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PROMISE〜約束〜(2)
- CRISIS CORE Version -




 しばらくして、岩山の向こうから車のエンジン音が聞こえてきた。それはやがて遠ざかり、消えた。
 風の音だけが聞こえる荒野の中に、クラウドはひとり取り残された。
 あの時と同じように。
 クラウドはふらりと立ち上がると、シスネが花束を置いた場所によろめきながら歩み寄った。そしてそこに、うずくまるように倒れ込んだ。
 ザックス・・・・・・・・!
 クラウドは今、記憶を取り戻していた。
 すべてをではない。1年近い逃亡の旅のことも、少しは思い出した。しかしそれは、思い出したうちに入らないような断片ばかり。
 しかし、3年前の今日、ここで起こったことだけは、鮮明に脳裏によみがえっていた。
 ザックスは・・・・・・・そこにいたから、友だちだから、ただそれだけの理由で、何ヶ月もの間、俺を連れて神羅から逃げてくれた。息をしているだけのような状態の俺はどんなにか足手まといだっただろうに、それでも最後まで守ってくれた。
 あの日も、俺だけでも逃げ延びてくれと願ってのことだろう、俺を岩のすきまの奥深くに隠し、ひとり神羅兵の群れに立ち向かっていった。
 そして俺に、夢と、誇りと、バスターソードを託して、逝った。
 あんたが俺に残したかったのは、あんたの想い。そしてあんたが望んだのは、あんたの想いを胸に、俺が俺自身として生きていくことだったはずなのに・・・・・・・。
 俺は、ひどい間違いを犯してしまった。
 俺は、あんたの存在を奪い取り、あんたそのものになろうとしてしまった。
 そして、あんたという人間がいたことすら記憶から消してしまった。
 それだけじゃない。
 俺は、あんたのソルジャー・クラス1stの能力だけは確かにこの身に受け継いでおきながら、あんたが命がけで会いに行こうとしていた恋人まで、死なせてしまった−−−−−−!
 泣きたかった。ザックスにあやまりたかった。
 しかし、涙の一粒も、わびの言葉ひとつも、クラウドには出せなかった。
 簡単に泣いて許しを請うなんてことはできなかった。
 俺は、これ以上ないほどひどい形で、あんたを裏切った−−−−−−!



×××



 クラウドがカームに着いたのは、真夜中を過ぎてからだった。
 本当はもう誰にも会いたくなかった。しかし、このまま行方をくらましたらあの女性にいらぬ心配をかけてしまう、そう自分に言い聞かせ、無理矢理車をカームに走らせた。
 シスネは、宿のロビーで彼を待っていた。
 彼女は一瞬ほっとした表情を見せたが、クラウドの憔悴しきった様子に再び顔を曇らせた。彼女は彼に部屋の鍵を渡し、場所を教えると、また明日ね、とだけ言って、自分の部屋に戻った。
 部屋に入るとクラウドは、上着だけ脱ぎ、ベッドにころがった。
 疲れ切っていた。しかし、眠れそうにはなかった。
 窓から入るかすかな光を映す天井を、クラウドは見るともなしにぼんやりと見ていた。
 俺は、どうしたらいいのか。
 あの日を取り戻すのは、つらいことだとわかっていた。覚悟もしていた。
 そのはずだった。
 しかし、こんなにもつらいとは思わなかった。
 心が凍りついていくようだった。
 最後に見たザックスの顔が、穏やかな笑みを浮かべたその顔が、目の奥に張りついて離れなかった。
 俺は、これから、どうしたらいいのか。
 その答は、どこにもない。
 あるはずがない。
 俺が奪い取ってしまったものを返すべき人は、もうどこにもいない。
 それこそが俺が、受け止めなければならなかった事実。
 だけど、それだけでは終われない。
 次に、俺は、どうしたらいいのか。
 答の見つからない問いと、ザックスとの思い出とが、どこにも行き場のないまま繰り返し繰り返し、クラウドの頭の中を巡り続けた−−−−−。



×××



          ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クラウド
      ・・・・・・・クラウド。
 クラウド、起きろよ。
 −−−−−−−−ザックス?
 ・・・・・・どうしたんだよ。いつも、いくらゆさぶってもこづいても起きないあんたが俺を起こすなんて・・・・・・・・。
「おい、クラウド、とっとと起きろって」
「ザックス?!」
クラウドは飛び起きた。ベッドの脇に、ザックスがにやにやしながら立っていた。
「よ。やっと起きたか」
「ザックス・・・・・・・あんた、どうして・・・・・・・・・・・」
「俺だって、起こされるばっかりじゃなくって、たまにはおまえを起こすこともあるんだぞ。どーだ、まいったか」
「いや、そうじゃなくって・・・・・・・・」
「ん?これ?私服なのがそんなに珍しいか?」ザックスは着古したTシャツの胸元をつまんだ。「んなことねえだろ。非番の日にいっしょにメシ食いに行ったり遊びに行ったりしたのは1度や2度じゃないだろが。まあ、これからナンパしにってわけじゃないから、テキトーなカッコしてるけどさ」
「だから・・・・・・・そうじゃ・・・・・・・・・・・・」
「まあまあ。あんまし深く考えるな。なんでもいいからとっとと来いよ」
ザックスはきびすを返すと、すたすたとドアの方へと歩き出した。
「ザックス・・・・・・・待っ・・・・・・・・・・・・!」

×

 そして気がつけば、ふたりはニブルヘイムにいた。
 広場に面した集会所の屋根の上。ザックスは屋根裏部屋から張り出した出窓の屋根に座り込むと、村を見渡した。
「−−−−−−やっぱ、1週間やそこらしかいなかった俺には、あの時と変わったようには見えないな。ここで生まれ育ったおまえの目には、そうでもないのかも知れないけど」そして、すぐ横で立ちすくんでいるクラウドを見上げた。「シケたツラしてんなあ、クラウド。心配になって来てみれば、あんのじょう、な」
クラウドはくずれるようにしゃがみこんだ。
「ザックス、俺・・・・・・・・あんたにひどいことをした!」
「まー、確かにそうだなよ。俺のこと忘れない、って言ったの、どこのどいつだよ。なのに、最後のひとかけらまできれーさっぱり忘れやがって」
「あ・・・・・・それもだけど、その・・・・・・・・・」
それもザックスにわびたいことのひとつではあった。しかしそれは、1番でもなければ、2番目でもない。それを先回り、しかも冗談めいた口調で言われて、クラウドはなんだか肩すかしを食らったような気がして力が抜けた。
「でもまあ、怒っちゃあいないぜ。あの時のおまえって、自分じゃなーんもできない状態だったもんなあ。そんなおまえがひとりで逃げ続けるには、自分こそがソルジャーだったって信じ込むしかなかったんだろ。・・・・・・・・今だから言えるけどさ。もう逃げ切れないと覚悟した時、俺は、おまえを殺そうと思ったんだ。神羅に捕まったらまたひどい扱いをされる、もし捕まらなかったなら捕まらなかったで、何日も苦しんだあげくのたれ死にってことになるんじゃないか、それならいっそ、一発で楽にしてやろうと。−−−−でも、早まらなくてよかった。おまえは無事に生き延びた。セフィロスと決着をつけた。そして今では、ちゃんと俺のことを思い出してくれている。・・・・・・・だから、いいよ」
「だけどそれは・・・・・・・あんたがするべきことだった。生きることも、セフィロスとの決着も・・・・・・・・・・・。あんたが俺のことなんかほっといて、ひとりで逃げていれば、きっと−−−−−」
「それは、言うな」
ザックスの目に暗い影がさした。しかしそれは、一瞬で消えた。
 彼はちらりとクラウドに目をやると、足を組み直し、頬杖をついた。そして遠くの方に視線を向けた。はるか遠く−−−−おそらくクラウドには見えないほど遠くに。
「・・・・・・・・・・・・・・エアリスのことも、さ」
やがてザックスは、ぽつりと言った。
 クラウドは身体をこわばらせた。
 それこそが一番−−−−ザックス自身に起きたことよりも、何よりも、彼にわびなければと思っていたことだった。
 彼がひとりでではなく自分も連れて逃げたのは彼自身の選択だったのだと、責任逃れやいいわけなどでなく、思うことがあった。そして実際、そうだったのだろう。
 しかしエアリスのことは、自分の責任だ。
 あの時以前に、エアリスに会ったことはなかった。しかし、話にはたびたび聞いていた。他のカノジョたちの話もよく聞かされたが、エアリスの話をする時のザックスの表情は、それとは全然別だった。心底楽しそうで、時々照れくさそうで。女好きでデートの相手をとっかえひっかえしているようなヤツなのに、エアリスという女の子だけは特別なんだな、とクラウドはうらやましくもほほえましくも思っていた。
「−−−−−ぶっちゃけ言うと、さ。彼女には、生きて欲しかった。生きて、幸せになって欲しかった。・・・・・・あんなことになったのは、おまえには−−−−いや、他の誰にも、どうしようもなかったことだとは思う。それでも、おまえに、彼女を守って欲しかった」
それだけ言うと、ザックスはまた重い口を閉じた。
 そう・・・・・せめて、ザックスの代わりにエアリスを守れたのだったならば。わずかなりともザックスへのつぐないになっただろうに。しかし、彼女に会ってもなお、記憶を取り戻さなかった。そして、俺が自分自身に戻った時には、ザックスが彼女に会いたい一心で命がけでミッドガルをめざしていたことを思い出した時には、彼女ももう、この世にはいない人になってしまっていた。
 俺は、エアリスに、ザックスの最後の想いを伝えることすらできなかった。
「・・・・・・・・・責任を感じるな、とは言わない。それは無理な相談だろ。だから、言わない。重荷は重荷として背負って行け。だけど、その重さにつぶされだけはするな。そんなことになったら、俺は結局−−−−あの日、おまえを道連れにしなかったことを後悔しそうだ」
 背負って行け−−−−その言葉にクラウドは、逆に心が軽くなった。『おまえのせいじゃない』、『気にするな』、そんな、安易になぐさめるような言葉をかけられたりしたら返っていたたまれなくて、どうしようもなくなっただろう。
「あ〜〜〜〜、もうヤメ!暗い話はヤメ!そんな辛気くさいことばっか言ってたら、俺のか細い神経がぶっちぎれちまうっ!」ザックスは、彼に限ってありえないことを叫びながら、ごろんと横になった。「そんなんより、こっちに来いって。いつまでもそんなとこでダンゴムシみたいに丸まってんじゃねえよ。できる話もできなくなっちまう」
「・・・・・・・・・・・・うん」
クラウドは誘われるまま、ザックスのすぐそばに腰を下ろした。ごく自然に、昔のように。
 いや−−−−最初からそういうわけじゃなかったか。知り合ったばかりの頃は、こうしてザックスのそばにいるのは気が張ってしょうがなかったことを、ついさっきまでがそうだったように近寄りがたかったことを、クラウドは思い出した。
 正式には上官と部下の関係。どんなに望んでもクラウドにはなれなかったソルジャー、それもクラス1stという雲の上の人。
 しかしザックスは地位とか上下関係とかには頓着しないたちで、仕事中はともかく、任務を離れれば誰にでも気軽に接した。人好きのする性格と、てらいのなさ。それゆえ、兵士仲間に人気があった。クラウドも、最初のうちこそ特にかわいがってもらうことに抵抗を感じていたが、少しずつうちとけ、彼に友情と呼べる感情を持つようになった。
 そして、女性にも。次々につきあう相手を変えながらも、誰にもひどくうらまれることもなく。
 そうだ−−−−−−。
 ふと思いついて、クラウドは言った。
「・・・・・・・・・・ザックス」
「ん?」
「シスネさんにも、会ってあげたら?」
「シスネ、なあ・・・・・・・・・・」
「あの人も、きっと、もう一度だけでもあんたに会えたら、と思ってる。だから」
ザックスは、ふっとため息をついた。
「彼女には、会わない」
そして、きっぱりそう言った。
「だけど・・・・・・・・・・・」
「俺のことは、忘れた方がいいんだよ」
「そんな・・・・・・・!」
「な〜〜んて、な」ザックスはふいにニヤリとした。「そう言うべきだろうし、そう言った方がカッコいいんだろうけどさ。あいにく俺は、そこまで人間ができてねえんだよ。俺は、できるだけたくさんの人に、俺のことを覚えていて欲しい。俺という人間が存在したことを、忘れないで欲しい。・・・・・・・・・でもな。過去にはしなきゃならないんだよ。シスネはもちろん、おまえもな」
「過去に−−−−−」
「おまえが俺を過去にするためには、一度会っとかにゃならんと思った。だから、俺は今日、ここに来た。だけど、シスネはなあ・・・・・・そんなことしたら返ってひきずりそうだからさ・・・・・・・・。だから、会えない」
 孤立無援の逃亡の旅を、わずかながらも支えてくれた人。
 そのことへの感謝と、もしかしたら、男と女の感情も、シスネに持っているのかも知れない。その他大勢なんて軽いものではなく、エアリスに対するのとも違う、特別な想いを。
 『会わない』ではなく、『会えない』。
 本当は、ザックスも彼女に会いたいのだろう。
 それでも、これからも生きていく彼女のために−−−−−。
「それよりさあ、クラウド。おまえな、他人より自分のことをどうにかしろ。自分自身すら扱いかねてるようなヤツが他人の心配するなんざ、ナマイキだぞ」
「はあ?」
「おまえ、ティファちゃんに何にも言わずに飛び出して来たんだろ」
ザックスはそう言いながら宿の方にあごをしゃくった。
 すっかり夜がふけ村中が寝静まった中、宿の二階の一室からだけ、明かりが漏れていた。そして、カーテンが閉まった窓の向こうに、どうにも眠れず、うつむいてベッドに腰掛けているティファの姿がはっきりと見えた。
 もはや自分たちの故郷ではなくなった、神羅が作った箱庭と化してしまったニブルヘイムにはもう帰れない。帰りたくもない。それが、クラウドとティファが共有する想いだった。
 それでも、最後に一度だけ帰ろうと、数日前、ふたりで故郷だった場所にやってきた。あの事件で死んだそれぞれの親の墓を形だけながらも作って供養し、故郷に別れを告げるために。
『ねえ、クラウド。ミッドガルに帰らない?』そして両親の墓の前で、ティファがそう言った。『メテオのせいであのあたりはすっかりめちゃくちゃだけど、それって、考えようによっては新しい生活を始めるのにいいところだとも思うの。ね、そうしない?』
 幼い日、ふたりはままごとのように将来を約束した。
 そして大人になり、共に多くの困難を乗り越えた今、彼女は幼い日の約束が現実のものになることを願っている。
 −−−−それも、いいな。
 クラウドは一瞬、そう思った。
 しかしその温かい気持ちは、すぐに自己嫌悪に変わった。
「そんでもって、ことと次第によっちゃ、ティファちゃんにはもう二度と会わないつもりだったとか?」
 そう−−−−ザックスが言う通りだった。
 ふたりで歩む未来。それは、ザックスとエアリスにもあったはずだ。それを俺は奪った。そんな俺だけが、幸せになっていいはずがない、と。
 そんな時、偶然、ほんとうに偶然に研究員のあの日記を見つけた。
 それを読んでクラウドは、そのままニブルヘイムを飛び出した。
 3年目の『あの日』は翌日。時間がなかった。
 いや。そうじゃない。
 時間がないのを言い訳に、クラウドは、ティファから逃げてきたのだ。
「だけど、俺が、そうして欲しいなんて言うとでも思ってるのか?」
 思ってなどいなかった。
 ザックスならきっと、そんなことは言わないだろう。
 それでも、逃げてくるしかなかった。
「でもな。逃げ出したい気持ちもわかる。俺にも覚えがある。だけど、逃げたところで−−−−いいことなんか、なんにもないんだ」
 何から逃げたかったのか。クラウドにはわからなかった。
 しかし、なぜ、逃げなかったのか。それは、わかる気がした。
「な、クラウド。おまえは生きろ。何があっても、前を向いて生きろ。夢と誇りを持って。今のおまえの夢がティファとの幸せな未来だというのなら、まずはそこから始めろ。夢が叶うように努力しろ。−−−−それが、俺の望みだ」
そう言うとザックスはふいにクラウドの方を向き、ニッと笑った。
「ま、そーゆーことだからさ。ティファちゃんと仲良くやれよ。あんなないすばでぃはそうそういねえんだ、逃がしたりしたらもったいねーぞ」
今の今まで深刻な顔でまじめな話をしていたと思ったら−−−−。クラウドは思わず苦笑いをもらした。
「やっと、笑ったな」
「あ・・・・・・・・・・・・・・」
「いいって。笑ってろよ。それは、過去を忘れることじゃない。つらいことから逃げ出すことじゃない。きっちり向き合ったからこそ、笑えるんだからよ」
 ザックスはクラウドの頭に手をやると、髪をくしゃくしゃかきまわした。かつてよくやったように。そして−−−−あの日、最後にそうしたように。
「ザックス・・・・・・・・・」
 クラウドの目元がうるんだ。
 そして、涙が一粒こぼれると、もう止まらなくなった。
「おっ、おいっ。誰が泣けと言ったよ??」
「ごめん、ザックス・・・・・・・・・。ごめん。俺・・・・・・・・・・・・・・」
 やっぱり、ザックスにはかなわない。
 どんなにつらいことでも苦しいことでも真正面から受け止められる強さ、ふところの深さ。
 そんな人に出会えたのは、友と呼んでもらえたのは、これ以上ない幸運だったんだろう。
 俺は、それに救われている。昔も、そして今この時も−−−−−。

×

 やがて、星がひとつ、またひとつと消え始めた。空の闇に溶け込んでいたニブル山の稜線が、少しずつ形を成していく。
「夜明けか・・・・・・・・・・・」ザックスはつぶやいた。「そろそろ帰んないと。もうエアリスに心配かけられねーからさ」
 彼は立ちあがった。バスターソードを手に。
 そして大剣を軽々と振り回すと、得意のポーズを決めた。
 クラウドがかつてあこがれた姿。
 ザックスは背を伸ばし、剣を抜くと、それをクラウドに差し出した。
「これは、あらためて、おまえにやる」
クラウドはバスターソードを受け取った。ためらう理由は、もうなかった。
「じゃあな、クラウド。元気でやってけよ」
「ザックス・・・・・・・・・。もう、会えないのか?」
「なあに言ってんだ。いつだって会えるじゃねえか。俺は」ザックスはクラウドの胸を軽く突いた。「ここにいる」
「ザックス・・・・・・・・・・・・」
「もう、忘れんなよ」
 ライフストリームの淡く優しい光が、朝日とともにニブルヘイムの村に流れ込んできた。
 そして、その光につつまれるようにして、ザックスの姿は、消えた。
 クラウドは、まだ宵闇の残る中にひとり立ちつくした。
 ザックス−−−−−−。
 再び、涙がこぼれおちる。
 もう忘れない。絶対に、あんたのことは忘れない。
 夢と、誇りと、あんたとの思い出を胸に、生きていく。
 それだけが、俺にできること・・・・・・・・・・・・・・・・。



×××



 朝の光と鳥の声が部屋の中にしみこんできていた。
 ベッドに横になったまま、クラウドは天井を見つめていた。
 夢・・・・・・・・・・・・・?
 いや、夢というには、あまりにも鮮明な−−−−−。
 身体を起こした時、一筋の光がクラウドの目を射た。
 そちらに視線を向けると、テーブルに立てかけられた剣の刃が、カーテンのすきまから漏れた陽の光をはね返していた。
 バスターソード。
 どうしてここに?確か、車のトランクに入れておいたはず・・・・・・・。
 そうか・・・・・・・・・・。
 あれは、ただの夢なんかじゃない。
 ザックスは、来たんだ。ゆうべ、ここに。
 クラウドは剣を手に取ると、しばらくそれを見つめていた。
 そして、ザックスと同じようにポーズを決めると、剣を背中に負った。
 そして、胸を張り、大きく息を吸い込んだ。




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