匠のつぶやき Vol.28
※この原稿は昨年のものです。今年のバレンタインデーに合わせて、掲載いたします。
  まさか、この一ヶ月ほどあとに、あの未曾有の大災害が起こるとは、夢にも思いませんでした・・・・・・。)

純白の思い出は白無垢の生地




今年のバレンタインデーは、ここ、神奈川県川崎の地には久しくなかった夜らいからの本格的な雪。

翌朝は、雨戸の先の小さな庭も銀世界に一変。

しばし綿帽子をかぶった木々や庭石の造形美に見とれているうちに、「白」をテーマにした作品のことを思い出しました。

前回紹介しました「Desespoir(絶望)」のあとに発表した「Espoir renaissant(再出発)」という作品です。

女性の正装の色、それは「白」。

そして衣裳、と言えば、花嫁衣裳の白無垢ですが、汚れ無き、すなわち清浄の色は新雪の純白とイメージが重なります。

その「白」に、緋の襦袢がアクセントになる構図は、構想の段階からワクワクするもので、下絵まで一気に出来上がりました。

ところが、肝心の白無垢が見つからず、しばし頓挫したものでした。

そんな折、かつてのお弟子さんの一人から風呂敷包みごと頂戴した布の中に、捜し求めていた白い生地が含まれていたのです。

この幸運に感謝しながら、作品に取り込むこと約20日。

布地の縦目・横目の使い分けや裏打ちの小技は、やや時代かかった生地に溶け込み、そのできばえは作った本人が装芸画の妙味を改めて満喫したものでした。

ちなみに、もうひとつの余談。

当時習っていた着付け教室の発表会で、この作品の参考にしたいがために、「花嫁のモデルをチャッカリ引き受けていた」と言う裏話もありまして・・・。




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