「海馬モクバは、たった今から反抗期に入るぜい!」と心に誓った今日は7月7日、オレの13回目の誕生日だったりする。
兄サマは今日は出張で帰ってこないけど、そんなコトは別に問題じゃない。
問題なのは週刊誌やエコノミストが偉そうにしゃしゃりでてくる番組だ。
「とにかく、最近やたらうるさいんだよなー、マスコミが・・・兄サマが次世代デュエルディスク発表した時はさんざん兄サマのコト持ち上げておきながら、
今度はバッシングかよ・・・今頃になってDETH-Tやデュエルタワーの事まで持ち出しやがって、金の使い方やプライベートまでケチつけるんじゃねー!!」
アイドルだろうが政治家だろうが、マスコミってヤツは最初は良いコトばかりを記事にするけど、それがすんだら手の平返したようにスキャンダルばかりを書きまくる。分かりきってたコトだけど、兄サマを悪く言うヤツらは許せない!
・・・とはいえ、本当はオレも昔から気づいていた兄サマとの価値観のズレ・・・兄サマは「金を使う事」に価値観を見出している・・・
施設にいた頃、兄サマはオレに「いい暮らしをさせてやる」と言ってくれた・・・そしてその言葉はすぐに実行され、兄サマとオレは海馬家の養子となった。
兄サマにとって「いい暮らし」は「金持ちになる事」だった・・・それはオレにとって一番大切なモノを失う事だったのを兄サマは気付いていない・・・
でもオレは何も言わなかった・・・言えなかった。
ただ与えられる物を受け取り、嬉しそうな振りをしていただけだった・・・卑怯なのはオレだ・・・兄サマとぶつかる事が怖かったんだ・・・
でも13歳からのオレは今迄と違う!「反抗期」の言葉を借りて兄サマにアンチテーゼを提唱するぜい!
反抗期の行動第一弾はプレゼントの返品だった。
オレが学校から帰ってくると、日本で一番の老舗デパートの専務が警備員を連れて応接間で待ち構えていた。「兄サマからのバースデープレゼントを持ってきた」とそいつは言った
・・・プレゼントの中身はダイヤモンドをちりばめたチェスセットだった。
専務が言うところの「当デパートの今年の最高額商品」らしい(推定で3億円くらいか?)
「また兄サマの成金趣味が・・・!」オレはプレゼントに感動するどころか憮然とした。それに気付かないデパートの専務は得意げにチェスセットの説明をしてたが、オレはそれを遮り「それ要らないから持って帰って」と言い放った。
兄サマからのプレゼントを突っ返したのは、これが生まれて初めての事だった。
夜になって オレはいつも通り食事を終えて自分の部屋に戻ると庭からヘリの音が響いてきた 「・・・まさか、兄サマ!?」
オレが部屋から飛び出すよりも早く、麻のスーツにネクタイ姿の兄サマがドアを開けて入ってきた!
「モクバ!お前は俺に恥をかかせる気かっ!!?」
開口一番に兄サマは叫んだけど、兄サマの大声には慣れている。
「兄サマ、出張は!?」
「さっさと終わらせて帰ってきた!それより質問に答えろ!!」 「何の事?」
オレはわざとすっとぼけてみせた 「俺がお前に送ったチェスセットの事だ!」
「あー、あれ 要らないから返しちゃった。オレはもう自分の持ってるし」
言いながらオレはキャビネットに収まってる古いチェスセットを指差した・・・それは施設時代から使っていた思い出の品・・・兄サマの顔色から少し怒気が薄れたのがわかった。
「モクバ・・・だからといって返品する事はないだろう。あれは3億円したんだぞ。」
「(あ、ビンゴ☆)兄サマ・・・モテない男じゃあるまいし、愛情をプレゼントの金額で示そうなんて発想が貧困じゃねーの?」 オレのきつい言葉に兄サマの端正な顔がひきつった
「ほう・・・13歳になった途端、随分物を言うようになったな、モクバ・・・」
兄サマは怒りながらも冷静さを保とうとしていたみたいだった。 「反抗期か・・・それもよかろう・・・だがな、」 「何?」 「かわいくなくなった」
「・・・・・!」
兄サマ、オレ中学生だぜ!?かわいくってどーすんだよっ!!なんてツッコミも入れられない程オレは動揺してしまった
これくらい言われることは覚悟してた筈なのに胸が苦しくなった・・・急に寂しさが心を支配する・・・さすがに涙は出なかったけど、多分今のオレは変なカオをしているだろう。 「モクバ・・・?」
兄サマはおれの動揺を察したようだった。
「あのプレゼントが気に入らなかったのなら、別の物をやろう・・・何が欲しいか言ってみろ」
その言葉が更にオレの心に追い討ちをかけた。こんな時に優しくしないでくれよ兄サマ、マジで涙が出そうだぜい・・・!
「別に・・・何も・・・」オレは俯いてそれを言うのが精一杯だった。 「そうか・・・」
兄サマはそう言って踵を返すと部屋を出て行こうとした。その背中は心なしか寂しそうに見える・・・ 「ちょっと待って兄サマ!!」
オレは早足で兄サマの前にまわり込んだ。
「やっぱり3億のチェスセットじゃ安すぎるぜい・・・オレ、もっと高いモノが欲しいんだ!」
兄サマは少し驚いたようだったけど、少しだけ嬉しそうに「では何が欲しい?」と聞いてくれた。
ちょっと照れながらもオレは何も言わずにそっと指先で兄サマの唇に触れてみる・・・
でも兄サマは何が起きたのか分からないような顔をしてたから、更に指先で唇をなぞってみた 「モクバ、何が言いたい・・・?」
「あー、もうっ!何で分っかんないかなー!!?」
しびれを切らしたオレは兄サマのネクタイを引っ張って兄サマの首をオレの顔に近づけさせた。
今度は指先でなく、唇で兄サマの唇に触れてみた・・・
オレは唇が触れている間はずっと目を閉じてたけれど、きっと兄サマは驚いた顔をしてるだろうな・・・
「世の中、金で買えないモノが一番高いんだぜい、兄サマ知ってた?」
漸く唇を離したオレは、ワザと余裕のあるフリをして言ってみせた。
「兄サマ、プレゼントはもらったぜい☆ごちそーさまでした!」
言うが早いか、兄サマを部屋から追い出して内側から鍵をかける。兄さまはまだ放心状態みたいだった。
「モクバ、ここを開けろ!さっきのはなんだったのか俺に分かるように説明しろ!!」
我に返った兄サマが部屋の外でドアを叩いている。
「説明しろ」って言われてもオレだって何であんな事したのか理由なんか分かんないぜい・・・なんて事を考えてたら今頃になって顔が熱くなってきた。多分オレの顔は耳まで真っ赤になってるだろう・・・
ドアの外で叫ぶ兄サマの声をBGMに聞きながら、さっき兄サマの唇に触れた指先で今度は自分の唇に触れてみる・・・ 「反抗期って刺激的だぜい・・・」
なんてハズした事をいいながら、オレは一人の部屋で(ドアの外には兄サマがいるけど)クスクスと笑った。
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