしたくない−−−−!
「ね、いろいろお話ししたいんだけど、どうかな?せっかく、こうしてまた会えたんだし、ね?」
「−−−−−ああ、かまわないさ」
彼は肩をすくめた。
「よかったあ!・・・・・・・・あ!そういえば、まだおたがい名前、知らないね。わたし、エアリス。・・・・・・・・あなた、は?」
「俺は・・・・・・クラウド、だ」
「クラウド・・・・・。クラウドって言うの。ふ〜〜〜〜ん」
 −−−−−バカみたい。わたし、何を期待してたんだろ。
 あの人と同じ、魔晄の目。
 あの人に似た、しぐさ。
 だけど、あの人は黒髪だった−−−−−ザックスは。



×××



「ね、どこへ行って遊ぶ?チョコボレース?それとも、バトルスクェアの方が好き?」
クラウドは肩をすくめた。
「もう!−−−−−あ、わたし、ワンダースクェアに行きたい!あそこ、おもしろいゲームがいっぱいあるって。ケット・シーが言ってたよ」
 かなり夜も遅くなっていたが、ワンダースクェアにも人がおおぜいいた。昼間は家族連れの姿も見かけるが、この時間はカップルばかり。
 だけど、わたしのクラウドがいちばんステキだもん。エアリスはクラウドの腕をしっかりと抱きしめた。
「わあ〜〜〜〜〜、ほんとにおもしろそう。どれやろうかなあ・・・・・・・・。あ!ねえねえ、クラウド、これがいい!」
 エアリスの目にとまったのは、ワンダーキャッチャー。
「このモーグリのぬいぐるみ、かわいい。ね、クラウド、これ取って!」
「俺が・・・・・・・・・?」
「そう!−−−−これ、やったこと、ない?」
「・・・・・・・・ない」
「そう。でも、クラウドなら簡単にできるよ!反射神経いいから」
「まいったな・・・・・・・・・・」
クラウドは苦笑いしながらも、エアリスに言われるままにコインを機械に入れた。
「あ・・・・・・、もうちょっと右・・・・・・・うん、そこそこ。もうちょっと・・・・・。あ!・・・・・・・・・あ〜あ、落ちちゃった」
目当てのぬいぐるみは、もう少しと言うところでアームから転げ落ちた。
「失敗したな・・・・・・・・。でも、だいたいやり方はわかった。もう一回やってみるか」
 アームがふたたび動きだす。
「きゃ〜〜〜、クラウド、がんばって!うん、それそれ・・・・・・・・あ!あ〜あ」
アームは今度は、ぬいぐるみをかすめただけで元の位置に戻ってしまった。
「う〜ん・・・・・・・・。よし、もう一回!今度こそなんとか取ってやる!」
 −−−−−うふふ、ムキになっちゃって・・・・・・・・・。なんか、かわいいなあ。
そんなクラウドを見ているのが、エアリスはうれしくてならなかった。
 最近のクラウドは、何か考えこんでばかりいる。それもしかたがないことだというのは、エアリスも十分わかっていた。
 −−−−−だけど、あまり思いつめないでね、クラウド。
 その時ふっと、クラウドの横顔を何かが通りすぎた。
 −−−−−あっ、また・・・・・・・・・。
 それはつかむ間もなく、一瞬のうちに消えた。
「クラウド・・・・・・・・・・」
「ん?なんだ?」
「えっと・・・・・・・。あ、あのね、あれなら取りやすくない?」
 −−−−−あまり思いつめないでね、クラウド。あなたが・・・・見えなくなってしまいそうだから・・・・・・・・・。
 何度も失敗し、繰り返し挑戦するうちに、アームは中のぬいぐるみをしっかりとつかんだ。景品の出口にアームが動いていくのをふたりは息をつめて見守った。
「よし!取ったぞ!」その声とともに機械からころげ出てきたぬいぐるみは、黄色だった。「・・・・・・チョコボだけど」
「うんうん、いいの。チョコボもかわいい。クラウド、ありがと」
エアリスはにこにこしながらぬいぐるみにキスした。クラウドは気恥ずかしそうに頭をかき、くるりと背を向けた。
 ザックスもそんなとこがあったなあ−−−エアリスはふと思った。いつもかっこつけてて、それがよく似合うんだけど、時々子供っぽいところが顔を出しては照れくさそうにする。
 ザックス−−−−−わたしが初めて好きになった人。
 彼に初めて会ったのも、クラウドと同じ、八番街の劇場の前だった。




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