匠のつぶやき  Vol.31


制作秘話
佐竹本三十六歌仙 装芸画絵巻 「色は色でも・・・。」


「二十二. 僧正遍照そうじょうへんじょう

 これまた三十六歌仙のこと。

 いわば制作をめぐる秘話物語ですが、登場人物の女性は五人、僧侶となると更に少ない二人。

 まずは、僧上遍昭。

 桓武天皇の孫。

 仁明天皇に寵遇されたが、その急な崩御に殉ずるかのように、35歳で出家したものの、まだ俗人で、前途洋々のときに詠んだ代表作が、「あまつ風雲のかよい路吹きとじよ乙女の姿しばしとどめむ」また、遍昭28歳のときに出来た子供が、なんと、もう一人の僧侶「素性法師」でした。

 小野小町のもとに、99日通ったと言われる「深草少将」とは、実は遍昭。

 僧侶にまつわる布の話に移します。

 本来、私有物を持つことを禁じられていたインド仏教僧侶が、使い道が無くなって捨てられていたボロ布や、端布を拾い集めて縫い合わせた、これが「袈裟」。

 近年では形だけ幾つにも縫い合わされていますが、豪華な金襴を使い、権威の象徴のようになっています。

 私が手掛けます装芸画では、もともとの意味を意識して、百年ほど経て、退色した希少な古代金襴でお袈裟をこしらえます。

 そして制作の過程で何度か人物像とじっくり向き合っていますと、そこには今と変わらぬ人間の営みが再現されます。

 いわば、千年の時を超えたと申しましょうか、絶妙な和歌を後世の私たちに遺してくれています。

 渦中にあった遍昭が詠んだもう一句に


末の露 もとのしづくや世の中の おくれ先立つ ためしなるらん



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