天思兼命(あめのおもひかねのみこと)
 天思兼命は高御産日神の御子にして、思慮深遠霊妙にして、数多の神の思慮を一人にて兼ね持ち給う程知謀に長じ給えるにより、八意思兼命とも称え奉り、又の御名を常世思兼命とも申し奉る。

 天照大神、天石窟に幽居し給いて六合の内常暗となり、昼夜の区別もなく萬妖競い發りて上下安き心なかりし時、八百万の神々天安河原に会し大会議を開き給える時、この神議長として深く謀り遠く慮りて(中略)、天地再び明になるを得たと伝えている。
 斯く思慮の御徳に秀でさせ給えば、天照大神御子を瑞穂国に天降し依さしめんとし給える時、先ずこの神に謀り給いし如く、高天原に事ある時はこの神必ず参劃して宜しきを得ざる事なく、その功は甚だ大きいのであった。

 平田翁はこの神を以て天兒屋根命と同神なりと説き、斯かる神徳高き大神なるに係わらずこの神を奉祀せる神社なきは、此れが為であると説いている。けれども埼玉県秩父町国幣小社秩父神社には、この神と十世の御孫知々夫彦命を合祀してある。

 八方に思慮分別を要する木匠の守護神の第一座としてこの神を祀る所以は、前述のように知慮深遠なる御神徳を尊崇したるに依るもので、また天安河原の会議に参加しては些かも動ぜず、綿密なる思慮を廻らし、議事を進行せしめ、常に功績高かったから、議員議会に関する祭事にはこの神を斎き奉るべきであると(諸祭神々名総覧)。

 (『伊那の御祭神(小笠原 賢太郎 著)』より抜粋)

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