■ ここで、会いましょう・・・writer:KANON

小さなメモを片手に、私はその店の前に立っていた。
メモには、ここまでの簡単な地図が記されている。

「ここだ・・・」

私は一件の喫茶店の看板を見ながら、そうつぶやいた。

―― すー・・・はぁ〜・・・

店の中に入る前に深呼吸。 
心の中で「よし!」と一声かけて、私は店のドアを開けた。

 「いらっしゃいませ」

可愛らしいウェルカムベルの音に次いで、人当たりの良さそうな男の人の声に出迎えられた。

 「お一人さまですか?」
 「あ、はい・・・あ!いえ、後から人が来ます」

私は多少慌てた口ぶりで答えた。
マスターらしき男の人は、にっこりと微笑むと『分かりました』と答えて
店の奥、窓側の席へと案内してくれた。 
席に座って、そこから遠目にも入口がよく見えることに気付く。
後から人が来ると伝えたから、配慮してくれたのかも知れない。

―― それに、奥の席にしてくれて良かった。

見ると、今のところ店内にはどうやら私以外にお客は居ないようだったが、
初めて入る店だと、周りに他の人が来るのは何となく落ち着かない・・・。

―― ずいぶん、気の付くマスターだなぁ・・・喫茶店のマスターってこれが普通なの?

私は、ボンヤリとそんな事を考えながら、何気に腕時計を見た。
今日で何度目だか。
朝から時計が気になって仕方がなかった。
なんと言っても、今日は絶対に遅刻なんか出来ない。

―― 大事な人と会うんだから!! 

でも・・・待ち合わせまで、まだ40分もある。

―― さすがに、早すぎたかな・・・

そう思ったとき、マスターが自ら注文を取りに来た。
お水を入れたコップをテーブルに置くと、メニューを開いて差し出された。
私は、既にメニューを決めていたが差し出されたメニュー表を受け取って種類があるかどうかだけ確認した。

 「アールグレイを、ミルクティにしてください。ホットで・・・」

マスターは、また優しそうな目を細めて微笑むと、『かしこまりました』と言ってメニュー表を閉じた。


マスターの後姿を見ながら、私はまた大きく息を吐き出した。
心臓が波打っている。
待ち合わせと言うのは、普通でも割と緊張するものだ。 

―― それが、特別な相手となれば尚更・・・

会いたいと持ちかけたのは私の方だった。
まさかOKの返事を貰えると思わなかったので、驚いたが正直に嬉しかった。
『私の方から会いに行く』と伝えた。

だって、会いたいと言ったのは私なんだし・・・。
昨夜は、あまり眠れなかった。色々と頭の中で思いを巡らせている内に朝になり、
時計と睨めっこしつつ、ちょっとした小旅行へと出発。

 目的の駅に着いて、前日にFAXで受け取った待ち合わせ場所の喫茶店までのメモを片手に、ここまで何とか無事に辿り着いたと言うわけだ。 
朝食も、ろくろく喉を通らなかったが、さしてお腹も空いていない。

―― でも、やっぱり少しは何か食べておいた方がいいかな?

そんな事を考えていると、マスターが銀色のトレーに注文した品を載せて、こちらに歩いてくるのが目に入った。

 「お待たせいたしました」

丁寧だが、嫌味のない口調でそう言うと、トレーからテーブルへと品物を移す。

 「・・・?」



ティーカップと一緒に、クッキーを入れた皿がテーブルに置かれたので、私は 小首を傾げた。
セットなのかと思ったが、そんな少量でもない。

 「あの・・・私、クッキーは注文してないですけど?」

ちょっと申し訳ないような声で、マスターを見上げてそう訊ねるように言う。
マスターは、また目を細めて微笑んでから

 「サービスです。・・・少し甘めのクッキーですが、気分が落ち着かれますよ。」

そう言われて、私は自分の頬に両手を当てた。
赤くなっていたかもしれない。
顔に出るほど、緊張しているのがバレバレだったのかと思ったからだ。

 「すみません、実は・・・初めて会う人との待ち合わせで、ちょっと緊張しちゃってて。」

私は、聞かれもしないのに言い訳するようにしゃべり出した。

 「初めて会われるのですか?」
 「ええ、でも初めてって言っても、もう長い事知ってる人なんです。」

自分の言っている事が、矛盾しているのに気付いて、

 「あ、インターネットで知り合って、仲良くなった方って意味です。」

マスターは、『ああ、なるほど』と納得したように微笑んだ。

 「あ、女性ですよ!?」

私が慌てて付け加えるように言ったので、マスターは『ふふっ』と可笑しそうに笑った。
それで私も、可笑しくなって一緒に小さく笑ってしまった。
紅茶とクッキーを頂きながら、調子に乗って、(ネットでの)出会いの馴れ初めから、
どんな風に仲良くなって、自分が落込んだ時に、どれだけ彼女の言葉に救われたかとか、
時には彼女の相談に乗ったこととか、会ったこともないのに、やたら気が合うんだと力説するに至った。 

―― 何を一生懸命に説明してるんだか。

でも、マスターは嫌な顔ひとつしないで、黙って聞いてくれていた。

 「でも、一度も会ったことはないんです・・・」

私は、最後にそう言った。

 「その方に、これから会われるんですね?」

私は、小さく頷いた。 
心臓の辺りに手をやると、またドキドキと動悸が激しくなってくるのを感じた。

 「怖いですか?」



私は、弾かれたように顔を上げた。
会えるとなってから、ずっと思っていたこと。
ネットの世界で、本当にとても仲良くしていたから、会っても大丈夫だと思った。
でも、もしも・・・もしも本当に会って、うまくしゃべれるかしら?
付き合い方が変わったりしないかしら? それより、幻滅されたりしないかな・・・
会えるのは嬉しいのに、悪いことばかり考え始めてしまう自分がイヤになる。

―― でも、やっぱりどうしても会いたい。まるで、恋してるみたいな妙な気分・・・。

 「・・・あ、そうだ・・・会う算段をしてからお互いの顔写真を交換したんです。これが、彼女・・・」 

私は、そう言うとカバンの中に入れて持ってきた写真を一枚取り出した。
マスターは、『拝見しても?』と聞いたので、私はちょっと考えて頷いた。
写真を見て、マスターは一瞬目を大きくしたような気がしたが、すぐにニッコリと優しい笑顔を私に向けた。

 「もう一杯、紅茶をいかがですか?」

マスターの問いかけに、私はまた腕時計を見た。

 「そうですね、ではもう一杯、同じものを・・・ここの紅茶、とても美味しいです。」
 「ありがとうございます。」



マスターは嬉しそうにそう言うと、私に写真を返してまたカウンターの方へと戻って 行った。
胸の中で、ひとり考え込んでいたものを吐き出したせいか、それとも紅茶と甘いクッキーのお陰か、私は少し落ち着いてきた。
きっと、彼女も、もうすぐ来るだろう・・・急いで道を歩いているに違いない。
まずは、『はじめまして』? それとも・・・




―― チリンチリン・・・

ウェルカムベルの音が鳴った。マスターの出迎えの声がする。
私は、ゆっくりと入口に立つその人へと視線を向ける。
ちゃんと顔を見るまでもない。直感で『彼女だ』と思った。
マスターが手の平をこちらに向けている。きっと『あちらで、お待ちですよ』と言っているのだろう。

彼女がこちらに歩いてくる。ちょっと緊張してるのかな?途中のテーブルに軽くぶつかった。 
いよいよ、目の前に来る寸前で、私も席から立ち上がった。 
彼女の照れたような笑顔が、よく見える。私の顔も自然とほころぶ。

 



 「やっと、会えたね」 




―― それが、始まりの言葉だった。

 

参加者さまより:サリオ♪一周年おめでとう&企画参加させてもらってありがとうv
エッセイと言うものを、書いた事がござりませぬ。(^^ゞ
いかにも、怪しい代物になってしまって申し訳ないです。。。(汗)
物語は、あくまで想像です。(笑)
「誰と誰」とは言いませんがぁ★まぁ、こんな感じだろうか?と・・・(笑)
いつか、そんな日が来る事を夢見つつ・・・
これからも、深〜い!!女同士の友情を育もうぞ!(笑)\(^o^)
と、言う事でお祝に代えさせて頂きますm(__)m

管理人より:ありがとうございました。
いやぁぁん♪(←壊れた。)
そうね。ちなみに多分誰かは、何もないところで
躓くような奴なのでテーブルの何個かはずらすでしょうね。(確実に)
ああっ☆何か凄くどきどきして(これは恋??)拝読させていただきました♪
この「私」と「誰か」のような出会いって、今の世の中珍しいのか
よくあることなのか・・・それはよく分からないけど・・・。
やっぱり、それは運命のなせる業・・・。(おい??)
究極関係ないけど、大丈夫!サリオもよくわかんないから「エッセイ」って
随筆ってなに??って感じなので☆(お前がそれではいかんやろっ☆)
そのうち、「未来日記」ではないが「未来エッセイ」になるように
できたらいいよねっ☆うふふふふ・・・・。
兎にも角にも♪KANONの愛を感じたところでっ☆
本当に、無理を言ったような気もしないでもないけど♪
参加してくれてありがとう♪すっごく嬉しかったよ☆
これからも愛・・・もとい・・・こほんっ
友情を育みましょうっ☆(懇願☆)