巨虫伝説 〜魔族だってお年頃〜

槐さんが(感想BBSで)くださった感想の一文に爆笑して浮かんだ、お馬鹿小説です。槐さんありがとう。そしてごめんなさい(汗)

-------- 【11】話のラスト一行から続いてます --------


>アシュレイは巨虫の口元を見て青ざめ、言葉を失った。

「・・・なんで、あんな怪物が口紅・・・?」
 黒光りする一対の大顎に赤黒い色の口紅を塗りたくる巨虫の姿にアシュレイは絶句した。
 ウオータープルーフ処方でないらしいその口紅は濃霧の水分にたちまちの内に流れ落ち、ぼたぼた四方に散っている。
「だーかーらー! 黒光りしてんのに、赤黒い色塗ってどーすんだよ! ほとんど目立ってねえよ! どうせならオペラピンクやらゴールドとかの目立つ色にしろよ!」
「て…柢王?」
 巨虫の大顎の先で柢王が説教をたれている。
 同じく宙に浮かんであんぐりとこちらを見つめるアシュレイに片目をつぶってみせた。
『ひ・ひどいわひどいわ〜、この色が今年の(冥界での)流行色なのに似合わないなんて言うなんて〜〜しくしく』
 柢王の説教に巨虫がぼたぼた涙を流して身をよじった。ハッキリ言って気味悪いことこの上ない。 「虫には(人とは言いたくないっ!) それぞれ似合う色ってモンがある! 悔しいなら今日から美白に励むんだな!」
『生まれた時からこの色なのに…美白なんてどうしていいかわかんないのよう』
「まずビタミンCを多めに取る。」
『ふむふむ』
 柢王の言葉に巨虫が身を乗り出す。 「一年中きちんとUV対策をして、それから」
『それから?』
「スキあり」
 言うなり、柢王は速攻で後ろに飛んだ。一瞬前まで柢王がいた位置を、白熱する劫火が薙いだ。巨虫は一瞬にして炎の塊になり、炭となって砕け散った。
「…だまし討ちで悪いが、天界に現れたのが悪いって事で。ま、機会があったら美人に生まれ変わってこいよ〜」
「こんなアホらしい勝ち方はいやだあああ!!」
 柢王の合図で、柢王が巨虫の注意を引きつけている間に呪文を唱え、空中で斬妖槍から炎の大技を放ったアシュレイがわめき、がっくりと肩を落とした。

 遠見鏡で一部始終を見聞きしていたティアが、事の成り行きに唖然としていたが、気を取り直したように言った。
「……と、とりあえずアシュレイが無事でよかった。…だけど、柢王、どうして化粧品のことあんなに詳しいのかなあ」
「花街仕込みに決まってます。…決めました。今度から生活費に困ったら、柢王に花街の化粧品店で売り子をして貰うことにしましょう。」
「…け、桂花?」
 穏やかな笑みを浮かべながら、指をぼきぼき鳴らしている桂花を見て、ティアは青ざめた。

 …ぴっちょーん♪
 水音高く響き渡る冥界で、黒い湖面を見つめていた冥界教主が怒りに肩を震わせていた。両手に掴む扇を、真っ二つにへし折って怒鳴る。
「…どこのどいつだ? 虫に化粧なんぞを教え込んだヤツはっ!」 「………」
 教主の怒りに打たれたかのように青ざめた李々が頭を垂れる。…しかし背後に回った右手でVサインをしていたことは、誰も知ることはなかった。

完。