風太の日常・ダンジョンができるまでA 俺、風太。 昨夜からの酒宴で泥酔した俺達は、完全に宿酔いに陥っていた。 元気なのは師匠だけという、なんだか納得行かない結果に・・。 畳の上で大の字・・もとい、【太】の字で寝転がっていた俺は、 周囲を見渡しながら、朝を迎えた事実を知った。 あ゛ー・・・気持ち悪い・・。 流石に、寝ゲロは無かったけど、このまま安静にしてないと吐く かもしんない。 そんなコトを思いながらも、空腹感が有る俺は、朝飯の心配をし てしまう。 今朝は、お粥な気分だが・・無理だ。 今動いたら吐く。 そう思ってたら、急速に酩酊感が消失して行った。 不思議に思ってると、頭上に人影が現れる。 「おう、起きたか?今、神器の効果を止めたから、もう動ける だろ」 「あぁ、はい。おはようございます。久々に泥酔しちゃいまし たよ」 「事後承諾で悪いが、台所使わせてもらったぞ。朝飯作っとい たから、食えるようなら食っとけ。先に、ガーディアンにも 朝飯出しといたからな」 「・・はい。ガーディアン?」 「柏と楓だっけ?式瑞家の専属ガーディアン」 「あぁ。言い方次第で、凄い役職だよね」 「番犬ならぬ、番猪とか。田舎ならではだがな」 「周辺住民との軋轢や煩わしさが無い分、気楽ですけどね」 「まっぱで出歩くのにも向いてるし・・?」 「そうそう(笑)」 「じゃあ、俺らは帰るからな。用事が有ったら、気楽に呼べ。 師弟関係とはいえ、あんま堅苦しく考えなくてイイのは分か ってるだろうしな」 「あはは、そうっスね」 「あと・・風呂場、ちょっとイジっといたからヨロシクな」 「ぇっ・・風呂場?」 師匠は、まだ寝ている猫耳コンビを小脇に抱え、不穏なセリフを 残しながら帰ってしまった。 あとに残されたのは、こちらもまだ爆睡中の眷属・ラスタと、朝 飯に満足して水浴びを始めた我が家の番猪、そして寝起きの俺だ けだった。 頭をはっきりさせる為にも、まずは顔を洗って、師匠が作ってく れた朝飯を食べつつ、今後のコトに思いを馳せてみよう。 そう考えながら台所に行くと、シジミの味噌汁に山菜ごはん、温 泉卵に焼き鮭まで揃っていた。 ・・材料、何処から調達してきたんだろう・・? とはいえ、ごはんの水加減は俺好みの硬さだし、味も俺が作るよ り美味いかもしんない。 アルコールが消えて、お粥な気分でも無くなってたので、これは ありがたい。 つーか・・神様でも、自分で食事とか作るのな。 そんなコトを考えながらも朝飯を終え、朝風呂でも浴びようかと 風呂場の扉を抜け、脱衣所から浴室への扉を開けた所で有り得な い光景を見て、思考が停止した。 背後に広がるのは、我が家の脱衣所で間違いない。 けど、浴室が有るはずの空間には、超広大な露天風呂が存在して いた。 「イジるってレベルじゃないんだけど・・。何をどうしたら、 こんなコトになるんだよ師匠!?」 俺は、目を覚ましたラスタが探しに来るまで、浴場の出入り口で 呆然と立ち尽くしていた・・。 「マスター?こんな所でどう・・っ!?」 「お、おぅ。なんか知らんけど、師匠の置き土産が凄過ぎて、 ちょっと固まってた」 「なんスか、これ!?」 「・・温泉?だと思う」 「神様なのに、自分とも普通に接してくださるし・・なんか、 規格外ですよね・・」 「うん・・超規格外。ラスタも、台所に朝ご飯用意されてたか ら、食べて来なよ。俺は、風呂に浸かってるからさ」 「・・アンデッドなので、基本的に食事は不要なのですが・・ せっかくなので、有難く頂きます」 台所に移動するラスタを見送ると、タオル片手に、さっそく扉を 潜り抜けた。 眼前に広がる光景に、暫し呆然としていたが・・洗い場の片隅に 頭が寝グセで絶賛ボンバヘッド中の、すごく見覚えの有る猫耳を 見付け、無意識に、その傍まで移動する。 「お?風太か。おはよ」 「ぉ、おはようございます。レイさん」 「あー・・なんか、他人行儀だなぁ。呼び捨てでイイし、敬語 も要らないよ?」 「あ、はい」 「つーか・・こっちに来れたってコトは、セイルが温泉ゲート 設置しといたんだな」 「温泉ゲート?」 「何処かに変わった扉無かった?」 「脱衣所から風呂場への扉の先が、ここに繋がってた」 「なるほど。でも、扉の装飾とかイジってないのかな?」 「いやぁ・・気付かなかったなぁ。でも、風呂場イジっといた って言われてたから、何か有るだろうな・・とは思ってたけ ど、ちょっと予想外過ぎて・・」 「だよなぁ・・。おいらも、こっち来る前は、何度も驚かされ たもんだけど・・もう慣れたな」 「俺は、まだちょっと慣れないな・・」 「まぁ、徐々に慣れりゃイイんだよ。そんな急に慣れろって言 われても無理だし、こっちで暮らすのだって、それなりに先 の話なんだろ?」 「まぁ・・そうだな」 「とりあえずはさ・・ここの温泉は、自由に入れるんだから、 こっちの住人達との出会いの場だと思って、いつでも入りに 来ればイイんだよ。そしたら、色々と慣れると思うよ」 「色々と・・って、なんだか不穏なセリフだなぁ・・」 「それは気のせいだよ」 その後、雑談に華を咲かせながら身体を洗っていると、ラスタも 浴場に入って来るのが見えたので、洗い場に呼び寄せて、2人掛 かりで洗ってやった。 ものすごく恐縮してたけど、構わずゴリゴリ洗ってやってたら、 泡の下から白い肌が見え始めた。 ・・・ラスタって褐色肌だと思ってたんだけど、白だったの!? いや・・そういえば、元冒険者だったって聞いたよな? もしかして、褐色肌だと思ってたのって、垢!? あ。レイもラスタの垢に気付いたみたい。 目が合った俺達は、更に気合を入れて磨き始めた。 もう・・頭頂部から股間を経て足の爪先まで、全身を隅々まで洗 い捲った結果・・肩から指先までの腕は日焼けで褐色肌のままだ ったが、それ以外の部分は垢が取れて、本来の白い肌が現れた。 いったい、どんだけ汚れてたんだよ!? 早々に抵抗を諦めて洗い尽くされたラスタは、なんだかグッタリ してたけど・・俺らも洗い疲れてヘトヘトだよ・・。 つーか・・アンデッドって、精神耐性がカンストしてると思って たけど、精神疲労で潰れてるのって、初めて見た。 痛覚を筆頭とした各種感覚器官も、アンデッドの特性として無効 化されてるハズなんだけど・・ラスタの一部感覚は有効なままみ たいだし・・ノーライフキングとかノーライフカイザーって、他 のアンデッド種とは別系統なのかも・・? とはいえ、それは俺の考えるコトじゃない気がするし・・今日の トコロは、とりあえず温泉を堪能して戻るとしよう。 相方にも連絡取らなきゃならんしな・・。 それにしても・・神界ってなんでもアリか!? 水平線が見える露天風呂とか初体験なんだが・・。 その後、朝風呂を浴びに来た兄弟子達との顔合わせも済ませて、 自宅へと戻るのに2時間ほど掛かってしまった。 さすがに長風呂だったかな? ただ、流石の神界温泉効果で、身体の調子がかなり良い。 これは、病み付きになるかもしんない・・。 あと、ここ、混浴なのな。 姉弟子さんが普通に入って来た時は、超びびった!! そういう大事な情報は、先に言っといて欲しい・・。 ともあれ、自宅に戻ってきた俺は、頃合いを見計らって、相方に メールを投げておく。 さて・・どう説明したものか・・? 元々、結婚を前提に付き合ってるとはいえ、急に言われてもアレ だろうしなぁ・・。 あと、あそこの親父さんが、ちと怖い。 なんか知らんが、独特な雰囲気醸し出してるんだよなぁ・・? まぁ・・返事待ちだな。 いきなり『今すぐ来い!』とは言わn《ピロン♪》・・ぅん? もう返事来た!? 文面は一言・・『昼までに来い!』だった。 しかも、親父さん名義のアドレスから・・。 や・・無理だろ!今、11時過ぎてんだけど!? どんなに頑張っても、着いて13時だって!! その旨、返信してやったら、『いいから、すぐ来い!!』との返 信が、即座に来た。 あれ?親父さん・・なんか、怒ってんのかな? 殴られるのもイヤなので、ラスタ達に留守番を頼み、車庫から愛 車に飛び乗って、急いで出掛けるはめに・・。 ちなみに、現在の服装は、サンダル+まっぱ。 人里に出る直前で換装すればイイだろう・・。 そうして俺は、相方と親父さんが待つ郊外へと向かうのだった。 ≪つづく≫