お題(破れた地図)
みかりん様


小説を書こう!!





 その日瀬人は海馬邸に帰ると、応接室でテーブルに原稿用紙を広げて何かを考えているモクバを見かけた。
「何をしている、モクバ。」
「あっ、兄サマお帰りなさい。・・・今度クラスで小説コンクールに応募する事になったんで書こうとしてるんだけど、結構難しくって。しかもその小説ってテーマがあっ
て、テーマに合わせた話を作らなくちゃならないんだ。」
「で、テーマは何だ?」
「”破れた地図” と”兄弟”。」
「”破れた地図”か・・・中々難しいな。」
「兄サマもそう思う?・・・それで兄サマ、何かいいアイデアあるかな?」
「モクバ、そういうのは自分で考えないと意味がないぞ。」
「だから、アイデアでいいんだ。兄サマ、大人だし、いろいろ知ってるし・・・明日提出日なんだ。お願い、兄サマ。」
 モクバは期待のまなざしと笑顔で瀬人を見る。
 瀬人はモクバのこの瞳と”お願い”という言葉に弱い。

「そうだな・・・こういうのはどうだ。」
 結局瀬人はモクバにアドバイスをすることになった。
「ある所に2人の兄弟がいて、兄弟ゲンカとなりお互いにある本を引っ張りあう。」
「それで?」
「その本は2つに破れる・・・その本は地図帳だったというオチだ。」
「兄サマ・・・それって・・・。」
 モクバの表情にみるみる失望の色が広がる。
 いかん!このままではモクバの信頼をなくす!!と、焦る瀬人。
「そ・・・それでは、こういうのはどうだ。兄弟がある日離れ離れになるが、その時1枚の地図を破き、それぞれの地図を兄弟は持つ。数年後、お互い敵として再会するが、地図を持っているのを知り、持っている地図を合わせる。そして、別れた兄弟だとわかる・・・どうだモクバ・・・オイ!どうした、モクバ!?」
 瀬人は驚いた。瀬人がモクバを見ると、モクバは泣いていたからだ。
「うん・・・兄弟また会えてよかったな・・・って・・・
それに1枚の地図を2つに分けるなんて、オレ、兄サマと分けた写真を思い出して・・・ペガサス島の事を思い出して・・・。」
 モクバは左手で胸のペンダントをギュッと握り締めた。
「嫌な事を思い出させてしまったようだな・・・。」
「ううん、違うんだ。ペガサス島にいた時、兄サマ絶対迎えにきてくれると信じてたんだ・・・そしたら兄サマ来てくれて・・・オレ、嬉しくって・・・。」
 涙を拭うモクバに瀬人は近づき、そっと、愛おしそうに抱きしめた。
「モクバ・・・。」
「兄・・サマ・・・。」
 不意に抱きしめられ一瞬驚いたモクバだったが、やがてその瞳を静かに閉じていった。

 ボーン、ボーン、ボーン・・・・

 その時、時計が夜10時を告げた。
 その音でハッと我に返ったモクバ。 
「あ、あの・・兄サマ。オ、オレ、ペガサス島の出来事をモチーフにして話を作ってみる。じ、事実は小説より奇なり、だぜぃ!」
 照れもあり、明るめの声を出したモクバは、瀬人から離れ、原稿用紙を片手に慌てて応接室から出て行った。

 その後、モクバは小説を書き始めたが、途中で寝てしまった。そして、提出期限に間に合わず、小説が応募される事はなかった。


 

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 コメント

  ”いっその事、このお題で海馬兄弟に話を作らせよう”という発想からできた作品です。

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