一分小説 〜守護主天様の動体視力〜
天主塔執務室。
天界最上の貴人にて、最高の権威たる守護守天。ティアランディア・フェイ・ギ・エメロード。
彼は今日も忙しかった・・・・・・。
「あっ!さっき、遠見鏡の右端を赤いモノが通り過ぎていった! アシュレイ発見! ・・・と思ったら、
首に赤いリボンを巻いた冰玉だった〜〜〜」
「・・・・・」
「あっ! 画面上部に赤いモノがっ! 今度こそアシュレイ発見! ・・・・・と思ったら、シッポに赤いリボンを巻いた孔明だった〜〜〜」
「・・・・・・おい、桂花。ずっと、あいつあの調子かよ」
遠見鏡に張りつく天界最高の貴人の背中を哀れみをこめて見つつ柢王が桂花に聞く。
「・・・・朝からあの調子ですよ。 今日はサルが天主塔に訪れるはずだから、出迎えるんだって」
憮然とした表情で、山のごとく積み上がる書類を見つつ桂花が返す。
「南領主催の『愛の赤いリボン募金』のマスコットキャラクターに、冰玉と孔明をかり出して空から
キャンペーン広報すると、一昨日ぐらいに通知があったはずなんですけどね・・・。
―――しかし、黒麒麟の飛翔力をも捕らえる動体視力・・。おさすがです、守天殿。」
感心している場合かよ、と、目まぐるしく変わる遠見鏡の画面を直視しないよう視線をずらしつつ
柢王が桂花の肩をつつく。
「・・・で、いつ話しかけたらいいと思う?」
天主塔の主人を驚かせてやろうと姿隠しの術を使ったまま執務室に入ったものの、目の前で矢継ぎ
早に展開する遠見鏡の場面転換の速さについてゆけず、特大の赤いリボンを掴んだまま目を回して床
に倒れているアシュレイを見おろして、二人は深々とため息をついた・・・。