匠のつぶやき  Vol.23

偶然が生み出す「異次元の色」




いかにも悲しげな女の子。実は、私の恐怖心の現れです。

八年前のこと。

衝撃的な手術宣告を受けた後、「この世に残しておきたい作品」として作ったものです。私の制作に、と、これまでに大勢の方から新旧様々な裂地が届きました。

その都度、「何の形にも出来ないまま眠らせてしまうのは誠に申し訳ない」と、少しづつでも生かしましょうとの思いを込めて使わさせていただいています。その一作です。

特に中央下方にある朱色に青のぼかしがはいった布は、菩提寺の奥様が長年にわたり保管されていたものです。

たまさか、寺の本堂・庫裏の火災の際に消防の水を被り、重なっていた布の色が移って、染まってしまったものです。
これこそは、人間技では出せない偶然が生んだ色。

そして、この時、この世の色は表地をそのまま使っても違和感が無いものの、あの世との境目の色は、布地の裏を使うと何とも言えない「異次元色」として現れるということが解ったのです。

このように、和紙による裏打ちで、微妙な差が表現できるのも、装芸画の魅力のひとつです。

入院前の残された一ヶ月余でひと思いでに仕上げて出品したくだんの、この子は、術後の動けない私に代わって、イタリアへと旅立ちました。

その後も、快気した私と、都内の青山、三島、さらにオランダへと同伴するなど、人生の大切な転機となった心の支えの作品なのです。


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