匠のつぶやき Vol.12


異国で出会った同業者―閑話休題

 師匠の紹介で私が所属することになったに日本国際美術家協会は、毎年開催国を替えて公募展を開催しますが、今年はナポレオンの生まれ故郷、南仏のコルシカ島でした。はからずも周囲の温かい応援により参観団に加わる事が出来、全く予備知識のないまま機上の人となりました。


製本のアトリエで会った女性の職人さん
 乗換えを含め延々17時間の長旅で、一万キロ離れた初めてのコルシカ島に着いたのです。四国の半分くらいの面積だそうです。北東部オートコルス県、首都バスチアの県議会場には、オープニングレセプションに駆けつけた地元フランス人が続々入場して、それは大変な熱気でした。
 滞在中の盛り沢山のスケジュールの中、アトリエ訪問の日がありました。
 山間の地形に沿って建てられた古い家並みが、迷路のように続く集落サンニコラオの町は、四、五百年もの間、時が止まっているかのようでした。澄み切った冷たい風が吹き抜ける一段と高い一角に、小さな製本のアトリエがありました。中に入って驚いたのは、皺深いお爺さんがいるかと思いきや、職人さんは何とチャーミングな女性だったのです。窓辺の作業台は、まるで家に帰って来たかのような懐かしさで、しばし、コルシカの山奥にいることを忘れてしまった一瞬でした。
 通訳してもらうのももどかしいほど「何代目ですか?」「どんな方に弟子入りしたのですか?」と矢継ぎ早の私の質問に、彼女の答えは意外に冷静。「パリの学校で五年間勉強し、この町にあこがれて15年前に越してきました。」更に、「今はその学校もなくなり、修復の技術者はほとんどいません」
 ___あぁやっぱりこの国もですか。修復の合間に千代紙を使った和綴の本を手がけてみたり、女性ならではのチャレンジに共感を覚えました。「肩が凝るでしょう?」の質問に、異国の同業者は「ウィー」と笑ってウィンクしてくれました。


※「佐竹本三十六歌仙装芸画絵巻の誕生 その2」は次回掲載します。

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