風太の日常・ダンジョンができるまで④

 俺、SAIL。
すまん、風太。
ネタが止まらんから、もうしばらく続けさせろ。
 「え」

・・・。
婚姻届けを提出し、無事、受理された俺達は、山中の自宅に向かって車を走らせている。
さて・・自宅ではラスタが留守を護っててくれてるワケだが・・愛しの新妻を前に、眷属
とはいえ同性と同棲してる事実をどう説明したものか・・?
あぁ・・そういやぁ、風呂場のコトも有るんだった。
これは、俺の身の上に起こった事情を先に説明しとかないと、エラい目に遭う未来しか思
い浮かばん。
ここは、師匠の助力も必要な気がするので、早急に連絡しとく。
そしたら、向こうも丁度同じコトに思い至ったらしく、我が家で待機しててくれると返事
が来た。
これで、どうにかなるかな?
それはともかく・・なんだか、誰かにストーキングされてる気がするのは、俺の気のせい
なのだろうか・・?
自宅に向かって走る愛車から離れるコト、車7台分強。
原チャリがくっ付いて来てんだよなぁ・・?
まぁ・・山道に入っても付いて来るようなら、完全にストーカー認定だな。
なにしろ、山道の途中からウチの私道だし。
とはいえ・・その私道も、師匠が仕掛けてくれた結界に覆われてるから、部外者は完全排
除されるし大丈夫だろ。
・・なんて思ってたら、ホントに山道付いて来てる。
俺はストーキングされる謂れは無いから、匠ちゃんのストーカーか?
 「匠ちゃん。後ろから原チャリ付いて来てっけど、知り合い?」
 「えっ?・・・・え~・・?遠くてよく分からないけど、たぶん、店の常連さんじゃな
  いかなぁ?なんとなく見覚え有る気が・・」
 「ふぅん。匠ちゃんの隠れファンだったりして・・」
 「えぇ(笑)。そんなの居ないよぉ」
匠ちゃんは否定してるけど、それなりに人気な看板娘だから、居ないとも限らないんだよ
なぁ・・?
まぁ、この先で曲がったら結界に入るから、付いて来れるワケ無いけどな。
師匠の話じゃ、相手に幻を見せて誘導するタイプの幻影結界って言ってたから、この世界
の人間が抵抗できるワケ無いらしいし、仮に抵抗して侵入できたとしても、バリアに弾か
れるらしい。
いやぁ・・つくづく、魔法ってファンタジーだよなぁ・・。
そんなコトを、バックミラーで後方を気にしながら走ってると、私道に入った。
後方を確認してみたが、原チャリが付いて来る気配は無い。
どうやら、撒けたらしい。
しっかし、ホント・・何だったんだろう?
そういえば、これもフラグに成るのかな?
ストーカーに関しては、時間が解決してくれるとはいえ、フラグ回収・・できるのか?
イヤだぞ、知らない誰かに襲われるのは・・。
それから数分・・ようやく我が家に辿り着くと、庭先でウチの番猪が駆け回ってるのが見
える。
猪って・・四字熟語の通りかと思ってたら、結構、器用に走るのな。
それとも、アレ、ウチの子だけか?
 「えー、何!?風くんウリ坊飼い始めたの!?可愛いねぇ・・」
 「あー、うん。まぁ・・番犬代わりというか・・」
言えない。はずみで親とバトって始末しちゃったなんて・・。
 「ねぇ風くん・・。あの子達の親は?」
 「・・・・(感付くの早いって!)」
 「もしかして、風くんのお腹の中?」
 「いや、その・・(どっちかってぇと、インベントリの中)」
 「んー・・まだ食べてないの?それとも、お墓作って埋めた?」
 「や・・その、ちょっと事情が有って・・その件も含めて話さなきゃならないコトが色
  々有ってさ・・。先ずは、家入ってよ」
 「ふぅん・・。私に隠し事?」
 「や、違う。違うんだ!言い忘れてたのは俺のミスだけど、元々、結婚前に話すつもり
  だったんだよ。だけど、何故か話す前に結婚成立しちゃってたワケで・・」
 「まぁ・・今朝のメールで、何か有るんだろーな?とは思ってたけど、確かに、色々話
  す前に、結婚話が先走ってたわね。・・で?何が有ったの?」
 「おーい。いつまで玄関先でモメてんだ?早く入れ」
 「あ、はい」
 「え。セイ兄!?なんで、ここに!てか、いつのまに!?」
驚く匠ちゃんを連れ、そそくさと自宅に入り、居間に通す。
そこには、ちゃぶ台に麦茶とお茶請けを用意してスタンバってる師匠と、気疲れした様子の
ラスタが居た。
ご、ごめんよラスタ。
師匠とはいえ、神様と一緒に居るのは色々キツいよね?
そんな俺の様子を知ってか知らずか、2人分の麦茶を注いで出してくれた。
本来なら、1体で世界を滅ぼせるほど強力な魔物のハズなんだけど、家政婦・・いや、家政
夫みたいになってんな?
 「風太的には、さっそく尻に敷かれてるワケだが・・先ずは、経緯と現状を説明しよう」
・・・と、いうワケで、異世界転移から俺と師匠との出会いを経て、現在に至るまでの説明
を、身振り手振りを交えながら説明するコト約30分・・。
何故か半目で視線を寄越す匠ちゃんが・・。
これは、信じてないな。
 『師匠、どうしよう?これ、絶対信じてないよ?』
 『う~ん・・ちょっと、爆弾落としてみてイイか?』
 『な、なにする気!?』
 『いや、ちょっとな・・』
 「なぁ、匠ちゃん。創逸から過去の話とか聞いてる?」
 「え。お父さんの過去・・?それって、何の話ですか?」
 「まぁ、聞いてないよなぁ・・。言うとも思ってないけど・・」
 「お父さんの過去と、今の説明に関連性が有るんですか?」
 「ん~・・まぁ、無いワケじゃないけども・・さっきの説明で、匠ちゃん的に納得してな
  い部分って、どの辺?」
 「風くんの異世界転移と、同性の同棲相手が居るコトと・・風くんが人間辞めちゃってた
  コト・・かなぁ?」
 「あ。俺が神だってコトには納得いってんだ?」
 「そこは今更かな?だって、セイ兄・・昔っから若いまんまで、姿変わらないし、もしか
  したらそうなのかな?って、予想してた」
 「さいで。まぁ・・ぶっちゃけ、創逸は別の進化を遂げた平行世界の日本で生きてた冒険
  者だったんだよ。とはいえ、魔法文化には到達してない、いくつか存在する平行世界の
  ひとつではあるが、そっちで死に掛けてたのを俺が拾って、こっちの世界に連れて来た
  人間だな。その後・・紫香楽家に婿入りして、現在に至るワケだが・・創逸の年齢知っ
  てるか?あれ、今年で238才だぞ」
 「「え」」
 「いや、なんで風太まで驚いてんだ。ヤツも神だって言ったろ!」
 「や、予想以上に歳行ってたから・・」
 「お父さんが・・238?で・・神様!?」
 「ああ。神化したのを切っ掛けに、俺の弟子になったのさ」
 「風くんも?」
 「あー・・いや、風太の場合は、一瞬、俺の使徒だったけど、進化の過程で神化しそうだ
  ったから、俺の弟子になった・・が、正解かな。来年にはダンジョン生えるし、早めに
  鍛えるべきだと思ってさ」
 「ダンジョン・・って、生えるモノなの!?」
 「何も無い所に、突然何の要因も脈絡も無く出現するのは【生える】って言わないか?俺
  的には、【生える】が正解だと思うけど・・」
 「あー・・・言われてみれば、そう・・なのかなぁ・・?」
 「で、だ。創逸が平行世界の日本という異世界から来てる時点で、何らかの事象に依る異
  世界転移は有るモノとして納得して欲しいんだが・・ここまではイイか?」
 「う~ん・・まぁ、無理矢理だけど、納得しましょ。あとは、同性の同棲者が居るコトに
  ついては、どう言い訳してくれるの?」
 「言い訳も何も、ラスタは風太にテイムされてから条件を満たして眷属になったって言っ
  たよな?基本的に、ラスタの居場所は風太の影の中に潜む形になるから、同棲とは言わ
  ないんじゃないか?まぁ・・家に居る時は、出てるコトも有るだろうけど・・」
 「でも、人型の魔物をテイムしちゃったら、さすがに庭のウリ坊達と同列のペット枠では
  無理が有ると思うのよ。そうすると、やっぱり同棲者としか思えないワケで・・」
 「匠ちゃんも人型の眷属を持つようになったら、風太も似たような悩みにぶち当たるのか
  ねぇ・・?俺にとっての眷属は、友人とか家族のような存在として認識してるから、そ
  ういう方向性で悩む意味が分からんのだが・・。意思を持って、会話が成り立つ相談相
  手が増えたと思って付き合う方がイイんじゃないか?」
 「むぅ・・。まぁ、風くんが同性趣味に走ったワケじゃないのは分かったから、扶養家族
  が1人増えたと思えばイイのかな」
 「えっと・・ラスタです。お世話になります?」
 「あ、はい。・・なんだか、複雑な気分だわ・・」
う~ん・・これは、納得してくれたと思ってイイのかな?
あとは、風呂場かなぁ・・。
 「で、さぁ・・裸族夫婦!さっそくだけど、風呂行かん?」
 「・・セイ兄、なんで私も裸族って知ってるの!?」
 「裸族な風太と結婚するぐらいだから、当然、匠ちゃんも裸族に決まってんじゃん。相方
  が理解しててこその裸族だろ?」
 「まぁね。そうじゃなきゃ、こんな山ん中に家土地買わないし、好んで住まないよ。車が
  有るとはいえ、買い物行くにも不便だし」
 「匠ちゃんのコトは、産まれた時から知ってるからな。無事、結婚も出来て・・創逸の後
  見人としての立場も有る俺としても、安心したよ。まぁ・・嫁ぎ先が、弟子んトコだけ
  ど・・」
 「ねぇ師匠・・。これって、偶然だよね?」
 「言いたいコトは分かるが・・完全に偶然だな。そもそも俺は、匠ちゃんに恋人が居るコ
  トは知ってたけど、お前だとは知らなかったんだから。そして、そいつが弟子になって
  るコトも、予定外な出来事だしな」
 「神様も万能じゃないんだねぇ・・」
 「それ、風太にも言われたぞ。ぶっちゃけた話・・全知全能な神が居たら、確実に過労死
  するからな?」
 「あー・・・それで、お風呂だっけ?」
 「この家の中で、特殊な変貌を遂げた一角だな」
 「・・ん?特殊な変貌?」
 「まぁ、楽しんで来るとイイ。混浴だし、色々居るからさ♪」
一応、説明するべきコトは説明したし、話さなきゃならないコトも話せたとは思うけど・・
あの大浴場には、きっと圧倒されると思うし、向こう側に居る兄弟子・姉弟子の皆さんに匠
ちゃんを紹介しなきゃと思ったら、なんだか楽しくなってきた。
そのうち、匠ちゃんにも修行してもらって、一緒にダンジョンの攻略に付き合ってもらえれ
ば、きっと新婚生活も楽しさ倍増だろう。


                       ≪つづく≫