匠のつぶやき  Vol.20


感動の心で最終回


 高校3年、卒業式を控えた今ごろ、同級生に「あなたは一本の道を迷わずどこまでもまっすぐに一人で歩いて行くような気がする」と言われた事が強く印象に残っています。
 残念ながらそれは、千鳥足の私より「装芸画」の生みの親である師匠の生き方そのもののような気がします。幸運にもそのような師匠に出会え、日本古来の伝統に携わることが出来、感謝の気持ちで一杯です。



2002年9月、筆者が個展を開いた清月堂ギャラリーで。
左から筆者、清月堂ギャラリーの会長・故水原茂三翁、
友人のインスタレーション・プロデューサー・水戸部志津子さん。

 もはや決して会えない物故作家の作品を手がけ、無言のメッセージを感じ取ることが出来るのもこの仕事のお陰です。そして何よりも、今日こんにちの私の幸せは、仕事を通じてご縁をいただいた様々な分野の方々の温かいご支援の賜物です。
 さらに、美術品、特に書作品など、教科書に載っていない数々の名品に出会えた事も幸いでした。
 忘れもしない1つは憲政の神様と呼ばれ、総理大臣を歴任した岡山県出身の犬養毅(号は本堂)縁の品です。犬養が保証人になっていた同郷の学生の実家が全焼して途方に暮れていた時、励ましのために贈った ※1 扁額へんがくには、 ※2「祝融不奪腹中書(しゅくゆうふくちゅうのしょをうばわず)」と記されてありました。何とも温かい激励の言葉に深く感動したものです。
 昨今、伝統工芸を継ぐ後継者がいないため、止むなく貴重な専門技術の継承がストップしてしまう話を耳にします。奈良の吉野では、100軒あった紙漉き業者が今では5、6軒というのですから事態は深刻ですが、師匠のところではご子息が跡を継いでいるので、ひとまず安泰のようです。
 つぶやきの最後に、私が初めて個展を開いた銀座の清月堂ギャラリーの会長、故水原茂三翁の卆寿のお祝いのパーティーで配られたプリントの中の一文を紹介させていただきます。

 
 小才は、縁に出会いて、縁に気づかず、中才は、縁と知りながら、縁を生かさず、大才は、袖振り合うも他生の縁
 
 
 ※1 扁額 門戸や室内に掲げる横に長い額。横額。
 ※2 祝融 中国の、火をつかさどる神。転じて火事。


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