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再会
FF8-Squall & Laguna's Story




 エスタのレストランのレベルがどの程度なのかは知らない。
 しかし、キロス大統領補佐官に案内されたその店は、この巨大国家の最高権力者にふさわしいものにはとうてい思えなかった。
 そして、その店唯一の個室で待っていた男も、どう好意的に考えてやっても『大統領閣下』には見えない。
「いよ〜〜!やっと来たな、スコール!!」
ラグナはいつものオーバーアクション気味なしぐさでスコールを出迎えた。
 こんなのでもいちおうエスタの大統領なんだから・・・・・・・・・とスコールは背筋をぴんと延ばし、右手を顔の前にかかげた。
 ラグナもまねをして、右手を上げた。
「これ、SeeD式の敬礼なんだろ?かっこいいよな〜〜〜。ウチの兵隊たちにもやらせるかな。−−−−それはともかくよ、今日は大統領としてSeeDのおまえを呼んだんじゃねえんだ。かたくるしいことは抜きにしようぜ」
 SeeDを呼んだのじゃない・・・・・・・・・?
 先日行われたガーデンの卒業式のあと。スコールはシド学園長に呼ばれ、こう言われた。
『エスタ大統領が君を呼んでいます。学生の肩書を持たないSeeDとしての、君の最初の仕事かも知れませんね』
 だから、そのつもりで来たのだ。卒業後の初仕事がエスタからの依頼だというのは気に入らなかったが、仕事は選べない、と。
 スコールがいぶかしげにあれこれ考えていると、キロスが酒を持ってやってきた。
「ラグナくん、本当にいいのか・・・・・・・?やはりやめておいた方が・・・・・・・・・・・」
「あー、もう、ごちゃごちゃ言うのはやめようぜ。いいからそいつを置いて、ふたりっきりにしてくれよ」
キロスはしかたなさそうに、ボトルとグラスを置いた。

×

 ラグナはスコールのグラスに酒をなみなみとついだ。
「めでたくガーデンを卒業ってことは、酒も解禁なんだろ?まあ、飲めや」
そして返杯を待ったが、スコールはけげんそうな顔をしているだけだった。ラグナはあきらめて、自分でグラスを満たした。そして、グラスをかかげた。
「スコール、ガーデンを首席で卒業、おめでとさん!!」
「・・・・・・・・・は?」
・・・・・・・・・・それが、俺を呼んだ理由だとでも言うのか?
「なんだなんだ、ヘンな顔して。親父が息子の卒業祝いをしちゃいけねえか??」
「そんなことを急に言われても・・・・・・・・・・・・」
俺はまだ、あんたが父親だということを信じてはいないんだからな!!
 それに学園長・・・・・・・・・本当のことを言ったら俺がここに来るはずがないと思って謀ったな!!
「・・・・・・・・な〜んか気に入らなそうだな。ま、しかたねえか。オレだって、こんなぶっちょ〜づらがオレの息子だなんて実感ないもんな〜〜」
ラグナはそう言いながら、スコールの頬をぺちぺち叩いてみたりした。スコールは思わず椅子を蹴倒し、部屋のすみっこにとびのいた。
「そんなにいやがらなくてもいいじゃんかよ〜〜〜〜」
「い・・・・・・・いきなりそんなことをされれば・・・・・・・誰だって驚く!!」
「ん〜?そうかあ??」とかなんとか言いながら、ラグナは予想どおりだったとばかりにニヤニヤした。「でも、ちょいと人間らしい顔したな。少しはにこやかにしてろよ。そうすりゃ・・・・・目元なんか、レインにそっくしだぜ」
 そう言ってラグナは、スコールの顔を見つめた。優しく、暖かい、つつみこむようなまなざしで。
 ちょっと待て・・・・・・・・。こういう場合、どうしたらいいんだ??
 スコールは視線をそらし、態勢を立て直したかったが、体が言うことをきかなかった。
 ヘビににらまれたカエル・・・・・・・・少しばかりイメージが違うが、そんな言葉がスコールの頭に浮かんだ。
「そんなにビビらなくってもいいぜ。とって食おうとか、今日からとーちゃんと呼んでくれとか、そんなことは言わねえからさ。なにせ、17年もの空白があるんだ。それを少しずつ埋めていけばいい。今日はその初めの一歩。−−−−そう思ってるんだからよ」
 そして席に戻ろうとしたラグナは、急に足をつっぱらせた。似合わぬマジメなセリフを言ったばかりに、足がつったらしい。
 こんなのとの空白なんか埋めたくないよ、俺は。スコールは心の中でつぶやいた。

×

 料理が運ばれてくると、スコールはほっとした。食べるか飲むかしていないと、間がもたない。
 居心地悪そうに黙々と皿をつついているスコールのことはおかまいなしに、ラグナはえんえんとしゃべりつづけていた。
 エルオーネを探していた頃のこと。
 ガルバディアで兵隊をしていた頃のこと。
 エスタの大統領にまつりあげられてしまったあとのこと。
 自分がスコールくらいの年だった頃のこと。
 なんの脈絡もなくぽんぽんと話題が飛びまくる間、ラグナの前の料理も確実に減っていた。こいつ、しゃべる口と食べる口が別なんじゃないか・・・・・・・?話は適当に聞き流しながら、スコールはあきれていた。
「・・・・・・・っと、しまった、またオレがひとりでしゃべってるな。な、スコール、おまえもなんか話すことがあるんじゃねえのか?」
「・・・・・・・・・・・・・別に」
「別に、って、な〜んもないわけじゃないだろ?たとえばさ・・・・・・・・・オレのことをうらんでる、とか。そんなんでもかまわないぜ」
「うらんで・・・・・・・・・?」
「事情はどうあれ、おまえを十何年もほおっておいたことは事実だもんな。しなくていい苦労もしてきたんだろ?だけど、オレだってなんにもしなかったわけじゃねえぞ。レインがオレの子供を産んだことは知ってたし、アイツが死んだって聞いた時にはおまえとエルオーネをこっちにひきとろうと考えはしたんだ。だけどそんときはエスタは大混乱の真っ最中だわオダインはうるせーわオレはめちゃくちゃ忙しいわで、ちっこい子供を安心しておいとけるような状態じゃなかったんだ。そんなんだったから孤児院にあずけといたほうがマシだと思ったのが間違いだったんだよなあ。落ちついた頃にはその孤児院はなくなっちまってて、そっからはふたりともどこに行ったんだかさっぱりわからん。それからもず〜っと探してはいたんだが、結局、今までそのまんまになっちまったもんなあ」
「別に・・・・・・・・うらんだことはない」
「ホントか?」
「うらむもなにも・・・・・・・・自分の親が誰なのかなんて考えたこともなかった。そんなことを考える暇もなかった」
「そっか・・・・・・・・・・」ラグナはひどく残念そうに頭をがりがりかいた。「そーゆーのもな〜んか・・・・・・・・つまんねえよな」
なんだよ、そのうらんでいて欲しかったと言わんばかりの口ぶりは・・・・・・・・・。俺は本当のことを言っただけだぞ。
「だけどよ、少しは自分のことを話してくれてもいいだろ?エルオーネや学園長夫婦にもちったあ聞いたけど、やっぱし本人の口から聞くのが一番だもんな」
 いろいろと聞き出そうとラグナがふってくる話題にスコールは適当に返事をするだけで自分からは何も言わないでいると、ラグナの話はまたどんどん横道にズレていった。エルオーネが船に乗っていた頃の話だけは興味があったので聞いていたが、あとはどうでもいいことばかりで、スコールはあいづちをうつのもめんどうでしかたがなかった。
 そしてふと気がつくと、部屋の中はしんと静まりかえっていた。
 目をあげれば、ラグナはテーブルにつっぷして眠っていた。
 ラグナのグラスは、半分ほど減っていた。酒ビンはスコールが手持ちぶさたにずっと抱えていて、一度も注ぎ足していないはずだった。
 こいつ、これっぽっちの酒で酔ったのか・・・・・・・・・?
 しばらく様子を見ていたが、目を覚ます気配はなかった。
 まったく・・・・・・・・・。俺はもう帰るぞ!!
 スコールがしびれを切らして立ち上がった時、寝言まで始まった。
「・・・・・・・レイン・・・・・・・・」
 ・・・・・・レイン?
「・・・・・・・レイ〜ン、ただいま帰りました〜〜〜〜」
 ・・・・・・レインの夢を見ているのか?
 スコールはラグナの寝顔をそっとのぞきこんだ。ほんのりと赤くなった顔は、とても幸せそうだった。
「・・・・・・・・あんた、本当にレインのことが忘れられないんだな・・・・・・・・・・・」
 スコールは壁にかけられていたラグナのコートを取ると、彼の肩にそっとかけた。



×××



「スコールくん、もう帰るのか?」
貸し切りの店には、キロスとウォード、そして少数のSPだけがいた。
「あいつ、しゃべりたいだけしゃべって、酔っぱらって寝てしまった。これ以上俺がここにいてもしかたがないだろう」
「やっぱりな・・・・・・・・・・」
キロスは小さくため息をついた。ウォードも、それみたことかと肩をすくめた。
「ラグナくんの酒に弱いところは年をとっても変わらなかった・・・・・と言うか、年をとったら一段とダメになってな。だから今夜のメニューを決める時、アルコールは抜きにしたほうがいい、と忠告はしたのだが。しかしラグナくんは、『成長した息子と酒を酌み交わすのは父親のロマンだ!!』と言い張ってな」
「・・・・・・・・・は?」
なんだよ、それ??
「まあ、そういうことなので、勘弁してやってくれ」
「そんなことはどうでもいいが・・・・・・・・・。あいつ、今夜これから何か予定があるのか?」
「いや。君とゆっくり話せるようにとスケジュールはあけてある」
「だったら、風邪をひかない程度にほおっておいてやってくれ。いい夢を見ているらしいからな」
「・・・・・・・・・そうか」

×

 ホテルまで送ろう、というキロスの申し出をスコールは断った。あのおちゃらけ大統領のお守りに手いっぱいで俺なんかの心配をしている余裕はないだろうと言うと、キロスは、確かにその通りだ、と笑った。
 店の外での別れ際、キロスは言った。
「スコールくん、君も忙しいだろうが、またエスタに来てくれ。ラグナくんは君が−−−−レインの忘れ形見がこうして立派に育っていたことが、うれしくてしかたがないのだよ。君は君でいろいろと思うところもあるだろうが・・・・・・・・・よろしく頼む」
「・・・・・・・・・考えておく」



×××



 冷たい風が頬にここちよかった。
 街中からはモンスターの気配は消えていた。
 しかし人々はまだモンスターを恐れているのか、人影はまばらだった。
 時折車が通りすぎるだけの静かな街の中を、スコールはゆっくりと歩いた。
 −−−−そういえばあいつ、あれだけ好き勝手にいろいろとしゃべっていたくせに、レインのことはほとんど話さなかったな。
 なによりも大切にしているらしい、レインとの思い出。
 −−−−今度会うことがあったら、絶対に話させてやろう。
 今度会ったら?俺は、またあの男と会いたいと思っているのか?
 会っても肩がこるだけのような気がした。ただ、レインのことは聞きたかった。
 死に別れてから十何年もたってなお、想い続けている女性のことを。
 −−−−そうだな。レインのことを話してくれると言うのなら、会ってやってもいい。レインは・・・・・・・・俺の母親なんだろう?だったら、聞かせてもらってもいいはずだ。あいつの思い出が減ろうがなくなろうが。
 ラグナの思考回路はスコールの想像の範囲外だった。理解したいとも思わない。
 しかし、ひとりの女性への一途な想い・・・・・・・・それだけは、自分の中にもあって欲しい。
 スコールはそう思った。




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