匠のつぶやき  Vol.24
お知らせ

匠のつぶやき、として、vol.22より再び連載しておりましたが、掲載誌が変わりましたこと、
ご説明不足でございました。悪しからずご了承下さいませ。
新たに連載が始まりましたのは、日本パーソナルカラリスト協会発行の、「COLORIST」という季刊誌です。
装芸画作品を制作する中で、色にまつわるエピソードを、とのお話で、つらつら書かせて頂いております。
まずは、過去に制作した作品についての思い出を綴っております。

時の流れ、甦る情景



「黒髪への想ひ」
「第1回日仏代表作家フランス・ランブイエ市」入選作
フランス・ランブイエ市美術館(ローマ王宮殿)にて開催

この絵をご覧下さい。私の作品類は、三十六歌仙シリーズのように、雅びな女性の作品が多いです。

実は自分に無いものに憧れるからなのです。黒髪はもちろん、とりわけその衣裳の美しさに。

遥か遠くに感じられる平安時代。これとても実際に刀(とう)で刻んでいると、グーンと身近に感じられるのです。

例えば絵具ですと、あでやかな衣裳を自在に表現出来るのに対して、布地で表現する装芸画は、高価な有職の絹織物ばかりを調達する訳にもいかず、姫君の布探しに苦労します。

そこで登場するのが囲炉裏の煤。

三百年以上経った旧家の取り壊しが、その煤を取るチャンス。

ひと握りの煤を小鍋で煮出すと、たちまち「古代の煮汁」の出来上がり。

これを熱い内に布や、裏打ちの和紙に塗り込めれば、一気に1200年もの時が流れる情景が甦ります。

袖や裾の動きを出す場合、一種類の布ですと平淡になりがちですが、敢えて縦目・横目を使い分け、更に同じ布を表・裏に裏打ち、陰影に使うと微妙な奥行きが表現出来ます。

見た目には平面ですが、人間の丸みさえ感じられるように仕上がるのは、作品の妙で、まことに不思議です。


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