とある異世界のイタチごっこ

 とある次元・・とある世界・・。
この世界では、神と某国とのイタチごっこが続いていた。
某国では、異世界からの勇者召喚と称した拉致が横行し、毎年、複数の
人間が勇者呼ばわりされている。
そんな勇者達の行く末は、自国以外の全てに対する、侵略戦争の駒であ
る。
ほんの数ヵ月だけ、訓練と称した戦闘技術を学ばせられ、碌な技術も無
いまま、次元を渡って得たスキルを切り札に、数え切れない異世界人達
が、その命を散らせて逝った・・。
そんな勇者召喚魔法陣だが・・当然ながら、禁術である。
もう、何百年も前に封印されていたモノを現代に蘇らせたのが、この国
の先代宮廷魔術師長だった男だ。
彼は、類稀な頭脳を持ちながら、禁術の解読を趣味とする、自他共に認
める変質者だった。
そんな変質者が、うっかり解読したのが、件の召喚陣である。
それは、立派な大事件であった。
そんな大事件を国益にしようと画策したのが、当時、脳筋として有名な
国王であったから性質が悪い。
脳筋王の画策した国益とは、そのものズバリな侵略戦争だった。
国土が増えれば、税収も増えると考えたのだ。
さっそく召喚陣を起動させ、異世界より呼ばれたのは、まだ幼い、僅か
3歳の少年であった。
この世界には、スキルと呼ばれる能力が有る。
魔法や技術も、全てはスキルに因る恩恵だ。
スキルを得るための方法は、生まれつき持ってるモノ。
取得したいスキルの訓練を行い、適性が有れば取得できるモノ。
【スキルの書】と呼ばれるアイテムを使用して得られるモノ。
そして、異世界召喚時に、得られるモノ・・だ。
当然、後者ほどレアリティは高いし、強力なスキルの可能性も高い。
  「さて、小僧。きさまのスキルを見せてみろ!!」
しかし、少年に王の言葉は理解できなかった。
それどころか、まったく見知らぬ厳ついオッサンに迫られて、混乱しな
い方がどうかしてる。
  「おい、スキルだ!スキルを見せろと言っている!!」
突然の拉致に絶賛混乱中な少年は、脳筋王に迫られた衝撃で盛大に失禁
してしまう。
この王城には、鑑定のスキル保持者が居なかった。
その為、実際に見ないと分からないという、王・臣共に脳筋では本気で
どうにもならない。
そもそも、ステータスを見る行為にすら行き付かない時点でアウトな気
がするのだが・・。
それ以前に、宮廷魔術師長が鑑定スキルを持ってないのは些か問題だ。
結局、少年のスキルは分からなかった。
誰も鑑定を持ってないから見れなかったのだが、少年自身もステータス
を確認するまでに至らなかったので、誰にも分らなかったのだ。
そんな少年の持つスキルは【不死】。
【言語理解】などの超基本的なスキルすら無く、ただ【不死】の文字が
異世界語で記されているのだった。
これでは、仮に鑑定されても誰にも理解されないだろう。
そうして、3歳の少年が異世界から拉致されたのち、役立たずとして城
内の何処かへ幽閉された事実を神が知る処となるのだった。
そんな所業に怒った神に依り、召喚陣に対する処置が行われた。
神に依る召喚陣の破壊から始まり、術式書き換えや消費魔力の増大から
次元への干渉制御に至るまで、様々な妨害を行うが、その度に、脳筋王
国の宮廷魔術師長を筆頭とした魔術師軍団の抵抗に遭い、今に至る。
あらゆる対抗処置を施して来たにも関わらず、年に一度は召喚陣が稼働
しているのだから、さすがに神としても万策尽きた感が出ていた。
そんな神が、最後の手段として執ったのが、上司への懇願だった。
この世界の最高神である神の上司・・即ち、幻王に・・である。
彼の上司は、召喚陣に送還陣を重ねるという業を見せた!
それにより、いくら召喚しても異世界人が現れなくなった。
ようやくイタチごっこが終息したと思ったら、数年の時を経て、送還陣
を無効化する術式が組み込まれてしまう。
よもや、神の御業にカウンター術式を組み込むとは!!
そうして、上司は、更なる上司に泣き付くのだった。
・・幻皇は呆れた。
  「お前らなぁ・・」
  「すみません。お世話になります」
  「召喚された連中、お前らで全員送還しとけ!取得スキルとレベル
   はリセットしなくて良い。サービスで持たせたまま送還しろ」
  「い、いいんですか!?」
  「いいよ!とりあえず、封印しとけば問題無い。何かの拍子に開封
   される可能性も有るけど、そん時ゃそん時だよ」
  「わかりました」
  「つーか・・今まで何人召喚されて、何人生き残ってんだ・・?」
  「はぁ・・私が知る限りでは、8412人召喚されてます」
  「多いわ!もっと早く相談しろ。・・で?」
  「生き残りは、12人ですね」
すかさず神の顔面にアイアンクローが決まった。
  「ふざけんな、んのヤロー!!」
  「いだだだだギブギブギブぎにゃー!!」
そうして主神に折檻しながらも、仕事はエラい早かった。
あっという間に最終処置を施すと、結果を見るまでも無く帰還する。
テーブル上に残された仕様書には、恐るべき内容が・・。
  「あー・・これは、さすがに気付かなかったなぁ・・」
  「・・ある意味、天誅炸裂っスね・・」
  「あぁ。とりあえず、後始末よろしく。俺も帰るわ・・」
  「あ、はい。お疲れ様でした!!」

       勇者召喚魔法陣(禁術)最終仕様書

種類)天罰Lv,6(禁術使用の対抗措置を嘲笑った者共への罰則事項)
対象)召喚陣を使用した者、及び全関係者。
   召喚者本人は無論、血縁・家族・召喚指揮を行った者・召喚主導
   者等、一切の例外無く、召喚に関わる総ての者。
   ※ 召喚対象被害者は、発動と同時に召喚無効。
効果)存在そのものを魂も残さず魔力へと等価変換。
効力)魔力不足世界への補充魔力庫に転送後、順次送付。
期限)永久。
抵抗)絶対無効。
転生)無し。
担当)第828次元界ラスター・ファランクス主神・キュリオラ

 召喚魔法陣使用と同時に発動し、魔法陣ごと全てを無に帰す。
 召喚陣の再使用は不可とし、術式自体の破壊、及び消滅にて終息とす。

取り残された神は仕様書に視線を落とし、深く溜息を吐くのだった。
  「レベル6天罰とか、どんだけだよ・・。って、担当者、私!?まさ
   か、この術式・・覚えとかなきゃならんの??勘弁してよぅ・・」
その後、滞りなく天罰は発動し、一つの王国は消滅する。
残された民達は、何も知らぬまま生き続けるのだろう・・。
聳え立つ、無人の王城を見上げたままに。

                                               《つづく》?