■ サプライズディ・・・writer:Yuka.A

「ぁ〜〜〜っ………ココかぁ…」

親友・咲音に紹介されてやって来たお店の前で、私はふぅ〜、と溜息を漏らした。

『マスターも店員さんも、とても親切な人たちよ!!』

新婚の彼女は、そう言ってココに行くまでの地図を書いてくれた。
(こんなに大雑把な描き方なのは…きっと、相手が私だからかもしれないけど…)
本当なら一緒に来る筈だったけど、やっぱり新生活は色々と忙しいらしい、
私はそれを察して、ヒトリでココへ来た。


ウェルカムベルをくぐると、若い店員さんが暖かい笑顔で迎えてくれた。
「あの…カウンター席で、お願いします」
何故か咲音に、
『初めてならカウンター席がオススメだから!!』
と、力説されてしまい…私は素直に従うことにした。
「カウンター席………どうぞ、こちらへ」
数拍置いて、店員さんはそう答えた。
私はその後に付いて行くと、もう2人、別の店員さんがオーダーを受けた飲み物を作っていた。

「こちらへどうぞ」

イスをすすめられ、私はドギマギしながら座った。
ホント…あくまで私的視点だけど、こんな高貴お店自体、なかなか来ることはナイ。
「メニューがお決まりになる頃、またお伺い致します」
そうして店員さんは一礼して、去って行った。


『ホント…悪い、また―』
こんなときまで…どうしてアイツを思い出すのだろう?
他に何も考えることがなかったから?
…ただ、もう2年も付き合えば、我慢するとき位分かっているのに…。
「今更…だよ、一貴のヴァ〜〜〜カ」
特に意味のない独り言を吐き、あまりの虚しさに…また溜息を漏らしてしまった。
(って!!何をしに来たのよ…私は。幸せを貰いに来たのに)
あぁ〜…また溜息が漏れてしまった。今日だけで幾つ『幸せ』を逃したのかな?


「ご注文は、お決まりですか?」
ヒョイ、と顔を覗かせたのは先刻案内してくれた店員さん。
「あっ、この…オススメの珈琲でお願いします」
「キリマンジェロですね、かしこまりました」
満面の笑みを浮かべ、また去ってしまった。
(タイミングがよ過ぎというか、心臓に悪いというか…)
物思いに浸りすぎた私も私だけど…
「このお店は初めてですよね?」
またまたヒョイと顔を出す先刻の店員さん。
流石の私も目を丸くした。
お店は空いている訳でも、混み合っている訳でもない。
でも勤務中…油を売ってもイイのだろうか?
「え…あ、ハイ。友人の紹介で来ました」
「そうですか、もしかして咲音さん夫婦ですかね、先日見えて『今度友達を連れてくる!』と言っていましたし」
どうやら、咲音は私がココへ来ることをこの店員さんに話していたみたいだ。
そう、私は「はぁ」と返事をすると、カウンターの奥から、ほかの店員さんの声。
「マスター、ちょっといいですか?」
その声に…何故か私の目の前にいた店員さんが、
「良いですよ、今向かいます」
と、返事をした。
つまり…今の今まで喋っていた人は「店員」ではなく「店長」だったらしい。
(とても失礼なこと言ってたような…)
ま、今更気にしても仕方ない。
私は、少し余裕が出てきたのか、店内を見回してみた。
落ち着いた雰囲気の中に流れるBGMに、お客さんの心は癒されているように見える。
きっと…先刻のような『会話』も、その効果に含まれるのかもしれない。
(みんな…幸せそう)
そう思うと、酷く自分が滑稽に見えた。


「おまたせしました、キリマンジェロになります」
━カタッ
カップを置く音、それはカップから出る湯気に乗っていくようだった。
「どうかしましたか?ずっと上の空でしたが」
店長さんは私の目をジッと見つめながら、隣の椅子に座った。
「ぇっ…そうでしたか?」
何だか気恥ずかしくなり、私は慌ててカップを口に運ぶ。
ちょっと苦い、でも香ばしい…そんな珈琲は私の心を十分すぎるほど癒してくれた。
「美味しい」
「それは、良かった…おやっ、イイ匂いがしてきましたね」
そんなことを言っていると、店員さんが焼き菓子を持ってきてくれた。
「サービスです、おひとつ如何ですか?」
香ばしいアーモンド、すぐにそれがフロランタンだと分かった。
「懐かしい…」
私が、一貴に初めてあげたお菓子。
まさか、こんな所でお目にかかるとは…夢にも思わなかった。
「いただきます」
一口…食べただけなのに、私は視界が歪んだ。
「美味しいですか?」そう言いながら、ハンカチを私に差し出してくれる店長さん。
普通なら「大丈夫ですか?」とか同情の言葉なのに…まるで私の心の中が見えているように、店長さんはハンカチを貸してくれた。
「すみません…みっともない所…」
「また、俺のせいで泣いてたのか?」
店長だと思ったその人は…顔を見ずとも声で分かった。
ううん、分からない方が…どうかしてる…。
「一貴…どうして、今日―」
「やっぱり…ダメだな、俺―いっつも空回りして…」
「一貴…」
私はこんな一貴を初めて見たせいか、どんな言葉をかければ良いか分からなかった。
「これ…のためにさ、今日走り回ってたんだ」
そう言って、私の右手を掴み…掌に握らせた。
「…指輪?」
それは私の薬指にピッタリな、指輪だった。
「誕生日だろ?今日…左手じゃないのは…いつか、ちゃんと…一緒に選びたいからさ」
「バカッ…」
「おっ…懐かしいな、フロランタン」
パクッと口に運ぶ一貴。
「本日の特別メニューです。お口に合いますか?」
店長さんの驚きの発言。
何処か…咲音たちが加わっていそうだったけど…。
今は、この温かさに浸って…知らずに空いてた隙間を、埋めようかな…?
店内は珈琲の香りが立ち込め、私と一貴を…優しく包み込んでくれた。

「誕生日おめでとう、沙彩」

 

【後書】
随分前に、書き始めた作品です。
今回は『店長』カナリの脇役?!です。
あっ、でも沙彩と一貴の『鍵』を密かに持っている…そんなポディションです^^
サリオさん、遅くなってすみません!!

管理人より:ありがとうございました。
忘れることなく足を運んでいただけてとても嬉しいです。
そしてほのぼの暖かなお話を投稿していただきまして感謝いたします。
またいつでもごゆっくりとどうぞ…。