目には見えない二つの色
先の号で、編集部のご好意により、個展のご案内を載せて頂きました。
ゴールデンウィークに絡んだ5月1日からの9日間、お蔭様で大勢のお客様に、5年越しのテーマ、「佐竹本三十六歌仙・装芸画絵巻」の完成を、観て頂く事が出来ました。
紙面をお借りして、御礼申し上げます。
会期中、改めて自分の作品と向かい合ってみると、今更ですが、いにしえの歌人が「目には見えない色」をさりげなく歌っていることに気が付きました。
ひとつは、季節の変わり目。
藤原敏行の一首、「秋きぬと、目にはさやかに見えねども、風の音にぞ驚かれぬる。」熱暑の中にもふと秋を感じ、木々の繁りを訪れる風の音にも、どこか今までと違ったサラサラとしたかすかなさやぎが交じる。
王朝人の敏行の耳は,その微かな違いを聞き分けて、秋の訪れに心のゆらぎを覚えているのです。
おそらく、その木々の緑にも、移ろいを感じたのだと思います。
もうひとつは小野小町の一首。
「いろ見えで移ろうものは世の中の、人の心の花にぞありける。」春の花の移ろいは、目にも見えるが、人の心の花が、いつともなく変化してゆくのは、その色も見えぬ、と嘆かれており、人々の身にしみる共感を誘うところとなってしまうのです。
さすが選ばれし歌仙の、感性の素晴らしさに、ただ感嘆するばかりです。
さて、装芸画で、目には見えない色を表すとしたら、涼やかな色香でしょうか・・・・・。
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