さとう動物病院
  長野県 千曲市
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症 例 紹 介
雄猫の尿路形成術

 患者さんは4歳の雄猫(去勢済)です。初診時の体重は7kgあり肥満気味でした。2日ほど前から尿が出ておらず、苦しがっているとのことで受診されました。下腹部を触診すると、膀胱が固くなるほどに大きくなっており、レントゲン検査でも膀胱の著しい膨満と、腎臓の軽度腫大を認めたことから、尿道閉塞と診断しました(写真)。
 直ちに超音波スケーラーで導尿を試みましたが、結石と思われる障害物のため導尿はできませんでした。全身麻酔を施し、膀胱内圧を下げるため膀胱から直接50mlほど排尿後、再度導尿を試みましたが、障害物を粉砕することができませんでした。飼い主さんに事の重大さを説明し、尿路形成術の手術を実施することにしました。
 手術は包皮粘膜を温存する「山村らの方法」で実施しました。手術中、尿道内には米粒ほどの結石が2個認められ、結石による尿道閉塞であることが確認されました。結石を除去しカテーテルを挿入後、排尿と膀胱洗浄を実施しました。
 採取した尿を検査したところ、顕微鏡レベルの小さな結晶が多数認められ、染色標本で細菌や白血球も認められました(尿石症と膀胱炎)。また尿検査でブドウ糖が陽性(++)を示し、血液検査でも血糖値が高く、糖尿病を患っていたことがわかりました。
 手術後、尿路は確保され、3日間、カテーテルでの排尿を行いましたが、膀胱が大きくなりすぎたため、自ら収縮させることができませんでした(膀胱弛緩)。4日後に平滑筋収縮剤を投与し、ようやく膀胱は収縮しました(写真)。
 今回の事例は、糖尿病を患っており、加えて膀胱弛緩も併発し、これらのことが手術後の回復を遅らせる原因となりました。したがって入院は2週間に及び、完治するまで1カ月間ほどかかりました。
 退院後、尿石と肥満(糖尿病の原因となる)を予防するための療法食を給与し、3カ月後のワクチン接種時の体重は6.3kgで、とても元気になりました。血液検査でも血糖値は正常値まで下がり、糖尿病も治りました。

用語解説
 尿路形成術は、肛門の下(会陰部)に尿道の開口部を形成する手術で、開口部がペニスの先端よりも太くなるため、結石による尿道閉塞を起こすことはほとんどなくなります。方法は尿道粘膜を会陰部に直接縫合するシンプルな方法もありますが、包皮粘膜を温存する「山村らの方法」は、会陰部に開口させた尿道粘膜を包皮粘膜で保護することになり、手術後の経過がとても良好です。私はこの方法を用いていますが、非常に繊細な手術で、解剖学的な理解と手先の器用さが要求される手術です。
 尿路形成術は、あくまでも最後の切り札的な手術で、カテーテルで導尿ができればそれに越したことはありません。尿道閉塞が長引くと尿毒症に陥っていることも多く、手術には危険を伴います。しかし尿道閉塞は速やかに解除してあげなければ命にかかわることであり、再発性や難治性の尿道閉塞、今回のようにスケーラーで粉砕できないような尿道閉塞が起こった場合、この手術が適応となります。
 初診時のレントゲン写真、膀胱(B)から直接50ml ほど排尿した後に撮影。膀胱は著しく膨満し、腎臓(K)も腫大しています。  手術後、4日目のレントゲン写真。平滑筋収縮剤の投与により、膀胱(B)はようやく収縮しました。
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