佐竹本三十六歌仙 装芸画絵巻より
凛と胸を張る 業平像
「世の中に 絶えて桜のなかりせば、春の心はのどけからまし。」
桜の季節になると必ず思い浮かぶ、あまりにも有名な 美男 在原業平の一首。
今年の春は、気まぐれな天候に左右され、心配する間もなく、呆気なく咲いてしまった東京の桜に比べ、1958年の観測開始以来、最も遅い開花となった根室の予想満開日は、なんと5月28日!
今か今かと、開花を心待ちにしてこんな美しい歌を詠んで楽しんでいた、平安時代の貴族たちは、待ちくたびれて狂い死にしそうですね。
そんな時代の歌人を、装芸画で再現していると、実際の布地で表現しているためか、その人となりを間近で見ているような錯覚に陥ってしまいます。
殿方とは言え、業平ともなると、着せる衣裳の色も大いに悩むところです。
敢えて渋い色目にして、顔立ちの色香を目立たせたのは、我ながら満足しています。
宴もたけなわ、次第に深酔いしつつ、冒頭の業平の歌に、人生の諦観を歌で返す人が居るところがこの時代の凄さ!
「散ればこそ いとど桜はめでたけれ 憂き世になにか 久しかるべき。」
花盛りの風流の陰に、人々は忘れていたい事を、あまりに沢山持ち過ぎていたのです。
世の憂さと、我が身の不如意と・・・・。
ただ単に、桜を讃える歌を、そこまで深読みできなかった子供時代。今は、残念ながら、解る・・・我が身の不如意。
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