匠のつぶやき  Vol.26


佐竹本三十六歌仙装芸画絵巻・・・・続編
紅顔の若き貴公子 − 藤原敦忠

 前号に続いて、もう少し歌仙の作品に触れて行きたいと思います。

 仕上げにあたり、衣裳の色合わせの次に苦労するのが「顔」そのものです。

 三十六人の歌仙の、それぞれの正確な生涯年齢は分からないのですが、作者・藤原信実(延喜6年〜天慶6年・906年〜943年)の原画を参考に、詠まれている和歌も考慮しながら「顔」を描いていきます。

 絵巻切断事件として知られる1919年(大正8年)の売り立てで最高額だった斎宮女御をはじめとする、花形の女性歌仙は五人。

 わけても唯一の後姿「小野小町」は、顔も見せていないのに、高貴な色香を感じさせる事であまりにも有名です。

 さて、百人一首にも選ばれている「あひみての のちのこころにくらぶれば 昔はものを思はざりけり」と、絶妙な恋の歌を詠んだ藤原敦忠は、惜しくも38歳で早世したと言われています。

 それぞれの人となりを想像しながら、顔の表情を描くのは、難しいとはいえ、とても楽しい作業です。

 こんな素敵な歌を、詠み交わしていた時代の貴公子たちの、生き生きと紅潮した皮膚の艶まで再現できたら言うこと無いのでしょうが・・・・。


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