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作戦完了!・2




 10日後−−−−−ジュノン。
 ザックスは、表向きは一般兵士として、ジュノン空港の警備にあたっていた。ソルジャーの身分を隠しての極秘任務。ウータイにソルジャーが動いていることを悟られないよう、一般兵の制服を着、髪の色を変え、ソルジャーの特徴である魔晄の瞳もカラーコンタクトで隠して。
 まだ本当に一介の兵士だった頃も、こうしてジュノンの海を見ていた。3年前、「ソルジャーになる!」と言って故郷を飛び出し渡ってきた海を。
 ソルジャーになるというのは、田舎から出てくる口実にすぎなかった。ろくな仕事もない退屈な故郷の村からいずれ出て行こうとは考えていたが、なんとなくきっかけがつかめずに毎日を過ごしていた。
 その頃だった。膠着状態に陥っていたウータイとの戦いを、神羅優勢に動かしていった若きソルジャー・セフィロスの話がたびたび人の口にのぼるようになったのは。俺とたいして年が違わんのにすごいヤツがいるもんだな−−−−そう思うと、それ以上どイナカでくすぶっていられなくなり、父親と大ゲンカの末、家出同然に故郷を後にしたのだった。
 しかし、それほど悲壮な決意をもって神羅軍に入ったわけではなかった。たとえ一兵士のままだったとしても、それなりに刺激的な生活が送れればそれで満足していたかも知れない。
 しかしそれが、本当にソルジャーになり、今はあのセフィロスが直々に指揮する任務についている−−−−−なんだか変な気分だった。
 ソルジャーになってすぐ、自分でも知らぬうちに、セフィロスに自分を印象づけてしまっていたことも。
 でも、事実そんな感想を持ってしまったんだから、しょうがない。
 セフィロスに初めて会ったのは、確かにソルジャーの辞令を受けた時だった。
 自分と同期の新人ソルジャー10人の前に立ったセフィロスは、噂どおり存在感のある男だった。実力に裏付けられた自信、人を寄せ付けぬ迫力−−−−−だが、それは仮にも軍隊のトップにある人間ならあたりまえのこととして、ザックスは特に感銘を受けはしなかった。それよりも、セフィロスの端正な顔だちや輝く銀の髪の方に目がいってしまったのだ。写真とかでなかなかの美形だとは知っていたが、間近で見るといちだんと−−−−−。
 そして、私語が許される雰囲気になった時、ザックスは誰にともなくつぶやいたのだった。「しかしまあ、あれほどの美人が神羅軍精鋭部隊のトップとは。これはそーとーモテるに違いない。俺もがんばろ」。
 まさか、あれを聞かれていたとはね・・・・・・・・。まいったな。別に、腹をたてているわけではなさそうだが。
『唯一のクラス2NDとはいえ、それは失敗の言い訳にはならん』
ふと、セフィロスのそんな言葉がよみがえった。
 いじわるにしては、本当に失敗の許されるものじゃないからなあ・・・・・・・・。俺、マジで見こまれてるんだろうか?セフィロスの関心を呼んだきっかけがなんであれ。
「−−−−−おい、ルディ、なにをぼんやりしている?」
ルディ、というのが今の自分の名前だというのをザックスが思い出すのに、一瞬の間があった。
「あ・・・・・・・・っと、すいません」
「もうすぐ補給部隊のゲルニカが到着する。さっさと配置につけ」
 やがて2機のゲルニカがジュノン空港に着陸した。表向きの任務である機体の整備のためゲルニカの機内に入ろうとした時、ザックスは見覚えのある男とすれちがった。
 元ジュノン駐屯部隊−−−現在は補給部隊の−−−隊長だった。
 なぜ今ごろ、隊長自らジュノンに出向いてくるんだ・・・・・・?
 ザックスは疑問に思ったが、今は彼に身分を明かすわけにはいかない。ザックスは彼のことを気にしながらも整備業務にとりかかった。

×

 そしてその夜、定時報告の時、ザックスはセフィロスに訊いた。
「何か特別なものの輸送予定でもあるんですか?」
「なぜそんなことを聞く?」
「補給部隊の隊長自身がジュノンに来ています。この時期に隊長が任地を離れるのはよほどのことじゃないですかね?」
セフィロスは上目がちにザックスを見ると、少しの間があったのち、答えた。
「・・・・・・・・そのとおりだ。魔晄ジェネレーターを前線に輸送する」
「魔晄ジェネレーター?」
「簡単に言えば、小型の発電機だ。というより、本来はその目的で開発が始まったものだ。それを兵器開発部の連中が横取りしてな。途中から大型火器の動力源として研究された。そして、ようやく実用化のめどがついたところで、戦争終結の気配が見えてきてしまった。しかし、そいつをどうしても実戦に投入したいバカどもが、ウータイがしつこくねばっているうちに、と上の連中にねじこんだらしい」
「どのくらい威力のあるものなんですか?」
「さあな。しかし、実験データから推測して、ウータイの街ひとつくらいは1日もあれば丸焼きにできるそうだ」
「・・・・・・じゃ、その情報がウータイ側に流れていたら・・・・・」
「そういうことだ。ウータイ侵攻作戦が始まってから10日。もうぼろぼろのはずの敵がいまだにがんばっているのは、たぶんジェネレーター奪取計画の結果を待っているからだろう。輸送準備が整うまで2日、現地での整備に3、4日かかる。それまでにウータイが降伏すればそれでよし、そうでなければ・・・・・・・・。技術屋どものくだらんエゴで無意味な殺戮が行われるか、魔晄ジェネレーターを手に入れたウータイが反撃に転じるか、どちらかだな。もっとも、ジェネレーターを奪われたところでそれが即ウータイに使いこなせるとは思えないが、戦争終結がまた延びるのだけは間違いない」
「ふん・・・・・・・・」
「どうした?何か言いたそうだな」
「なんでもないっす」
「しかし、他の何かを狙っている可能性もないわけじゃないからな。そればかりに気を取られるな。今、ジュノンにある危険物はそれだけじゃないんだ。たとえば・・・・・・神羅カンパニー社長とか、な。今ここに来ていることくらいは知っているな?」
「わかってますよ。−−−−−報告は以上です。失礼します」
ザックスは不機嫌そうに司令室から退出した。
 ジュノン兵舎内の自分の部屋に戻る間、ザックスはむかむかしてならなかった。
 今度の任務への抜擢−−−−こいつは絶対いぢめだぜ!
 ミッドガルとジュノン−−−−2カ所の重要拠点の極秘警護。もう一方に何か起こっても簡単には駆けつけられない距離にある2都市のうち、ジュノンの方に御大セフィロスが腰を落ち着けたからには何かあるとは思っていたが−−−−−。
 新兵器の存在。それがセフィロスがジュノンにいる理由。
 しかし、俺はそれを知らされてない!
 その結果、俺の失態で何かあったらどうするつもりだったんだ?
「くっそ〜〜〜、こうなったらアイツのウラをかいて、なにがなんでも戦果をあげてやる!!」



×××



 そして次の日の夕方。
「ウラをかいてやる!」などといきまいてはみたものの、一夜明けてみればすっかり頭が冷えていた。セフィロスの考えがどこにあるのかは知らないが、自分に情報を与えなかったのはそれなりに理由があってのことだろう、と。あくまでも黙っているつもりだったのなら、昨日どんな問いをぶつけたところで何も答えはしなかったに違いない。
 それでも。
 全部納得してしまうのもしゃくだった。
 そしてザックスは、その日の配置場所を空港格納庫の担当兵士とこっそり変わってもらったのだ。明日早朝の輸送に備えて、その日のうちに魔晄ジェネレーターが空港の方に移動されると聞きつけて。
 日の落ちる頃、3個の木箱が格納庫に運ばれてきた。
 これがそうか・・・・・・。表向きは一般兵のザックスにはそれが何かの説明はなかったが、それが非常に重要なものであることだけは教えられた。そして警備に、ふたりのソルジャーがついていた。
 その箱は思っていたより小さかった。人の身長より少し大きい程度だった。こんなもの2つや3つで本当に街を壊滅させられるんだろうか・・・・?疑問に思ったが、見かけがそんなものだからこそ危険なものなのだろう、とも思った。そして実験通りの結果が実戦で出るのならば・・・・・・ウータイには早く降伏してもらいたかった。それが自分の仕事だからとウータイと戦ってきたが、彼らが地上から消滅してしまうまで叩きのめすのは本意ではない。
 そのためには、ウータイに魔晄ジェネレーターを奪われた方がいいのだろうか?それとも、奪取計画が失敗に終われば彼らはそれを最後に戦いをあきらめるつもりなのだろうか?
 ザックスは首を振った。ここでそんなことを考えていてもしょうがない。ウータイがジェネレーターを狙ってくると決まったわけじゃないし、たとえそうだったとしても−−−−−自分はこれを守るだけだ。
 今回輸送されるのは魔晄ジェネレーターだけではない。食料や通常兵器もいっしょに運ばれる。それらも次々に搬入され、先にゲルニカに積み込まれた。そして最後の荷物と共に補給部隊の隊長が現れ、ゲルニカに乗り込んだ。この夜をそこで過ごすことになっているらしかった。
 一連の作業が済むと、格納庫に静かな夜が訪れた。
 しかしその夜、事件は起こった。

×

 真夜中を過ぎた頃、警備のソルジャーが持つPHSが鳴り出した。それと同時に、ザックスのもかすかな音をたてて彼を呼んだ。ザックスは他の兵士たちに気づかれないよう、こっそりとそれに応答した。
『緊急連絡だ』彼とチームを組んでいるクラス1STのソルジャーの声が聞こえてきた。『ミッドガルでウータイが動いた。社長令息ルーファウスが誘拐されそうになった』
「なんですって?!」
『幸い未遂に終わったが、犯人には逃げられた。準備が出来次第、社長がミッドガルに向かう。それにともない、空港の警備を強化する。至急ジュノン空港第2滑走路口に集合するように』
 ジェネレーター警備のソルジャーのうちひとりが格納庫から出ていった。彼にもなんらかの命令が下されたらしい。
 ザックスも指定の場所に向かおうと、きびすを返した。しかし2、3歩足を進めたところで、ふと立ち止まった。
 何か、変だ。
 ルーファウスといえば、確かまだ14、5の子供。ガキを盾にして戦うのがウータイのやり方だったか?
 そんなことはない。ウータイ忍者は誇り高い戦士たちだ。だからこそたとえ世界で孤立しようと、自分たちの文化と伝統を守り、今まで神羅と戦ってきた。
 ずっと前線で彼らと対峙してきたザックスは、そのことをよく知っていた。
 だから、何か−−−−−違う。
 その時、格納庫の中で何かが落ちる音がした。
 彼がそちらの方を振り向くと、今また兵士がひとり倒れるところだった。ジェネレーターの箱のそばに、すでに何人かの兵士たちがころがっていた。ひとり残っていたソルジャーも。
 そして数人の見慣れない服を着た男たちが木箱を移動しようとしていた。
 ウータイ??
 やはり彼らの狙いはこれだったのか?ミッドガルでちょっとした事件を起こし、こちらの目が別の方向を向いているうちにジェネレーターを奪おうと?
「くそ・・・・・・・・・・っ!」
ザックスは銃をかまえ、天井に向けて一発発射した。
「ウータイ戦士たちに告ぐ!無駄なことはやめろ!」
 それが合図だったかのように、残っていた兵士たちが一斉に乱入者に銃を向けた。彼らはすぐさま木箱の陰に隠れた。重要な物資の入った箱に向けて発砲するわけにいかず逡巡している間に、敵の手裏剣が次々と兵士たちを襲った。ひとり、またひとりと倒れていく。ゲルニカの中からも兵士たちが出てきたが、彼らもまたタラップから降りることもかなわずに倒されていった。ザックスは自分に向けて投げられた手裏剣を銃身で次々に叩き落としながら、ゲルニカ前脚の陰に飛び込んだ。そしてどう攻撃すべきか考えた。武器は一般兵用の銃だけ。あとは・・・・・・・・マテリアが3コ。
 どこかから、銃声が響いた。ウータイ戦士がひとり、膝をついた。
「隊長??」
ゲルニカのドアの陰に、銃をかまえている補給部隊隊長の姿が見えた。
 ウータイ側の動きが止まった。互いに相手の動きをさぐりあい、緊迫した空気が格納庫に満ちた。
 先に次の動きを見せたのはウータイだった。ひとりが傷を負った仲間の方へと走り寄った。補給部隊隊長の銃が、すかさずその男を狙った。
 同時に木箱の反対側からもうひとり、飛び出してきた。
「だめだ!隠れろ!」
ザックスは叫んだ。しかし、間に合わなかった。その男が投げた手裏剣は狙い違わず隊長の腕を切り裂いた。銃が暴発し、弾は天井のどこかではねかえった。次の手裏剣が間をおかず隊長を襲う。
「くそっ・・・・・・・・・!」
ザックスは物陰から飛び出し、隊長を傷つけたウータイ忍者に向けて魔法を唱えた。
「ブリザド−−−−−!」
その男は強烈な冷気につつまれ、木箱にもたれかかるように崩れ落ちた。そのすきにザックスはタラップを駆け上がってゲルニカに乗り込み、ドアを閉めた。
「隊長!隊長!!しっかりしてください!!」
ザックスは彼にケアルをかけた。出血が少し減り、彼はうっすらと目を開けた。
「・・・・・・・・・・誰だ?」
「俺です、ザックスです!わかりますか??」
ザックスはカラーコンタクトをとっぱらい、魔晄の瞳をさらした。
「ザックス・・・・?なぜこんなところに・・・・それより・・・・・・私は大丈夫だ。倒れた時にちょっと頭を打っただけで・・・・・・・・」
「よかった・・・・・・。他にまだ無事な者はいますか?」
「いや・・・・・・。こんなところから攻撃しようとしたのでは、向こうの恰好の標的になってしまった」
「外にいた連中も全滅ですよ。ふたりだけではなんとも・・・・・・。隊長、これを」ザックスはそう言って、『かいふく』のマテリアを彼に差し出した。「その辺の連中でまだ息のあるのをなんとかしてやってください。使い方はわかりますね?それから、PHSは?」
「それが・・・・・なくなっていた。ゲルニカの通信機も使い物にならん。やつら、あらかじめそこまで手を回していたらしい」
「じゃ、これも」ザックスは自分のPHSを渡した。「それで応援を呼んでください。それまで俺がなんとかします」
「ひとりでか?無茶だ!!」
「無茶でもなんでも、ジェネレーターを奪われるわけにはいかんでしょうが!」
ザックスはそう叫ぶと、ひとり外に飛び出していった。
 ウータイ忍者たちは、もう一機のゲルニカにジェネレーターを搬入する作業中だった。ひとつはすでに積み込まれ、2つ目がゲルニカの中に吸い込まれようとしていた。
「搬入作業の手伝い、ごくろうさん。−−−−−しかし、その箱はそっちじゃなくてこっちのゲルニカに積む予定なんだけど、な」
 ここにいるウータイ忍者の数は、5人。
 1対5、か。下っぱどもならともかく、こいつら相手では−−−−−。
 ここにいるのは多分、ウータイでも一番の戦士たち。
 剣はない。銃は苦手だ。マテリアも、ろくなのを持っていない。それでウータイの精鋭たちとやりあおうってのは間違ってるよな。
 ま、いいか。せいぜいハデにやってやる。
 ザックスは銃をかまえた。
 ウータイ忍者たちは、いっせいにザックスをとりかこんだ。
 ザックスは銃をそのうちのひとりに向けながら、ポケットの中のマテリアを握りしめた。敵がひとり、炎につつまれよろめいた。同時に手裏剣がザックスの頬をかすめる。
 銃を撃ちまくりながらコンテナの陰に隠れる。誰にもあたることなく、弾は切れた。あと−−−−4人。いや、やはりまだ5人いる!魔法の炎を浴びた敵も、多少は傷つきながらもまだまだ戦えるようだった。
 こんなくずマテリアだけではどうしようもないか−−−−いちかばちか、ザックスは倒されたソルジャーが持っていたバスターソードを拾いに走った。
 手裏剣が耳元でうなる。身を隠すものひとつない空間をザックスは駆けぬけた。剣さえあれば−−−−まだ勝てる!
 しかし、剣の柄に手が届こうというところで、ウータイ忍者がバスターソードを踏みつけた。そしてザックスの目の前に、小柄が突きつけられた。
 万事休す−−−−−!
 その時。
 格納庫の照明すべてがついた。広い空間がすみずみまで照らされる。
 そして扉という扉から十数人のソルジャーたちが突入し、ウータイ忍者たちを取り囲んだ。
「そこまでだ」セフィロスがゆっくりと前に進み出た。「これ以上抵抗せず、投降してもらいたい。生命の保証はする」
 リーダーらしき男が、他のメンバーに目配せした。彼らは引き際というものを知っていた。作戦が失敗に終わったとわかると素直に降伏勧告を受け、おとなしく連行されていった。
 ザックスには、いったい何が起こったのかよくわからなかった。ただ、これで助かったんだ、ということを理屈ではなく、感じていた。彼はすっかり気がぬけ、その場にへたりこんでしまった。
「−−−−−おい、ザックス。こんなところで何をしている。腰でも抜けたか?」
気がつけばセフィロスが横に立っていた。ザックスは顔を真っ赤にして、はじかれたように立ち上がった。
「そ、そんなこと、ないです!!」
「まあいい。無理するな。−−−−−ごくろうだった。今日はもう休め。明日、いつでもいい、好きな時間にオレの部屋に来い」
 セフィロスはそれだけ言うと、他のソルジャーたちに指示を飛ばし始めた。



×××



 翌日。
 ザックスは昼をずっと回った時間になってセフィロスの部屋へ出頭した。
「遅かったな」
「好きな時間でいい、とおっしゃったので、目覚ましはかけずに目が覚めるまで寝てました」
「そのわりには、熟睡した、という顔じゃないな」
ザックスは反論できなかった。セフィロスの言うとおりだった。後のことはいいから帰れと言われ、負傷した補給部隊長について病院に行った。そして彼の病室の予備のベッドで横になっていたものの、明け方に少しうとうとしただけだったのだ。死者が数人出た戦いだったにもかかわらず、隊長の傷は比較的軽くて済み、眠れないほど心配なわけではなかったはずだが。
「昨夜は本当によくやった。社長令息誘拐未遂のことを聞いてすぐ、ジュノン配備のソルジャー全員を招集して格納庫に向かったが、あれほどまでにウータイの行動が早かったとはな・・・・・・。おまえがくいとめていなければ、間に合わなかったかも知れん」
 応援が駆けつけるのがいやに早いと思ったら・・・・・・やっぱり俺が考える程度のことはセフィロスも気がついている、ということか。
「しかし、ひとつだけ聞いておきたい。なぜそんなに早く、格納庫に駆けつけられた?集合命令を出したのは別の場所だったし、第一あの時間、おまえは非番扱いのはずだったんだが?」
 ほら、おいでなすった。
 昨日の夜中、本当ならば宿舎で寝ているはずだったのだ。
 それがウータイ襲撃の場にいたのは招集命令が出た後、ルーファウス誘拐行動に疑問を持ち、考え込んでぐずぐずしていたのも理由のひとつだが、それ以前に−−−−−。
 単なる好奇心から魔晄ジェネレーターを見たくて勝手に勤務を代わってもらい、格納庫に最初からいました、なんて言えるはずがない。
 だから、来たくなかったんだよな、ここ。
「話したくない理由でもあるのか?」
「俺が自分から言わなくても、わかってるんじゃないですか?」
ザックスはようやく口を開いた。
「ふん・・・・・・・・・。まあ、いい。聞かないでおいてやる。−−−−−しかし、無謀な行動は見逃せないな。我々の到着が遅れていたら、どうするつもりだったんだ?」
 本当に、どうするつもりだったんだろうなあ・・・・・・・・・。あのまま戦死するつもりだったんだろうか、俺?ウータイが無意味に焼かれるくらいなら・・・・・・・なんてことも考えていたくせに。
「まただんまりか・・・・・・・・。もう少し胸をはったらどうだ、ザックス?今度の作戦の功労者はおまえなんだぞ」
「だからといって、全面的に称賛しているわけではないでしょーが」
「やっぱりおまえはただのバカではないようだな。−−−−バカであることに変わりはないが。我々があと少しでも遅れていたら、どっちにしろジェネレーターは奪われていたんだぞ。おまえが死のうが死ぬまいが、な」
ごもっとも。
「まったく、無茶なことをする。あれがウータイの手に渡ったからと言って、神羅が負けると決まったわけじゃない。むしろ・・・・・・・・・。だから、潜入者を釣り上げやすいように、と情報のリークをしていたくらいなんだがな」
「リークって・・・・・・。じゃ、わざと新兵器の情報をウータイに流していたってんですか!!」
「まあな。唯一の誤算は、連中がカムフラージュにミッドガルでも騒ぎを起こしたこと、か。おかげで一応それへの対応もしなければならず、こちらの行動が少々遅れてしまった」
「つまり、俺は・・・・・・・・そのせいでヘタしたら死んでいたってことですか!!」
「それはおまえの勝手だ。文句があるなら、なぜあそこにいたのか言ってみろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「言えないのなら、反論は許さん」
「わかりましたよ。もうなんにも言いません」
「そうか。まあ、それもいいだろう。−−−−とにかく、これで戦争は終わる。ジェネレーター奪取が失敗に終わったことを知り、ウータイは降伏する旨伝えてきた。戦争終結におまえも一役買った。そのことは誇りに思っておけ」
「それは、どーも」
「それも不満か。−−−−今のところ、話すことはこれだけだ。今後のことはおって沙汰する」
「わかりました。じゃ、これで失礼します」
ザックスはきびすを返した。
「ザックス」
出て行こうとした時、セフィロスが呼び止めた。
「なんすか!まだなんかあるんですか!!」
「おまえ、軍人にはむいてないな。能力があるだけでは軍隊ではやっていけんぞ。上官の命令に従って行動するのも、重要なことだ。それから、上官への態度も問題あり、だな」
「気に入りませんか、セフィロス隊長殿?だったら俺の処遇は好きにしてください。どうせこれで戦争は終わったんだ。これ以上軍にしがみついていたところで、あんたみたいにエラくなれるチャンスはもうなさそうだし」
 そう吐き捨てて、ザックスは部屋から出ていった。
「・・・・・・まったく、おもしろいやつだ」ひとりになると、セフィロスはくすりと笑った。「このオレに向かって、あのくらいずけずけと物を言うやつがひとりくらいいないとつまらんからな・・・・・・・・」



×××



 そして、終戦。
 十数年に及んだ戦争の終わったその日、ザックスは補給部隊隊長を病院に見舞った。彼の傷は順調に回復し、2、3日中には退院できそうだった。
「お互い、なんとか生きてたな」
「最後の最後で、あんなことになるとは思いませんでしたけどね」
「おまえには本当に助けられた。感謝している、ザックス」
ザックスは肩をすくめた。
「俺じゃないですよ。結局、俺ははったりをかましただけですから」
「それでも、な」隊長は微笑んだ。「それほど年をとらないうちに戦争が終わってくれて、よかったよ。今ならまだ、他の仕事を覚えるのに遅くはない」
「他の仕事って・・・・・・軍を辞めるんですか?」
「ああ。軍自体はなくならないだろうが、それでも兵士がだぶつくのは目に見えている。私はもう軍人としては出世しそうにないし、ちょうどいい機会だから転職するよ。実はもう、あてがあるんだ。友人がチョコボ牧場をやっててな。そこで世話になろうと思っている」
「チョコボか・・・・・・。いいな」
「言っておくが、レース用は飼育してないぞ」
「なんだ、つまらん」そう言ったザックスの目は笑っていなかった。「・・・・・・・・・・冗談は抜きにして、もうひとりくらい手が要りませんかね、そこ」
「どうしてだ?」
「俺もですね・・・・・・ちょっと考えちゃってるんですよ」
「おまえが?どうしてだ?おまえならまだまだ」
「それが・・・・・・、じつは、セフィロスとやっちゃいまして、ね・・・・・・・」ザックスは天井を見上げ、ため息混じりに事情を説明した。「あの時はついいきおいで言い返しちまったんですが、あとで冷静に考えてみれば、その通りなんですよね。軍隊ってのは、兵士が上官の命令どおりに動いてこそ、力を発揮できるもの。だけど俺ときたら、単独行動でつっぱしるわ、命令に納得できなきゃ反抗するわ」
「規則は破るわ」
「も〜〜〜、それは言わないでくださいよ!!」ザックスは苦笑した。「まあ、そんなこんなで、終戦後の人員整理にちょっと不安を感じていたりして、ですね」
「心配するな。おまえならなんでもできるさ。雑草みたいなヤツだからな」
「あ〜〜〜、ひっで〜〜〜〜〜〜〜!・・・・・・でも、反論できない」
ふたりは顔を見合せ、笑った。
「ま、心配してもしょうがないか。いずれなんか言われるでしょう。それから考えますよ」



×××



 終戦後の処理が少しずつ始められた。徴兵された兵士たちは故郷に帰り、職業軍人たちもかなりの数の人間が辞めたり解雇されたりして、軍を去っていった。
 そして、ザックスにも出頭命令が来た。
「これに、おまえの今後の身の振り方に関しての書類が入っている」
セフィロスはそう言って、一通の封筒を机の上に滑らせた。
 今後・・・・・・か。最後の最後でいちおう軍功をあげはしたが、セフィロスにムチャクチャを言ったのも事実だしな・・・・・・・・・。軍を辞める覚悟はできているけど・・・・・・・それでもクビってのだけはちょっとやだな・・・・・・・・・・・。
「どうした?早く開けろ」
ザックスはのそのそと封筒をとりあげ、封を切った。そして中の書類に目を通した。
 ザックスの顔色が変わった。彼は2度、3度と書類を読みかえした。
「あの・・・・・・・・・・・・・・・・・これ」
「何か不満でもあるか?」
「不満・・・・・・は、ない、ですが・・・・・・・・・。俺、マジで、昇格ですか?クラス1STに?」
「そうだ。おまえにはそれだけの資格がある」
「資格があるって・・・・・・・・隊長、俺は軍人には向いてないと言ってたじゃないですか!」
「ぺーぺー兵士には、な。しかし、クラス1STのソルジャーには向いているだろう。おまえはいちいち命令されて動くのは苦手なようだが、自分の責任に於いて与えられた任務を自分の判断で自由にこなすのはできるんじゃないか?だったらいつまでも下っぱ兵士なんかやってないで、さっさと上にあがってこい」
 クラス1ST−−−−ソルジャー最高の地位。その辞令が、今、自分の手の中にある。ザックスは信じられなかった。
「戦争は終わった。ソルジャーの使命も、今までとは変わる。しかしこれからも、ソルジャーがやらなければならない仕事は山ほどあるはずだ。せいぜい腕をふるえ」
「はい・・・・・・。ありがとうございました、セフィロス隊長!」
ザックスはぺこりと頭を下げた。
「で、あの・・・・・・・・・・それで、ですね」ザックスは胸元から封筒を出した。「これ、破っといてください」
「なんだ?」
「辞表」
ザックスはにかっと笑った。




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