毘売大神の毘は霊異のヒで美称である。売は女で、霊異女の意にて、男を美め称えて比古(彦)と言うに対する女の美称である。或いはまた、彦は日子で姫は日女にて、皇朝にては日は尊きものの最上位なれば、尊び崇めて日子、日女と言うなりともいう。毘はヒの濁りたるにて、古事記には清濁を明らかに分けて書きたるを、後世此れを誤りて漫(みだり)に唱うる様になった。
此れに依って、毘売大神は女性の神の尊称なるは自ら明らかなれども、果たして何神を指して姫神と称うるや、これに就いては意味が二つある。
その一は、大日ルメ貴尊即ち
天照大神を比淘蜷_と称え奉り、又は素盞鳴尊、天の安河にて天照大神と宇気比(うけひ)給える時生まれ坐せる
三女神、田心姫命、市杵島姫命、多岐都姫命を比売神と言う事である。
その二は、
彦神に対する配偶神なる妃神を姫神と言う事である。
例えば官幣大社平野神社四座の一なる比盗_は大日ルメ貴神を祀り、八幡宮に齋き祀る三社の一なる比売神は三女神である。又春日神社、枚岡(ひらおか)神社の比売神は、天兒屋根命の妃神の天津玉照比売命である。
本郡
智里村皇大神社は天照皇大神を祀り、合殿に祀る毘売大神は天兒屋根命と御同座なれば、その妃天津玉照比売命ならんとも、或いは又誉田別尊とも御同座なれば八幡宮一座の比売神ならんとも言い得られる訳である。
(『伊那の御祭神(小笠原 賢太郎 著)』より抜粋)
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