匠のつぶやき Vol.13


佐竹本三十六歌仙 装芸画絵巻の誕生 その2



佐竹本三十六歌仙の一人「斎宮女御」を再現した装芸画。売り
立ての際、最も高い値段で落札されたとされるいわくつきの作品。


















 前回コルシカ島での感動があまりに強烈でしたので、閑話休題として割り込みしてしまいましたが、再び戻らせて頂く事にします。
 匠とは名ばかりの勝手気ままな私ですが、以前から考えていた事がありました。もともと自ら探し求めたわけではなく、仏さまのご縁で授かった表装の技術を生かした作品は、出来ないものか、と。
 三十六歌仙の絵は佐竹本に限らず、多くの優れた画家が競って名作を遺しています。書家も同じく流麗な筆さばきで、和歌を書き上げていますが、ほとんどの場合、巻子本や掛け軸にする仕立てを表具師にゆだねることになります。恐らく一流の作家の仕立ては、その時代の一流の表具師が技術の粋をもって仕立てたはずです。その多くは、のちに重要文化財などとなって永く鑑賞に堪え、その美しさゆえ、海外に流出してしまったものもあるでしょう。
 できるものなら、鳥獣戯画や源氏物語などを仕立てている処へタイムスリップして、どんな匠が、どんな道具を使って作っているのか見てみたいものです。そして恐らく彼等は、誰一人何処にもサインは残していないはずです。稀には、軸棒や下貼りなどに書いてあることもありますが、仕立て直しをしない限り、人目に触れる事はありません。
 このたびの試みは、時代を経た布を蘇らせて装芸画の技法で作った歌仙絵の表現。稚拙ながらもその絵に歌仙を書き添え、最後に自分自身の手で巻子本に仕立てる、という、一貫した作品作りを手掛けてみたかったのです。師匠が「装芸画」という秘技を考え出してくださったおかげで、単なる古い絵巻の模写とはいえ、たぶん、今までこの世に無かったものを創り出せたような気がします。
 私も勿論サインはしません。一体どんな人が作ったのだろうと、思いを巡らせてくれる人が、のちの世にたった一人でも現れた時、あちらの世界でニヤリとしたいものです。

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