風太の日常・ダンジョンができるまでB 俺、風太。 なんだか知らんが、俺の物語だけで8話目なんだが・・イイのか? これって、外伝だろ? 1話完結とか、長くても前編・後編だろ? 長過ぎないか!? まぁ・・俺が気にするコトじゃないけどさ・・。 さておき。 俺は、師匠の言葉に従って、相方との結婚に向けた話し合いをするべく メールを投げたら、何故か相方の親父さんから呼び出し命令を喰らうハ メになり、郊外の相方宅・紫香楽(しがらき)家に来ている。 無論、人里に出た時点で装備は換装済みだ。 相方の実家は【狸料理専門店】を営む老舗料亭【貉亭】・・だったんだ が、現在、14代目になる親父さんが後を継いでから数年後に、狸ガラ で出汁を採ったスープでラーメン販売を始めると、ラーメンブームの後 押しが起爆剤になり、現在、昼だけ【ぽんこつラーメン・ムジナ亭】、 夕方からは【狸汁の貉亭】として営業している。 豚骨ラーメンならまだしも、ぽんこつって・・。 初めて訪れた時は、ネタかと思ってたんだけど、意外にも流行ってるん だよなぁ・・これが。 ここの狸は、個人で狸牧場を経営してて、果物だけで育てられてるから 臭みが少ないらしい。 昔の専門店時代は、要予約で山から狩って来てたらしいけど。 ただ・・出汁の為に屠殺される狸が可哀そうとか、一時期騒がれてた気 がする。 肉は、夜の部で狸汁になってるんだけどなぁ・・? そもそも狸って、農家にとっては駆除対象な害獣なんだけど、よく認可 されたなぁ・・。 そんなコトを思いながら、客間に通された俺は、何故か床の間に飾られ てる狸の剥製を眺めながら、ほうじ茶を啜っていた。 「おう、来てたか!・・なに、遠い目してんだ、お前?」 「あぁ、いえ。ちょっと、アイツと目が合った気がして・・」 「・・そうか。で?」 「あー・・・・そろそろ匠(しょう)ちゃんと一緒になろうかと思って 連絡したんですけど・・なんで、急に呼び出されたのかと・・」 「・・・。確か、結婚を前提に・・て、ウチに挨拶にも来てたな?」 「はい。筋は通しておこうかと・・」 「ゆくゆくは、匠を嫁に・・って話も、確かに聞いた」 「はい」 「でも、お前・・あの当時は定職に就いてただろうが!なんで、今、 プーなんだよ!?」 「・・なんででしょうね?」 「他人事みたいに、お前・・生活費とか、どうなってんだよ・・」 「実は・・その・・宝くじが高額当籤してまして・・」 「あ゛!?」 「ちょっとした贅沢をしても、100年は余裕で遊んで暮らせるレベ ルだったりします」 「おい。そんな話、初耳なんだけど・・?」 「匠ちゃんは知ってますよ?話が拡散してないのは、縁も所縁も無い 知らない親戚が増殖するのを防ぐ為・・ですかね?」 「あー・・それは確かに、必要な情報統制だけど・・俺には一言有っ ても良かったんじゃねぇか?」 「匠ちゃんには言いましたよ?家族の中で信用できる人には言っても 構わないって」 「がはぁ!!そ、それは・・俺が匠にとって信用ならないってコトな のかぁ!?」 「それは本人に聞いてくださいよ。俺からは、何とも・・」 ちなみに、こことウチ(実家)は、同じ町内会の御近所さんで、匠ちゃん とは元々、同い年の幼馴染な関係だ。 そんな2人が、恋人を経て婚約者に至るのは高校に入ってすぐぐらいだ った気がするなぁ・・。 現在も、我が実家は近所に在るし・・両親と2人の弟達も健在だ。 あの家で、俺だけが【裸族】を発症して、山の中に移住したのだが・・ 実は、我が相方である匠ちゃんも【裸族】が発症し掛けてたりする。 だから、山中の自宅に嫁入りする分には、何の問題も無かった。 実家暮らしのままだったら、何処かに一軒家の借家でも持とうかと思っ てたんだけど・・それも高額当籤のお陰で解決してる。 つーか・・師匠にも気を付けるよう言われてたのに、ネットで宝くじを 買い続けてたのが、軒並み高額ヒット連発中で、既に4桁億円レベルで 現ナマが有ったりする。 総てタンス・・もとい、インベントリ預金になってるが・・。 チートなラック値、恐るべし!! あまりにも轟運過ぎる・・。 ピンポ〜ン♪・・ピーンポ〜ン♪ 「あれ?おやっさん、お客さん・・」 「あぁ・・もう来たのか。お前との話し合いが終わってからの予定だ ったんだがなぁ・・」 「どうせ、実家に居ると思い込んでて呼んだんでしょ?俺、もう家買 って移住したあとだったんで、こっからちょっと遠いんスよ・・」 「それも、もっと早く聞いときたかったぜ」 ピポン、ピーンポ〜ン♪ 「はいはぁ〜い。お待たせしました〜」 「あぁ・・匠が行ったみたいだな。俺も、ちょっと迎えて来るから、 このまま待っててくれや」 「了解っス」 そのまま待っててみると・・何処かで聞いたような声が近付いて来る。 ・・あれ?まさかとは思うけど・・。 なんだか、このあとの展開が読める気がする。 そうして、襖の向こうから現れた人物と目が合い、数瞬の間、沈黙する 俺ら。 その間をどう勘違いしたのか、おやっさんが紹介を始めようとするのだ が、先に口を開いたのは俺だった。 「師匠?」 「風太!?」 「・・あ?知り合いだったか・・って、師匠!?」 「「どゆこと?」」 おっと、師匠とハモったわ・・。つか、マジで、どゆこと? 「あー・・この人は、俺と長い付き合いでなぁ・・匠が結婚する時に は仲人を・・ってんで、匠が産まれた時から頼んでたんだ。で・・ 風太は、匠の恋・・婚約者なワケで、今回の当事者の一人ですよ。 で、風太は、何故この人を師と呼ぶんだ?」 「や・・なんでって言われても・・弟子入りしたから師匠なワケで、 そこに問題が有るワケじゃない気が・・?」 「まぁ、そうだな。確かに風太は、俺の弟子になった」 「マジですか・・」 「マジだ」 なんだか、おやっさんがガックリ来てる気がするんだが、なんでだ? 俺としては、師匠が仲人やってくれるコトに関しては問題無いし、そも そも、そういう話をするつもりでこの場に来たはずだったんだけど、既 に仲人の予約が入ってたのは予想外だった。 しかも、相方の実家が師匠と旧知だったなんて・・。 なんて思ってたら、師匠から通信が来た。 『実はな、風太・・』 『はい?』 『この家の大黒柱、創逸はなぁ・・お前にとっては、兄弟子だ』 『・・・・・は?』 『お前・・今朝、あっちで兄弟子連中と顔合わせしたろ?こいつは、 あいつらよりも、更に昔から居る弟子の一人だよ』 『聞いてませんが・・?』 『あぁ、それは・・この家にはゲートが無いからな。向こうの連中と は、なかなか会わないだろうよ・・俺に連れられて来ないと』 『・・なるほど。・・・ん?じゃあ、おやっさんも、俺と同じような 称号というか、立場というか・・?』 『・・今んトコ、家族には一応、内緒でな?』 『あぁー・・え、じゃあ、匠ちゃんて、元々、なんらかの素質とかっ て有ったりします?』 『有るな。つか、俺も、お前が匠ちゃんの婚約者とは知らなかったか らなぁ・・。まさか、弟子の子が弟子と結婚するとは思わんだろ』 『確かに。・・世間て、狭いですよねぇ・・』 『だな。こんな近場で縁が絡み合うのも珍しいけど・・その所為で、 ランクが上がってるとは思いもしなかったよ』 『ランクって・・まさか!』 『その《まさか》だ。来年早々、匠ちゃんのレベル上げしなきゃな』 『まさかの急展開!』 『ちなみに創逸は、畜産を司る獣神だ』 『獣神!?どこぞのプロレスラーじゃあるまいし、その役職名はどう なのさ!?しかも、食獣特化とか・・』 『そうは言うが・・こいつが日本国内に居るから、昔からのジビエ系 が廃れないんだろ。これが異世界だったら、ゲテモノ料理の代名詞 とも言うべき魔物肉料理専門店が何故か受け入れられるのと一緒だ からな』 『あー・・異世界で魔物肉料理って、ラノベなんかだと普通だと思っ てたけど、実はゲテ系だったんだぁ・・』 『太古から、食肉系畜産神が居るから、そういうのが居ない世界なん かだと、普通にゲテ扱いだからな。滅多に無いけど・・』 「あのよ・・2人で見詰め合って黙るの、ヤメてくんねぇかな?なん だか、俺だけ放置されてるみたいで気持ち悪いんだが・・?」 「・・・。『おやっさんて、師匠との通信スキルとか持って無いんス か?』」 『無いな。こいつ、何故か、このテの通信スキルに適性が無いらしく てなぁ・・1回生やしたんだけど、いつの間にか消滅してんだよ。 おかしいよなぁ・・?神が直接与えたギフトスキルなのに、消える んだぜ!?びっくりだよ・・』 『呪われてんじゃないスか?狸に・・』 『呪い無効持ってるのに?どんな凶悪な呪いだよ!?』 「だからよぉ・・俺も混ぜてくれって!」 「・・・。」(×2) 『じゃあ、こっから通常会話な』 『うぃっス』 「で。結婚式だが・・いつがイイ?」 「さすがに真夏はキツいんで、初秋にしません?式場の予約にしても 今からじゃギリギリっぽいですし・・」 「あ、ああ。それは確かにその方がイイとは思うが・・ここは、匠に も確認をだな・・」 「お父さん、今までお世話になりました」 「あ?」 「匠は、風太さんに嫁ぎます」 「え。や・・ちょ!」 「もう、今から引っ越して幸せになるから♪」 「まままままて!まだ、式も挙げてないし、披露宴も・・」 「というワケで風太さん。今から一緒に市役所行こ♪」 「あ、婚姻届け?相変わらず話が早いな・・おやっさんが困ってても 一方通行だし・・」 「匠待て、早い。早いって!」 「善は急げって言うし、こういうのは早く済ませた方が面倒が無くて イイよね♪婚姻届けも、もう記入済みだし」 「いつのまに!?」 「あー・・今年の年始に書きました」 「おい!?」 「振り回されてんなぁ・・」 こうして・・どさくさに紛れたまま、俺達は結婚した。 式は9月に挙げるコトが決まり、匠ちゃんは、ホントに当日、ウチの同 居人になった。 帰りの車に同乗してきた時は、おやっさんが半べそ掻いてた気がするが ・・大人の対応で見なかったコトにした。 女将さんは、終始にこにこ満面の笑みだったけど・・大丈夫かな? つーか・・嫁入り道具とか、どーすんだろ? ・・そういや、匠ちゃんには、俺の激変した内情とか何も教えてなかっ たな・・。 番猪が居るコトも、眷属が居るコトも・・神に成ったコトも。 とりあえず、ウチに着くまでに教えておかないと・・。 とはいえ、先ずは市役所に向かい、婚姻届けを提出しよう。 ≪つづく≫