匠のつぶやき  Vol.17


料理の腕前(?)


 本年の1・2月合併号で紹介させて頂きましたが、生涯の恩師となった小渕先生を私に引き合わせて下さった菩提寺の大黒様A子夫人。彼女の楽しみの一つに、年に1度の檀家の方と国内外の史跡を訪れる旅行(団参)があります。
 その土地の食材を生かした名物料理を堪能することはいうまでもありませんが、もう一つの楽しみは、伝統的な手作りのものや、手漉きの紙、手織りの布など、おなかがふくれない「食材」を発掘してくることです。

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↑ハノイの北、ドンホー村に伝わる世界的に評価の高い伝統的な版画。
ベトナムの相撲や嫉妬をテーマにしたもので、今ではこの特殊なカラフルな
紙も貴重になり、刷る人も少なくなってきたとか

↓ホーチミン市場で見つけた現代的な墨絵。
10枚でたった500円くらいで買った物

 そうして、旅行から帰って来ると、第一報は「面白いものを見つけて来たから、料理してね!」です。私が師匠の下で修行させて頂いていたころから数えると、もう30年近くこんなやりとりが続いており、気が付けば、庫裡くりの壁の至る所に懐かしいお料理が、賞味期限に関係なく、それぞれの旅の思い出を秘めて並んでいます。私とて旅先の一番の楽しみは買い物ですが、何故か自分のものは日の目をみません。「紺屋こうや白袴しろはかま」ですね。

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 さてさて今年の6月には、ベトナムへいらしたとか。例によって“取りに来てコール”がありました。今年の食材は、ボール紙に貼り付けられたカードのような小さな墨絵でした。持ち帰って丁寧にはがして、日本の和紙で裏打ちしただけで、早くも表情がしっとりと変わります。調理上の相性とでも言いますか、異国の絵は異国の布で。一番似合ったインドシルクに、伊万里焼きの蛸唐草プリントでスパイスを効かせました。=写真参照=効きましたね。これが。こんな料理が出来るのも、残念ながら私の腕前ではなく、装芸画の自由な発想と、表装の高度な技術のお陰です。聞けばこの絵、ホーチミン広場の出店で、日本円にして10枚わずか500円くらいで買ったものですって。1枚50円の食材で、こんなに楽しませて頂けるとは・・・・・・・。

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