さとう動物病院
 長野県 千曲市
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童  話
バオバブと少女

 アフリカの大草原に、ポツンと島のように浮かぶテンボ村でのお話です。テンボ村にはマライカという少女が住んでいました。マライカは七歳のときに恐ろしい熱病にかかり、目が見えなくなってしまいました。マライカのお母さんは、目の見えなくなった娘の将来を考え、焼き物の作り方を教えました。手先の器用なマライカは、粘土をやさしくこねながら鍋やお皿、壺などを作るのがとても上手になりました。
 マライカが十歳になった頃のことです。雨期になっても、テンボ村には一粒の雨さえも降りませんでした。前の年も、雨がいつもより少なかったため、テンボ村には食べ物はほとんど残っていませんでした。カラカラに乾いた畑はコンクリートのように固くなり、クワを入れてもカキーンとはね返されてしまいます。雨が降らなければ、耕すことも種をまくこともできません。太陽がかっと照りつける空を見上げながら、村人は困りはてていました。
 日照りが続き、マライカの仕事もめっきり少なくなってしまいました。水がなければ粘土をこねることができないのです。マライカはせつなくてたまりません。そんなときはいつも、村はずれにあるバオバブの木の下でお祈りしました。
「神様、どうか雨を降らせてください。水がなければ私は焼き物を作れません。神様お願いです。雨が降らないとトウモロコシができません。大切な牛が食べる草も枯れてしまいました。神様、どうか私たちをお守りください」 
 マライカは毎日のように、一生懸命お祈りしたのです。
 バオバブの巨木は千年以上の昔から、その場所にたっていました。日照りのときも洪水のときも、バオバブは枯れもせず流されもせず、どっしりとその場所にたっていました。
「バオバブがこんなに強いのは、きっと神様に守られているからだわ」
 マライカは、そう固く信じていました。そしてバオバブの木の下でお祈りすれば、その声が必ず天に届くにちがいないと、マライカは思っていたのでした。
「いいわねえ、マライカは。水くみもしないでごはんが食べられるんだから」
 ある日、水のたっぷり入ったバケツを頭にのせたジャスミーニが、通りすがりにいいました。いつもなら、村の近くを流れる川で水くみができたのですが、その年は遠くまで行かなければ、水は手に入りませんでした。そして水くみは女子供の仕事だったのです。
「お祈り女のマラーイカ、お祈りばかりでおまんま食うな。お祈り女のマラーイカ、おまんま食いたきゃ雨降らせ♪」
 いっしょに水くみから帰ってきた少女たちも、マライカに向かってはやしたてます。ふだんならこんなことは決していわなかったのですが、ながいこと雨が降らず、子供たちの心もすさんでいたのでした。
「・・・・・・」
 水くみのできないマライカは、なにもこたえませんでした。

 くる日もくる日も、マライカはただひたすらお祈りしました。けれども雨はまったく降りません。村にはいよいよ食べ物がとぼしくなり、最初に幼い子供たちが、枯れ枝のようにやせ衰えてゆきました。マライカもふだんの半分も食事をとっていませんでした。
 ある夜のことです。マライカは不思議な夢を見ました。バオバブの木の下でお祈りをしている夢です。
「マライカ、目を開けてごらんなさい」
 やさしい声が、バオバブのこずえから聞こえてきました。マライカは恐る恐る目を開けました。すると木のてっぺんの一番太い枝に、やさしく微笑んだ天使が腰かけていたのです。
「天使様、お願いです。雨を降らせてください。雨が降らなければテンボ村は滅んでしまいます。天使様、どうか私たちをお守りください」
 マライカはすがるような声でお願いしました。天使はやさしく微笑みながら、マライカの願いに答えるように静かにうなずきました。その瞬間、
「ピカ! バリバリバリッ!」
 カラカラに乾いた大地に雷鳴がとどろき渡りました。すさまじいばかりの雷鳴です。
「ピカ! ゴロゴロドッスーン!」
 雷が家の近くに落ちました。マライカは落雷の激しい音で、ハッと目をさましました。急いで外にでると、空にはぶあつい雲が広がり、大粒の雨が降り始めたのです。夢ではありません。
「ああ、神様が私の願いを聞いてくれた!」
 マライカの胸は、喜びではりさけそうになりました。お祈りが天に届いたのです。恵みの雨に打たれながら、マライカは小走りにバオバブの木の下まで駆けつけました。
「神様、ありがとうございます。本当にありがとうございます」
 マライカは心から感謝しました。そして
「あっ! 私、目が見える。目が見えるようになったわ!」
 ようやくマライカは、自分の目が見えるようになったことに気がついたのです。その目から涙がぽろぽろとこぼれています。必死になって祈り続けたマライカに、神様はやさしくこたえてくれたのでした。
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