匠のつぶやき  Vol.1


「装芸画」とは布の象嵌です





お客様と本紙の仕立てについて打ち合わせする筆者(アトリエで)

 聞き慣れない言葉だと思います。ごくごく少数の方は、すでにご存知ですが、簡単に言いますと、“表装”の絵画という意味です。
 千二百年以上の長きに亘り、発案者である我が師、小渕陽童の前にはこの不思議な絵画を考え出す人は現れなかったのです。洋の東西にかかわらず、歴史上初めての事を成し得た人物に遭遇し、しかもその研究に参加出来るのは、至極稀有な事ではないでしょうか。
 私が幸せを感じるのは、二十歳代に入ったばかりの時に師匠に弟子入り出来た事と、何の先入観も無しに日本の伝統工芸の世界で修行が出来た事、そして何よりも、その延長線上に、師の創案したアートの世界、装芸画があった事です。
 弟子入りしてまもなく、早春の吉野は紙漉きの里へ連れて行ってもらい、初めて和紙の出来上がる工程を目の当たりにして愕然としました。呆れる程とことん手仕事そのものなのです。それまでは書画に使う、いわば書き手に使われる和紙だけを見て来ましたが、日本の美術品を今日まで支えて来た、裏打ちに使う“仕事する和紙”の存在をその時初めて知ったのです。改めて日本の奥深さを再認識し、世界に誇れる和紙のすばらしさに強く惹かれました。
 あの吉野での感動は、三十年を経た今でも忘れる事はありません。先人が遺してくれた財産に、現代を生きる我々が新しい技法をプラスして次代に引き継ぐ事が出来たら、和紙作りのの大変な仕事も絶える事無く継承されるのではないでしょうか。
子供の頃から憧れていた平安時代の長い黒髪の女性を表現して、これ迄、中国、ヨーロッパ等の海外展にも出品して来ました。裏打ちの和紙は裂地(きれじ)に隠れて見えませんが、世界中に、この日本の文化のすばらしさを紹介するのが夢です。


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