はじめてのたたかい 俺・・風太。 今から山で、害獣駆除。 得物は猟銃・・と、いきたいところだけど、残念ながら免許が無い。 まぁ・・有っても使う気は無いんだけどね。 初めて使う小太刀で、初めての狩り。 大丈夫。上手くいく。・・と、思う。たぶん、おそらく、きっと。 う〜ん・・だんだん自信が無くなってきたぞ。 降って湧いたスキルの使い方を学ぶのに、いきなりモンスター相手に 実践とか、絶対無理だから・・先ずは、熊からいってみよう! ちなみに熊って、日本中、何処の山にも居るらしい。 だから、ウチの山にもきっと居る。 とりあえず、フル装備で来たワケだけど・・戦いは冷静さがカギだ。 焦りは禁物。周囲に気を配って、気配を感じろ。 やるぞ〜・・やるぞ〜・・やr(パキ、ガサ) 「ぅぉう!?」 ・・・・。 ・・・。 な、なんだ・・俺が踏んだ枯れ枝か・・。 ・・や、やばい・・緊張し過ぎだ。 深呼吸して落ち着こう。 ・・・。 ・・。 「ひぅ!?」 突然、左足首を何かに挟まれた。 痛みは無いんだが・・何か、生暖かいモノが蠢いている感じがする。 ・・なんだろう? 恐る恐る、視線を下に向けてみると・・左足首にイノシシが齧り付い ていた。 「なぁ〜!?ちょっ!離して!離せって!!」 「プギ!ムギュァ!!」 Vs,イノシシ イノシシ相手に言葉が通じるワケ無いのに、俺は振り解くのに必死で 種族としての言葉の壁に気付くコトも無かった。 必死に抵抗した挙句、右手の小太刀を頭頂部に突き立て、右足で踏み 付けながら、脱出に成功する。 初戦は、混乱の極みに陥りながらのドサクサで終了した。 「はぁはぁ・・び、びっくりした・・びっくりしたよぅ・・」 噛まれた左足首を確認するも、歯形すら付いてない。 せいぜい、涎が付いてる程度だ。 ・・あれ? 今の装備って・・下は、膝丈のハーフパンツとサンダルだよな? なんで、足首に噛み付かれて、傷が無いんだ? 靴下すら履いてない、素足にサンダルだぞ!? ちょっと、分かる人に確認してみよう・・ 「(異界通信起動)えーと・・セイル様、こんちは。今、大丈夫?」 「おー?風太か、どした?」 「今、イノシシと初バトル。で、ちょっと教えて欲しいんだけど」 「お、勝った?」 「勝てたー。で・・さ、貰った装備で出たんだけど、素足にサンダ ル履きで、左足首噛まれたんだけど、傷も負わなかったし、血も 出てないんだよ。これって、単純なステータスのせいかな?」 「あー・・言い忘れてたな。それ、ハーフパンツに実装されてる防 御フィールド。素肌が露出してる部位を見えない防御フィールド で覆う効果が有って、攻撃と見做される接触を自動防御するんだ よ。一緒に入れといたノースリーブにも防護フィールド効果が有 るから、好みで着替えてみるとイイぞ」 「えっ、ノースリーブ入ってたの!?あとで確認してみるよ。謎は 解けたから、また連絡するねー」 「あいよー」 「(通信終了)・・やっぱパーカーより、ノースリーブだよねぇ」 インベントリ内を確認してみると、確かにノースリーブシャツが格納 されていた。 しかも、色違いで5着・・。 まるで、俺の趣味が分かってるかのような、赤・青・黄・橙・緑。 ありがたや・・。 ちなみに防御効果は全部一緒で、なにげにパーカーより防御値が高い んだが・・布系防具としては破格な性能だと思う。 これ、もしかしたら、金属系防具より使い勝手イイんじゃぁ・・? さっそく着替えて、余計に身軽な状態に。 イノシシをインベントリに収納し、次の獲物を探してみる。 次こそは、油断しないで行こう! ・・などと、気を引き締める間も無く、背後からガサリと音が・・? 「ぇっ?」 振り返ると、そこに居たのは2匹の瓜坊。 こちらを凝視してる気もするが・・無駄な殺生は避けた方がイイかも しんない。 襲い掛かって来るんなら、迎撃せざるを得ないんだけど・・来ないん なら、わざわざ向かう必要も無いし・・本音を言えば、子供なんか殺 したくないんだ。 だから俺は、ゆっくり静かに、その場から離れて行った。 う〜ん・・まだ見てるなぁ・・? 背後からの消えない視線を感じながら、山奥へと歩を進める。 なんとなく気になって、背後を振り返ると・・どうやら付いて来てる ようだ。 おいおい・・親は何処行ったんだよ? ・・と、そこまで考えて気が付いた。 あれ?もしかして、先刻のアレが親か!?や(殺)っちまったー!! 思わず頭を抱えた処に、更なる追い打ちが!! その瓜坊達の背後から、黒い毛皮に覆われた鋭い爪が振り下ろされ、 その小さな身体を一撃で圧し潰す。 あれは完全に即死だろう。 悲鳴を上げる事も無く、あっさりと・・。 もう1匹の瓜坊がその気配に気付くも、腰が抜けたかのように、その 場から動かない。 本来であれば、これは自然に於ける食物連鎖に因るモノだ。 だけど・・俺は、瓜坊を見捨てるコトなど出来なかった。 凶爪の主が、その姿を現すのを待たず、瓜坊の傍までダッシュした俺 は、それを抱えて離脱していた。 もっとも・・簡単に逃げられるとは思えないし、逃げても家まで付い て来られたら困る。 そして、ヤツの全容が見えた。 Vs,熊 「熊・・かぁ。予定してたけど、予定外だぁ・・」 今、俺の右腕には瓜坊が1匹抱えられている。 サイズ的には子猫並みだけど、超足手まといだ・・。 ここはひとつ・・魔法でも放ってみようか? 俺は、セイル様にレクチャーされた魔法の使い方を思い出しつつ、左 手の平に魔力を集中し始める。 狙うは、熊の首筋。 そこに向かって、よく切れる刀をイメージし、属性は風を選択した。 『魔法は、想像力と事象と効果・・それらを混合し、精緻にイメー ジできるほど、強力な魔法となる。そこに必要とされるのは、集 中力と強靭な精神力、そして、戦闘に耐えられる高い生命力だ! 俺の教える魔法は、本来、覚えるハズの魔法とは系統が違うが、 使えるようにしとけば、何か不慮の事態に陥った時、絶対に役に 立つ。と言うか、ぶっちゃけ、魔法封じが効かない魔法だ。だか ら当然、詠唱も必要としない。無詠唱・無ワードで放てる分、使 い勝手は最強だぞ!最初のうちは、ワードを思い浮かべても良い し、小声で呟いても良い』 そうだ・・そう言っていた・・。 俺は、より鋭利な風の刃をイメージし、練り上げた魔力を腕の振り上 げに合わせて解き放った。 「エアリアル・スラッシャー!!」 小声でって言われたけど、初めての発動にテンション上がって叫んで しまったのは仕方が無い。 ボイスコマンドは、日本人男子が必殺技を使う時なんかに叫ぶ仕様み たいなモンだ。 きっと、ダンジョンが出来たら、皆が叫びまくるんだろうなぁ・・。 熊は、まったくの無反応だったが、一瞬、左脇から右頸部に抜ける線 が走ったように見え、その後、血飛沫を上げながら真っ二つになった。 う〜ん・・予想より切れ過ぎた。 腕の中の瓜坊も、目を見開いたまま固まっている。 だいぶ驚かせてしまったらしい。 まぁイイ。 とりあえず熊を収納して、さっさと帰ろう。 その前に、瓜坊を放そうとしたら、全然逃げないどころか、脚に頭を 摺り寄せて来る始末。 なにげにステータスを確認するも、【テイム】は生えてなかった。 これは、懐かれただけか・・? 代わりに、レベルが28まで上がり、色々な数値もエラいコトになっ ていた。 これ・・他人には迂闊に見せらんねぇぞ! あとで、ステータスの隠蔽方法も聞いとくべきかな? 俺は、ぶつくさ呟きながら、新たな家族になった瓜坊を抱え、家路を 急ぐのだった・・。 ちなみに、潰された瓜坊・・生きてました。 なので、2匹共お持ち帰り♪ 優秀な番犬ならぬ、番猪になってくれると嬉しいな。 ≪つづく≫