風太の日常・ダンジョンができるまで 俺、風太。 異世界時間で1ヵ月間の、ダンジョン攻略紀行から帰宅した後、 俺達は昼間っから酒宴を開いていた。 メンバーは、セイル師匠にレイ&リュートの猫耳コンビと、テイ ム後、何故か俺の眷属になってた《不死の皇帝》ラスタの5人。 いや、おっかし〜なぁ・・?眷属化した覚えは無いんだけど? とはいえ、これといって不具合も無いし、別に眷属でもイイのか も・・とか思ってたら、テイムモンスターからの忠誠心が上限値 を突破すると、勝手に眷属化されるらしい。 ・・マジか!? 神様の弟子の眷属が最上級アンデッドって、どうなんだろう? 「いやぁ・・別に構わんだろ。そこにツッコミ入るんなら、俺 の使い魔だって、ツッコミ処満載だぞ。なにしろ、最上級の 淫魔族、カイザーインキュバスだからな」 「それって、珍しい種族なんですか?」 「珍しいっていうか・・総ての淫魔を統べる者で、各次元界に 1体しか存在しないな。そういう意味では、ラスタと同階位 な存在だよ」 「へぇ〜・・強いの?」 「強いな。俺の最近加入した弟子連中に代稽古付けられるぐら いには鍛えてるからな・・」 「うん、強いね。見た目に騙されると酷い目に遭う程度には」 「そ、そうなんだ・・」 兄弟子にあたるレイが、遠い目で語る姿を見ると・・おそらく、 なにかしら痛い目に遭ったのだろう。 この兄弟子も、その可愛らしい見た目とは裏腹に、ハンパ無い強 さなんだけど・・? さすがは神の弟子ってトコか。 それはそうと・・何か、聞いとかなきゃならないコトが有ったよ うな気がするんだけど・・アルコール入ってる所為で、いまいち 思考が定まらない。 なので、当り障りの無さそうな会話から攻めてみようと思う。 「師匠。ダンジョンにランクとかって有るのかな?」 「有るな。基本的には、SからEまでだが・・今回は、ちょっ とだけ難易度設定が高いかもしれん」 「どういうコト?」 「う〜ん・・ホントは神界の特秘事項なんだけど・・風太にな らイイか。実はな・・」 「や、ちょっと待って!俺にならって何!?」 「俺に弟子入りしてる時点で、今更だろ。本来なら、中位以上 の神しか知らないコトなんだよ。そういう意味では、風太の ランクは中位の中級神に確定してるからな」 「いきなり、既に中位神!?」 「そうだよ。でだ・・実は、パラレルワールドの合致イベント のダンジョンは、発生地を中心とした半径150km圏内の 【特異点発生件数×10−回収件数】でランクが確定するん だが・・だいたい、イっても100なんだよ」 「?・・うん。なんで10を掛けるのか分からんけど・・」 「10は、ランクに対する階層数だな。最低のEランクが10 階層。以降ランクが上がる毎に10階層づつ増える。但し、 Aランクが50階層なのに対し、Sランクは100階層だ。 つーか・・元々、Sランクダンジョンなんて、設定されてな かったんだが、昔、どこぞの駄女神がやらかした所為で、増 えたランクだな。それ以降、50階層増える毎にダブルS、 トリプルS・・って増えるコトになった」 「あー・・駄女神って、ラノベの中だけじゃないんだね・・」 「まぁな・・。神だって、意思の有る生命体だからさ。色々居 るんだよ。俺みたいに、あちこちで弟子を拾ったり、他神の 世界を旅して回ったりするのがさ」 「・・なるほど?」 「まぁ、それはイイとして・・ランクが9Sまで行くと、次は EXダンジョンに認定されて、最低がSランクから始まり、 EXの9Sランク以降は、全てZランクになるワケだが・・ 俺が知る限りでは、Zランクダンジョンなんて、先刻まで居 た【真なる深淵】以外に無いはずだ。通常なら最高ランクで Sなんだからな。ちなみに、EXの9Sで最高950階層ま でで・・総階層数が10未満は、チュートリアルダンジョン に指定される。まぁ・・初心者御用達の訓練場だな」 「回収件数って?」 「ぶっちゃけ、フラグの回収数だな」 「フラグ!!」 「まぁ・・アレだ。分岐した未来《A》と《B》の合流地点が 後々、同じ場所に行き着く場合が多々有って、それを便宜上 【回収件数】と呼称してるんだ。例えば、この地の特異点と して挙げるなら、この土地に住んでた住民が、土地を売って 街に移り住んだ未来と、この地で死んだ後に、子供や孫が売 りに出した未来が有ったんだが、それをたまたま風太が気に 入って購入するタイミングが同時期だった時点で、同一の未 来に辿り着くワケだ。それで、回収1件」 「あー・・なるほどね」 「でな?この土地・・つか、お前が買った周囲の山も込みで、 この地に発生するダンジョンランクが、だいぶ高いみたいな んだよなぁ・・。おそらくだけど、今の段階で既に7S」 「なな!?」 「なんだけど・・最終的に、EXの2Sぐらいに届きそうな気 がする。これから8ヵ月ぐらい有れば、なにがしかの選択肢 も発生するだろうし、それに因って特異点の2つや3つぐら いは有るだろ。そのウチ、幾つ回収できるかが鍵かな?まぁ 無理だろうけど。ヘタしたら、更に増えるし・・」 「どうしろと・・」 「結局、自分の信じる道を行くしかないんだよ。そうして、行 かなかった、選ばなかった道が特異点になるのさ。だから、 なるべくなら、選択肢が発生するような未来を考えないのが ランクを上げない為の手段なんだよ」 「・・無理だろ」 「無理だな。複数の選択肢に悩み、選択するのが人間の性って ヤツさ。その幾つかが、同一の未来に行き着くコトも有るっ てだけで、パラレルワールドの5割ぐらいは、なんとか回収 されてるんだ。だけど、最初の分岐で魔法文明と科学文明に 別れちゃった時点で、今回のイベントは必然だったのさ」 「元々の分岐って何だったの?」 「魔素だな」 「魔素!?」 「この世界に限らず、人間が生きるうえで必要な空気だが・・ 空気の主成分、その大半を担う気体って何だ?」 「えー、二酸・・あぁ、いや・・窒素?」 「そう。実は、【窒素】こそが魔法を使う為に必要な《魔素》 なんだ。魔素を体内に取り入れるとMPになる。とはいえ、 魔力(MIN)とは違うモノと認識して欲しい。そもそも魔力 は、ダンジョン発生後の世界で、魔法の威力に直結するステ ータス値だからな・・」 「あ。それで、こっちの世界でもMP消費で使える魔法の使い 方を習った俺は、魔法を使えるのか」 「そういうコトだな。ちなみに本来、この世界の人間が魔法を 使えるように成るのは、ダンジョンから魔法のスキルブック を発見してからだ。そして、大半の人間が窒素を体内に留め て置けない事から、魔法文明が発現しなかったんだ。だから こそ、逆に、窒素を体内に留めて魔素として活用できた未来 が、魔法文明発現というパラレルワールドに至った」 「そうだったのかぁ・・。それで今回、魔法と科学の両文明が 邂逅して、分岐していた大きな未来が一つに成るんだね!」 「とはいえ・・魔法と科学が手を取り合う未来が、どんな結末 を迎えるかは、この世界の神次第だけどな。俺の弟子が統治 してる世界にも有るけど、かなり中途半端な世界に成るコト だけは確かだな。なにしろ、魔法が便利過ぎて、科学が発展 途中で停滞してるぐらいだ。こっちの世界だと、科学が発展 してるから、魔法を時代遅れの空想だと思い込む輩が多いか もしれん・・。結局、同時に発展させるのは難しいだろう」 ヤバい。何故か難しい話になってる。 「あ。じゃぁさ・・ダンジョン探索者のランキングシステムっ て有るのかな?」 「ん〜・・今のところは、設定しない方向で行くみたいなんだ けど・・昨今のラノベでランキングが流行ってる所為か、そ の辺、本気で悩んでるみたいなんだよなぁ・・?だから、絶 対無い!とは言い切れない。もしかしたら、有るかも?」 「神様って、全知全能じゃないんだね」 「全知全能の神なんて居たら、俺ら要らねぇじゃん。もし、そ んなのが居るんなら、神なんか1匹で事足りる。そういうの は、物語の中だけのネタにしておく分にはイイけど、実際、 そんなの居たら過労死するぞ。神の力は計り知れないってい う意味で《全知全能》って言われてるだけだしな」 そうなのか・・。 全知全能神、ちょっと興味あったんだけど・・。 「あ、ゴメン。ちょっと言い忘れてたコト思い出した」 「ん?なんスか?」 「称号・裸族の効果に、全状態異常無効って有ったろ?」 「あぁ、はい。有りましたね・・」 「アレの所為で、お前の老化・・全部キャンセルされるから」 「・・・はぁ!?」 「えっとな・・そもそも、老化って状態異常のひとつなんだわ。 で・・老化が進行するコトで、老衰になって、死ぬ。ここまで は分かったか?」 「あー・・はい。確かに」 「でな?老化という状態異常が、【全状態異常無効】で無効化さ れた時点で、老衰も消える。ってぇワケで・・風太は不老者に なったから。まぁ、成長が止まるワケじゃないから、あと4年 分ぐらいは育つと思うぞ?」 「・・それって、俺の全盛期が20才時点の肉体ってコト?」 「そうだな。実年齢は28だっけ?」 「今年の9月3日で29ですね」 「遅老化スキルの影響で、69才ぐらいには20才の肉体に成る 計算だけど、それまで《若作り》だなんて言い訳が通じるとも 思えないしなぁ・・?最低でも20年後ぐらいを目安に、神界 に生活拠点を移してもらうコトになるかも」 「・・・マジですか」 「あぁ・・残念ながら、マジだな。それと・・遅老化は、20才 の肉体に到達した時点で不老に変わるから」 「なんというコトでしょう・・。あと俺、結婚できるのかな?」 「そこは、自力で頑張れ。とはいえ、ダンジョンが発生したら、 結婚どころじゃないかもな。お前、相手は?」 「・・一応、居ます。本人も、俺との結婚を望んでますけど・・ ホントに、どうしよう?」 「相手居るんなら、結婚しとけ。そしたら、こっちからも祝福と 加護やっから。相手が望むなら、神界で暮らせるように手続き もするし・・」 な・・なんか、不穏なセリフが聞こえたような気が・・? 神格を得ちゃった俺が神界に行く分には仕方が無いけど、相方は普 通の人間なんだけどなぁ・・? 「あのな?結局のトコロ、ダンジョン攻略にパーティーメンバー は必要だと思わないか?それを相方に求めちゃダメなのか?」 「あ。そうか・・そうすれば、あいつも人外に・・って、それっ てどうなの!?」 「人外になるかどうかは、その相方さん次第じゃないか?だが、 少なくとも、信頼できる相棒が居た方がイイのは確かだろ」 「それもそうか・・。じゃあ、今年中にどうにかしよう・・」 そういやぁ、先刻からラスタが静かだな・・? 全然、会話に混ざって来ないし・・と、視線を向けると、ラスタは すっかり酔い潰れていた。 ・・・。 アンデッドって、ある程度の状態異常無効化スキル有ったよな? なのに、なんで酔い潰れてんの!? それに、俺の【全状態異常無効】も、仕事してない気がする・・。 「あぁ、それな。せっかくの酒宴なのに、酔わないのはアレだか ら、酒好きの神が創った神器で【酩酊無効】を無効化しといた んだ。やっぱ、気分良く酔えた方が、酒呑んでる気分が味わえ てイイだろ?」 状態異常無効を酔えないのはイヤだからって、ピンポイントで無効 化できる神器を創っちゃうとか、無いわぁ〜・・。 その神様、どんだけ酒浸りなんだよ・・? 「まぁ・・【酒の神】を自称するぐらいだからなぁ・・」 「ドワーフに崇められてそうだよね?」 「まぁ、崇められてるな。なにしろ、本職は鍛冶神だから」 「あ〜・・予想通りだったか・・」 そんなこんなで酒宴は進み・・結果、翌朝には酷い宿酔いに・・。 そして、俺の結婚に関しても、何故か今年中に行われる事が決定し ていたのだった・・。 まだ相方に相談してないのになぁ・・。 ≪つづく≫