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INTRODUCTION・2
Reno's Hard-boiled Story




 58区、倉庫・工場が立ち並ぶ地域。
 伍番魔晄炉に近いこの街は、エネルギー供給業務に直接は関係なかったが、プレートの上でも特に警備が厳しい一角だ。
 こんなところに何の用があるのか、かいもく見当がつかなかった。
 それも当然か・・・・・・・・。ツォンからの何度目かの連絡を受けて、レノは思った。58区と60区の境界を、例のIDの持ち主は何度も行き来しているらしい。だまされたのかも知れん・・・・・・・・そう思いながらも、次に取るべき行動が思いつかず、レノはIDセンサー設置場所の近くで張っていた。
 目の前を一台の荷物運搬用トラックが通過する。その時、センサーに反応があった。
「あれか・・・・・・・・・?」
レノは車をトラックの前に回り込ませ、トラックを止めた。
「何をするんだ!あぶないじゃないか!!」
「すまないな。これも仕事でね。中をあらためさせてもらうぞ、と」
 レノは警備担当者の身分証明書を運転手に示した。運転していたのはもちろん、手配中のソルジャーではなかった。
 運転手のIDをあらため、トラックの荷物を調べる。荷台の隅から、IDカードが見つかった。
「チッ、やっぱりだまされたか」
 トラックを行かせると、レノはツォンに報告した。
「主任、例のID、デコイだったようです。追跡からはずしてください、と」
 さて、これからどうするか・・・・・・・・・。レノは考え込んだ。だだっ広いミッドガルで、すでにここから逃げ出してしまっているかもしれないヤツをあてもなく探すのは無駄だ。かといって、本社に戻って次の情報をひたすら待つのも考えただけでゾッとする。
 車のドアに手をかけた時、レノは殺気を感じた。飛びのいた瞬間、車はまぶしい光につつまれ、爆発した。
「チッ・・・・・・・・。いるなら出て来い、脱走野郎!!」
「やっぱりタークスだな。中途半端なワナは通用しないか」
ソルジャーの男が、狭い路地から姿を現した。
「IDをオトリに使っておきながら、本人まで近くにいるとは思わなかったぞ、と」
「あれはおとりじゃない。エサだ。あんたをおびきよせるための」
「エサだと?」
「本社ビルに入りたい。タークスのIDなら、たいていのところにフリーパスで行けるんだろう?」
「本社ビルに?だったらおとなしく俺についてくれば入れるぞ、と」
「牢屋経由実験サンプルルームかあの世行き、だろう。私が行きたいのは、そんなところじゃない」
「ま、それもそうだな。だったら、前にお宅訪問した時に奪えばよかっただろうに、と」
「そうだな。・・・・・・・・・だけどあの時はそんなこと、考えてもいなかった。ミッドガルのどこかでひっそりと暮らしていられれば、それでよかった。もちろん、神羅カンパニーに不利益を与える行動をとるつもりもなかった」彼は悲しげに目をふせた。「しかし、そうさせてくれるはずがなかったな。だったら、私もいつまでも逃げているわけにはいかない」
「出頭する気になったか?だったらさっさと俺についてこい。しかし、俺はもうおまえを無傷で会社に送り届けるつもりはないからな!」
レノのナイトスティックから光が走る。ソルジャーは魔法をぶつけ、レノの攻撃をはじきとばした。
「違う。逃げるまいと私が決めたのは、ソルジャーである自分自身からだ!」
「どういうこった??」
「ソルジャーである私自身・・・・・・・・・」碧い目が狂気に揺れる。「そしてジェノバ・・・・・・・・セフィロス!」
「セフィロス、だと?」
 ソルジャーはファイガを唱えた。炎のかたまりがレノを襲う。レノはマバリアを張った。それでも相殺しきれなかった熱がレノの髪を焼いた。
「・・・・・・・・2度も3度も同じテをくうか・・・・・・・・・・・・」
ところどころにできたやけどの痛みをこらえて、レノは言った。
「言葉とは裏腹にずいぶんつらそうだな、レノさんよ。おまえさん、あのハゲと違ってマテリアの扱いはヘタクソのようだな。もう一度やってみようか?」
「やってみろよ・・・・・・・・・」
「手加減はしてやるよ。IDカードが焼けてしまったのでは本末転倒だからな」
ソルジャーはクツクツ笑いながら言った。その表情に、レノはただならぬ危機を感じた。
 こいつ、マトモじゃない・・・・・・・・・!
 ソルジャーは両手を広げた。そのてのひらの間で発したエネルギーが次々にレノめがけて飛ぶ。レノは必死になってそれをよけた。よけるのがせいいっぱいだった。コンテナの陰になんとか逃げ込み、やけどを負った腕にケアルをかける。少しは痛みがひいたが、傷はまるで小さくならない。
「チッ・・・・・・・・。やっぱり魔法はニガテだぞ、と」
 接近戦に持ち込めばなんとかできるんだが・・・・・・・・・。レノはコンテナの隅からそっと様子をうかがった。ソルジャーはレノに気づいた。次の瞬間、身を隠していたコンテナが吹っ飛んだ。
 一瞬レノは、しまった、と思った。しかし彼の身体の方は反射的にこの攻撃を自分に有利に働かせようと動いた。飛び散るコンテナの破片やその中身にまぎれて別の物陰に飛び込む。すばやい動きで次々に場所を移動し、目くらましに自分から離れた所の積み荷や建物の壁を破壊する。そしてソルジャーが彼の居場所をつかみかねているうちにレノはソルジャーの背後を取った。
 レノはソルジャーの首筋にナイトスティックをたたきこんだ。男が膝を折ったところへすかさず馬乗りになり、首を押さえ込む。
「形勢逆転だな、と。じゃ、さっさとあの世へ行ってもらおうか」
「待ってくれ、私は・・・・・・・・・!」
「命乞いか?いいかげんにしろよ、と。俺をこれだけ怒らせておいて、いまさら何を言う!」
「教えてくれ、私は・・・・・・・・・・」
 ソルジャーの顔を見て、レノはぎょっとした。
 ソルジャーの碧い目に浮かんでいたのは、涙。さっきまでそこにあったはずの狂気の色は消え、代わって哀しみがたたえられていた。
「私は・・・・・・・・何だ?」
そして彼はふっと姿を消した。レノは姿勢をくずし、地面で膝をしたたか打った。
「しまった!『りだつ』のマテリアまで持ってやがったか!」
 レノはナイトスティックをさっきまでソルジャーがころがっていた場所に叩きつけた。
 一度ならず二度までもターゲットに逃げられたのは初めてだった。
 しかし・・・・・・・あいつは何を言おうとした?
 『私は・・・・・・・・・何だ?』だと?
 誰だ、ではなくて?



×××



 神羅ビル67階。
 そこについ最近まで、「ジェノバ」と呼ばれる物体があった。
 レノがジェノバについて知ったのは、前社長が殺害されると同時にそれが忽然と姿を消したあとのことだった。それ以前はジェノバはあくまでも科学部門の管理下にあるもので、治安維持部のタークスには関係ないものだった。今でも、レノはジェノバについてたいしたことは知らない。
 そして今、ここには何もない。多数の惨殺死体が転がっていたこのフロアは今も封鎖され、残っているのは消しきれなかった血の跡だけだ。
「レノ、こんなところにいたのか」振り向くと、そこにはツォンがいた。「ここで何をしている?病院には行ったのか?」
「行きましたよ。いざという時にマトモに動けないんでは、話になりませんからね、と。で、落ちついたら、ヤツが『ジェノバ』と言っていたのが気になりましてね」
「ここに来ても、しかたがないんだがな」
「それはヤツもわかっているはずだ。ジェノバが消えたのはヤツが脱走する前のこと。コンピュータのデータはそう簡単にのぞけるものじゃない。宝条博士は辞表を残して姿を消した。−−−−しかし、ヤツの目は、そんな理屈なんか通じそうにない熱を帯びていた。・・・・・・・・・そう思いますよ、と」
「レノ。脱走ソルジャーの思惑が何かはわからないが、あまり首を突っ込まない方がいい。『ジェノバ』は科学部門のトップシークレットだ。私ですら、あまり情報を与えられていない」
「わかってますよ、と。俺はちゃんと、俺の役割というヤツをわきまえてます。俺の任務は、あいつを連行すること、または殺すこと。すべてを知っている上の連中がそうすべきと判断したんですから、俺は与えられた仕事をこなすだけだ。−−−−ですがね、主任」
「なんだ?」
「この件についてはいずれ、いやでもいろいろと知らざるを得なくなるような気がしますよ、と」
「・・・・・・・そうかも知れんな」
 ツォンのPHSが鳴った。彼は短い会話の後、レノに言った。
「現れたぞ、レノ。今度は12区、すぐそばだ。今、兵士が追っている」
「わかりました。すぐ行きます・・・・・・・・と」
レノはエレベーターホールに足を向けた。
「レノ」
「そうだ、主任、追っかけてる連中に、ヤツを追い詰めるだけで絶対に手を出すな、と言っといてくださいよ、と。あいつは俺の獲物だ」
「レノ・・・・・・・・。無茶だけはするなよ。おまえに何かあったら、悲しむのはルードだ」
「はいはい、わかってますよ、と」
 ルードは、一時の危険な状態は抜け出したが、いまだに昏睡状態だった。
 早く意識を取り戻してくれ、レノはそう願っていた。
 が、もうしばらくは目覚めないでいて欲しい、そんな気持ちもほんの少しだけ、あった。



×××



 脱走ソルジャーは追っ手から逃れて、6番街スラム行きの列車に飛び乗った。
 すぐさま列車は緊急停止されたが、兵士達が現場にたどり着いたのはすでにどこかへ逃げ出してしまった後だった。
「で、現在の状況は?・・・・・・・・と」
列車のところで追跡の指揮を取っていたソルジャー3RDにレノは訊いた。
「考えられる限りの逃亡ルートを探索しています。線路に沿って6番街スラム方面、0番街方面、プレート下部に抜ける保守作業用通路5個所。IDセンサーの数を倍に増やしていますが、今のところどこにもひっかかっていません」
「探しているのは、それだけか?」
「それだけしかルートはありませんよ。そして、どこから逃げてもセンサー設置地点を通れば、IDの正規・偽造を問わず警報が鳴ります」
「本当にそれだけしか人をやっていないんだな?ならまだ一カ所、抜け道があるぞ、と」
 レノは列車から飛び下りると、0番街方面に向かって線路を戻り始めた。
「レノさん、どちらへ?そちら側のルートもすでに兵士が向かっていますが」
「7番街スラムへの分岐点がある。そっちへは誰も行っていないんだろう、と」
「しかし、そこは途中で崩れて通行できませんが」
「通ろうと思って通れないわけじゃないはずだぞ、と。命がかかってるんなら、この上なく楽な道のはずだ。なにしろ、人もいなけりゃセンサーもないんだからな、と」
「・・・・・・・・すみません。すぐにそちらにも数名向かわせます」
「いい。俺が行く。誰もついてこなくていいぞ、と」
「しかし、もし本当にそちらに逃げていたら、ひとりでは危険です!」
「おまえ、そっちに逃げているはずがない、とたった今言ったところじゃないのか?!」レノは指揮官をにらみつけた。「他でヤツが見つかったら、俺にすぐ連絡をよこせ。ただし、追い詰めるだけで、絶対につかまえたり殺したりするなよ、と。殺さなければならないくらいなら、逃がしちまえ。それから・・・・・・・・・・。もし、2時間たっても俺が戻ってこなかったら、探しに来い」



×××



 真新しい列車止めと、立ち入り禁止の看板をふたつばかり越えると、そこで突然床がなくなり、線路はがれきの山へと落ち込んでいた。
 そこは、かつて7番街スラムと呼ばれた場所のなれの果て。神羅カンパニーに反抗するテロリストグループ・アバランチを壊滅させるべく、上層部の命令に従ってレノが破壊した街だ。
 そしてアバランチは事実上壊滅した。しかし、主要メンバーは崩壊する街からかろうじて脱出し、彼らもまた、どこかでセフィロスを追っていると聞いていた。
 セフィロス・・・・・・・また、セフィロスか。
 そういえば、アバランチと行動を共にしている金髪のツンツン頭−−−名前はなんと言ったっけか−−−あいつも、元ソルジャーとか言っていた。
 そして、今追っているソルジャー・クラス1ST。
 だいたいセフィロスからして、かつては英雄と呼ばれるほどのソルジャーだったという。レノがタークスになった時にはすでに任務中に死亡したことになっていてよくは知らないが、今でもおりにつけて語られる、伝説のソルジャー。
 その幽霊が現れたとたん、前社長の殺害を皮切りに、何もかもが動き出した。
 これからタークスとして自分が何を見るのか、今のレノにはわからなかった。
 しかし、今後がどうあれ、今なすべきことは、手配中のソルジャーを殺すこと。
 レノは曲がりくねった線路や鉄筋をつたって、廃墟へと降りていった。何もかもめちゃくちゃになっていたが、意外なほど足場はしっかりしていて、それほど苦労することなく下に降りることができた。
 あいつはここに逃げ込んでいる・・・・・・・・・。がれきの上に降り立った時、レノのカンがそうささやいた。




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