火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)
 御名義、迦具は輝く意。土のツは助詞、チは男性の尊称、火の徳の熾烈なるを称えた御名で、火を掌り給う神。即ち火の御魂の神である。故にやがてその御徳をたたえ火産霊命(ほむすびのみこと)とも申す(書紀一書)。

 初め伊弉諾神、伊弉册神の二神、八十島を生み、また山川草木の神々を生み給い、次いで此の神を生み給うにより、その火気の為灸(やか)れて崩じ給いたれば、伊弉諾神怒りて佩剣(はいけん)を抜き迦具土神を斬り殺した。その死屍に八柱の山津神(古事記)、或いは五柱の山津神が成りませりと。また斬られ給いし時の血潮に八柱の神成り坐したと古事記に伝えている(書紀一書も大体同じ)。

 伊弉册神、此の神を生み神避り坐さんとし給い黄泉枚坂に至り、上国に心建き子を生み置きて来たから、後世その荒びに悩まされる事があるだろうと宣り、返り坐して水の神と、ヒサゴと、埴山姫と、川菜を生み、此の四種の神の力によって火神の禍を鎮めよと教えられた。
 これ鎮火祭に、迦具土神、水波能売神、埴山姫神、天吉葛神(ヒサゴ)、河菜姫神を祀る所以で、ヒサゴは天吉葛ともいい上古水を汲むに用いたるものにて、此れにて水を汲み、火を避くる事即ち火避(ひさこ)を意味し、河菜は水草である。
 鎮火祭は重要なる祭祀にて、古く宮城の四隅に於いて毎年二季の大祓に続きて行われたる恒例の神事であった。

 各所に祀らるる愛宕神社は、多く伊邪那美命(伊弉册神)と火産霊命(迦具土神)を祀る。愛宕の名は、迦具土神は仇子(あだこ)であるによるとも、熱如(あつこ)が転じてアタゴになったともいう。
 火防の神として一般信仰の秋葉権現は静岡県周智郡秋葉山の県社秋葉神社で、火之迦具土神を祀る。これは土地の名により名付けられた神社名である。

 (『伊那の御祭神(小笠原 賢太郎 著)』より抜粋)

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