「ぐあっ!」
 一人目の男がふっとばされ、地面を転がる。
 それを囲むようにいた数人があとずさる。
「ちょっとばかり、おいたがすぎるわよん」
 声は集団と正対する赤い影から放たれた。
 その縦長の瞳孔が、しっかりと見つめている。
「皇帝に逆らっちゃう悪い子たちには、お仕置きしちゃわないとねー」
 妙に軽く、明るい声でそういうと、右手で腰にさげた鞘から一本の刺突剣(レイピア)を抜き放つ。
「……何者?」
 集団の中の一人が、マスクの下からのくぐもった声で問う。
「んー。あなたたちが知ったところでたいした意味はないしー、ほんとはまだ秘密なんだけどー、とっくべつにおしえちゃおう!」
 左手の人差し指を立て、その手をくるくると動かしながら彼女は言う。
「はじめまして。私は"皇帝の四宝剣"の一人、『融焼の朱(ヒートメルトレッド)』のレヴィアです。そして……」
 一度目を瞑る。再度開いたとき、その茶色の目はつよい輝きをたたえていた。
「みなさんさようなら」
 それは一瞬だった。
 彼女は通常では視認できないほどの速度で駆け寄ると、その剣を自動小銃を構えようとしていた、向かって左端の男ののどもとに向けた。
 あまりの速さに、誰も動けない。
 それは音も立てずに首を貫いた。
 と、その瞬間。
 首を刺し貫かれた男はいきなり燃え上がった。
 一瞬で、跡形もなく、灰さえ残さずに、男は燃え消えた。
 一秒かかったかかからないか。その間に、一人の人間がこの世から消滅したのだ。
 誰もが唖然として身動きが取れない。唯一、いま攻撃を放ったレヴィアだけは、その動きを止めなかった。
 突き上げられた剣を振り下ろす動作で、いまさっき倒れこませた男を切りつける。そして跳躍。五メートルほど離れた位置にいる女の胸を刺し貫き、その間に左手で抜き放った短剣をさらに三メートルほど離れた男に的確に投げつける。そのまま胸元に突き刺さった。相手に逃げる暇を与えずに、放たれた攻撃で三人が同時に燃え上がった。
 と、二人が燃え消える間に、短剣を投げつけられた男が、轟音を上げて爆発した。
「あっ」
 あわてて飛びのくレヴィア。一度の跳躍で十メートルほどの距離を飛ぶ。
 どうやらその男は小型の爆弾を携帯していたらしい。
「まーたやっちゃった。爆発はさせない気だったんだけどなあ……」
 少々残念そうにつぶやく。周りにはもう人影はない。
「二チーム目殲滅完了っと……ディル君ちゃんともどってきてくれたかなあ」
 表情がかげる。と、胸元からかわいげな電子音が流れてきた。
 ポケットにあいた左手をいれ、カード状の通信端末を取り出す。
 そのまま親指を使って操作。カードの表面のディスプレイがつくが、映像が乱れてうまく映っていない。
「レヴィア!」
 端末からあせったようなレオンの声が鮮明に響く。映像の受信がうまくいっていないだけらしい。
「どうしたの?」
「奴に逃げられた。今朝の機械人形にしてやられた……」
 それを聞き、彼女の表情はさらに曇った。
「……それで、彼はいまどこへ?」
「わからん。が、おそらくG4格納庫へ向かっているはずだ。狙いはリザイオだろうな。こちらはいまうまく身動きが取れん。お前は間に合うか?」
「ちょっと、遠すぎるわ。とにかく向こうの兵に連絡いれて、なんとか時間稼ぎさせてみましょ」
「……すまない」
 そう言うと、彼は通信を切った。
 ふっと一息吐き出すと、端末をふたたび胸元にしまい、剣を収める。
 そして右手を口元にもっていき、口笛を鳴らした。遠くまで響く強い音がでる。
 しばらくすると、上空から一羽の鳥が舞い降りてきた。翼だけで五メートルはあろう怪鳥だ。
ただ、表層は金属の光沢を持っていた。精巧に作られてはいるが、メカニカルな見た目をしている。
 レヴィアの正面に降り立ち、その翼をたたむ。
「いかがなされましたか?」
 それは丁寧な、低めの男性の口調で声を発した。
「早急にG区に向かいたいの。もっとも短時間であそこまで行く方法を検索して頂戴」
「方法は二つ。一つは地下列車、ですが、これはあと三十秒ほどで最寄の駅から発車しますのでおそらく乗車は不可能です。もう一つは、私がお運びするというものです」
「乗れる?」
「可能です。マスターは軽いですから」
 レヴィアは苦笑する。
「お世辞言ってる場合じゃないのよ。スピードは?」
「安全域ですと地下列車より若干遅くなる程度です。しかし、次の列車を待つよりは断然はやくつくでしょう」
 淡々とそれは答えた。
「OK、それで行きましょう」
 言うと、怪鳥はふたたびその翼を広げた。
(……ほんとに、私のことなんかどうでもいいのかな)


第十三節



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