迎撃!!

 とある王城・・その玉座へと続く緊急伝令用通路を慌ただしく走り抜ける
従者がふたり・・。
その表情は険しく、顔色は蒼白に染まっている。
  「で、伝令ー!!敵襲だ!!謎の勇者が攻めて来たー」
  「魔王様ー!!変態が攻めて来やがりましたぁ!!」
  「魔王様は!?玉座の間にゃ居ねぇぞ!?」
ここは、某・大陸に住む魔族達の街・・その王城での一幕である。
この世界の魔族達は、基本的に温厚で、人族や亜人族等とも共存の道を選ん
だ為、よもや襲撃を受けるような目に遭うとは思ってない。
そんな国である為に、王城のみならず、街中が大混乱に陥っていた。
本日・・遡るコト僅か2時間前、周囲を4000メートル級の高山と絶壁に
囲まれた国土の端に、突如として現れた5人の人間達・・。
彼等は、某・宗教国家が異世界召喚した、【勇者】という名の殺戮者だ。
有り余るステータスに、高スペックな装備品。
それらに翻弄される事もなく、自在に使い熟す様は、熟練の傭兵を彷彿とさ
せる。
彼等は、まっすぐ王城を目指し、立ち塞がる者も、立ち塞がったワケでもな
い、ただ前を通っただけの者も、奇声を上げつつ容赦無く切り伏せて行く。
いったい何処の世紀末モヒカンヒャッハーなのかと・・。
まるで、路傍の石かのように蹴散らし、最短ルートを直進する様はイノシシ
の如き猛進ぶりで・・よくもまぁ、2時間程度で城下町の中枢まで攻め入れ
たもんだと、呆れるばかりではあるが・・魔王城に侵入する為には、四天王
が守護する四隅の塔と、三魔将が守衛を務める3枚の正門前大扉を通らなけ
ればならない。
客として迎え入れられるのならともかく、彼等はただの侵略者でしかないの
だから、迎撃されるのが当たり前なのだが・・四天王、まさかの瞬殺!
4基の守護塔は、各1人の侵入者に因って、物理的に排除されてしまう。
一瞬で結界を破壊され、唖然とする三魔将の前には、そのリーダー格と思し
き1人のヒャッハーが・・大上段に構えた、闘気を纏わせた剣をまさに今、
振り下ろす瞬間であった。
  「ぅ、嘘だろー!!?」
誰が、どう贔屓目に見ても、ただの押し込み強盗である。
問答無用に振り下ろされた剣は、三魔将@、扉、三魔将A、扉、三魔将B、
扉の順に吹き飛ばし、魔王城1階大広間を廃墟さながらの様相へと変える。
そして、現在・・伝令の2人は、私室で客と酒盛り中の魔王様を発見。
侵略者の襲撃事件、その第一報を報告中に正面突破の振動を感知するのであ
った・・。
かくして、魔王様の命運は風前の灯火・・。
慌てる近衛兵。
狼狽える側近。
酔っぱの魔王。
そして・・爆笑する客。
とりあえず、魔王が玉座の間に居ないのではアレなので、酒瓶片手に覚束な
い足取りで移動を始める魔王様。
どれだけの強さを有するのか、かなり余裕な気がするも・・単に酔ってるだ
けとは思うまい。
そうして、呑みの舞台は玉座の間へと移動する。
客も、ついでに付いて行くのは、酒盛りの肴がてらとか・・。
扉の向こうから近づくは、騒々しき闖入者の雄叫びと共に・・
  「死ぃ〜〜〜ねぇーオルァ!!」
バゴォ!! キィン!!
  「・・あ゛!?」
扉をぶち破りつつ放った剣戟は、振り下ろした格好のまま不自然な位置で止
まっていた。
その後ろから続く4人のヒャッハーズも、透明な壁に阻まれたかのように顔
面を押し付けた状態に。
彼等は、行く手を強力なシールドに阻まれ、止められたにすぎない。
  「はい、ごくろーさん。招かれざる君達は、ここで捕らえられ、送り込
   んできた元凶国に送還するからね。無論、賠償金請求もするよ」
  「ふざけんな!!お前らは、俺らの獲物だ。黙って狩られてろ」
  「ちんけなる侵略者どもよ・・。お前達は、我が国への敵対者だ。そん
   な輩の行く末など、死あるのみ!・・だが、我は無駄な殺生を好まぬ
   のでな・・。ちゃっちゃと召喚国に送り返してやろう」
酔っパな魔王様は、なんだか口調が怪しくなっていた。
  「分かってるとは思うけど・・魔王からは逃げられないぞ?まぁ、逃が
   す気もないけどさ・・」
同席する客の、何気ない一言には妙な威圧も籠められていた。
その所為か、5人の闖入者達は奇妙な危機感に襲われたのだが、召喚勇者の
ヒャッハー感に、危機感知力はダダ下がりであった。
  「そんなん知るか!さっさと死ねー!!」
  「お前等は、罠カゴに捕らわれた哀れな鼠に過ぎん。このまま湖にでも
   水没させて水死でもイイんだが・・」
  「か・・体が動かない!?なんでだ!!俺達には、勇者としての加護が
   付いてるはず。なのに・・これは、魔王の呪縛か!?」
  「・・。(いやぁ・・ただの神罰じゃねぇかな?)」
魔王様の視線は闖入者に向きつつ、意識の半分を客に向けて苦笑いを浮かべ
ていた。
今日の客は、長年付き合いの有る友人にして、自身の師匠でもある。
そのうえ、この世界では無い、異界の神でもあった。
  「クソっ、魔法も使えねぇ!アイテムボックスも発動しねぇ!!いった
   い何しやがったんだ!?」
  「・・。(加護とレベル、抹消されたんだろーなぁ・・)」
  「じゃあな、クソガキども。もう、二度と召喚させねぇよ。元の世界で
   頑張れや」
  「何を!?」
言うが早いか、5人の闖入者達は、その場から消え去った。
残されたのは、彼等の所持していた数々の装備品と、破壊された大扉だけ。
魔王様の微妙な視線は、そのまま客へとむけられる。
  「セイル様・・とりあえず、証拠ムービーは撮ってあるんで、あの国に
   送っときますね。いくらかでも賠償金取れれば御の字ですわ・・」
  「あぁ、そうしとけ。あの、自称・聖法神国も、いい加減、そろそろ気
   付かねぇもんかな?自分とこで崇めてる神が【歯車の付喪神】だって
   コトに・・。真の法神国は、ここだって事を理解しないうちは、また
   来るんじゃねぇか?」
  「あー・・・それは、気付かないでしょうねぇ・・。なにしろ此処は、
   この世界の主神を崇める【幻王信奉】の中心国ですから・・。たまた
   ま、デカい教会が建ってたから、勘違いしてるのが多いのも拍車を掛
   けてる元凶なんだと思うんだけど・・昔っから在るモノだから、今更
   ムリなんじゃないかな?」
  「教会の中に、歯車の御神体が有る時点で気付きそうなもんだけど、思
   い込みの激しい奴らが大量に居るのも問題なんだろうな」
  「困ったもんだ・・」
2人は、顔を見合わせながら盛大な溜息を吐き、酒盛りを再開するのだった。

                                               《つづく》?