強制勇者

 とある日の昼下がり・・俺は、仲間達と共に、街の噴水広場で昼食を摂っていた。
昼食を終え、次のクエストの相談がてら談笑していると、突然の発光と浮遊感に襲わ
れ、思わず目を瞑る。
ほんの一瞬だけ視界を失った俺達は、目を開けると見覚えの無い室内に・・。
  「・・何処だ?」
  「街中で強制転移とか、有り得ねぇだろ・・?何処からの攻撃だ?」
  「強制とはいえ、転移魔法は攻撃じゃないわよ。少なくとも、高位の魔法使いが
   関わってないと、こんなマネは不可能なはずだけど・・」
  「とりあえず、ステータス確認しとこうぜ。何か異常が有ったら困る」
  「そうね」
俺達のパーティは、上位ランカー下位とはいえAランク冒険者だ。
というか、昨日Aランクに上がったばかりだけどな。
俺が、リーダーのアーヴィング。
ジョブは魔導戦士。
ちょっと口が悪いのは、サブリーダーのインギット。
ジョブはエレメントアーチャー。
そして、我がパーティで紅一点のウーニャ。
ジョブはスナイパー。
最後に俺の弟、エルディス。
ジョブはアークウィザード。
・・なにげに回復役が居ない、攻撃特化の脳筋パーティだ。
全員、レベル500を超えているので、俺達より弱い敵からの攻撃なんか、基本的に
通らないし食らわない。
とはいえ、スキルに【上級高速リジェネ】が有るから、ケガも状態異常もソッコー治
るけどな。
治らないのは死と呪いぐらいか・・。
その辺が治るようなら、バンパイア認定されるわな。
とりあえず、ステータス確認した結果としては、何も問題無いっぽい。
ただ・・称号に【召喚された異世界人】とか付いてるのが気になるけど・・。
・・・召喚!?
  「おい・・これって、まさか・・」
嫌な予感がして、仲間達と話そうとした処に、ドアの開閉音が響いた。
  「!!」
  「?」(×3)
  「ようこそ勇者様!我が国を救いに来て下さり有難う御座います」
驚く俺達の前で、軽薄そうな笑みを浮かべたキツネのような男が、芝居がかった態度
で話し掛けて来た。
  「・・勇者?」
  「何の話だ?」
  「ここは何処なんだ!?」
  「俺達に何をさせようとしている!?」
そんな俺達の問い掛けに、軽薄キツネ男が手で制し・・
  「まずは、陛下に御目通りを。詳しくは、そのあとで・・」
  「・・っ」
見た目は軽薄そのものなのに、何故か有無を言わせぬ迫力に黙らざるを得ない。
そうして俺達は、陛下とやらの居る玉座へと連れて行かれたワケだが・・そこに居た
のは、でっぷりとした脂ぎっちゅなタヌキ・・もとい、国王。
散々長話を聞かされたのだが、早い話、世界を脅かす魔王退治の依頼だった。
くだらない駄話を語るぐらいなら、要点を言え!と、説教したくなったが、メンドイ
展開になっても困るので、右から左に聞き流していたのは秘密だ。
魔王を倒せば、俺達は元の世界に帰れるらしい。
そういう契約の召喚陣なのだと、軽薄キツネは言っていたが・・あのツラが語る言葉
をそのまま信じるのは危険な気がする。
アレは、どう贔屓目に見ても詐欺師の顔だからだ。
だが、元の世界に帰る為には、魔王を倒す以外に手段は無いらしい。
ヤツの言葉を借りるなら、そういう契約の召喚らしいからな・・。
その後・・一刻も早く王城から脱したいと思っていた俺達は、キツネからの指示で、
先に神殿で情報を得るよう言われ、僅かな路銀と魔王城への地図を渡された。
そうして神殿に行くと、こちらも不穏な空気しか漂ってないぐらいに気持ち悪い神像
が祀られた神殿で・・とにかく早く出たくて仕方が無いといった衝動に駆られる。
装備品は、召喚前からのモノがそのまま使えるし、この国で売ってる装備品より性能
が上なのも確認済みだった俺達は、情報を整理しながらも、ソッコーで国を出た。
俺達にとっては召喚国だが、1秒でも早く旅立ちたいと全員一致で感じていたので、
与えられた路銀の9割を注ぎ込んで高速馬車に乗り、魔王城の在る国へと向かう。
これから、俺達の旅は危険と隣り合わせな世界へと変わるだろう。
だが、誰一人として欠ける事も無く、元の世界に帰る為・・俺達は魔王討伐の旅に出
た。・・いや、出ざるを得なかったんだ。


                            《つづく》?