「いてっ!!」 「はっ!ゴメンナサイ!モクバ様!!」 学校での家庭科の時間、友人Aが俺にハサミを渡そうと手を
伸ばしたのだが、俺は切り口の方をつかんじまって手の平を切ってしまった。 友人Aは泣きながら俺にあやまり続けた。
「よせやい。別に大丈夫だぜぃ!!」
「いいえ!!すいません、すいません!すいませ…って…」
友人Aは俺がいいっつってんのにっずっと土下座のままだ。 まいったな。 下校中モクバは考えていた。
でも一番まいったのはこの後始末だよなー。えっ?何に心配してるかって?それはさー…兄様の事なんだよ…ι前にコレと同じような事が参観日の時あってさー、運悪く兄様が来てくれてた時で、、あ、でもあの時は俺が居眠りしていて、先生がチョークを俺にぶつけたんだよな。ソレを見た兄様一瞬で俺の前までやってきて先生と言い争い。その上今度何かやったら校舎燃やすだなんて言い始めちゃって…ι はぁ… そういってる間に家に着いちまった。
例の俺の怪我は今包帯が巻かれている。ふぅ、兄様が帰宅してなくて良かっ… 【ガチャ!】 「帰ったか、モクバ」
え〜!!(T_T) 「兄、兄様!!…ずいぶん、早いね?、、仕事は?」
「ああ、明日にかけて今日は早く上がったのだ。今日は家で書斎を片付ける事にしたのだ」 (え〜〜!!なんでそんな余計な事を!!) 「…そうなんだ。」
(どうしよう、兄様さっきから俺の顔背けないぜ)
(どうにか片手だけ隠して通れないかな、、あ!そうだ!見たいテレビがあるとか言って走っちまお!) 【ダダダダ】 「モクバ」 「(ヒィ!!)な、何?兄様!」
「余り急いで転ぶなよ…」 「え?あ、うん!!(心臓に悪いぜぇ〜ι)
えっと、後は早く傷口手当てしねーとな、なんか隠せるもの無かったかな〜 「モクバ様〜」
モクバを乗せ帰ってきた車から一人のメイドがカバンを持って降りる。どうやらモクバが通学用のカバンをうっかり車内に置き忘れたらしい。 「モクバのだな?仕方の無い奴だ…貸せ」
玄関付近に(まだ)いた瀬人がメイドからカバンを受け取ろうとする。 「あら?…ここ、、血がついてる」
メイドが独り言のような戯言を言ったのを瀬人は聞き漏らさなかった。 「血、、だと!?」
コレをこうして、、と、いって!結構傷深いかも、、あ、やばいぜ、包帯血滲んでる、、痛いし、、 「モクバ…」
「うわぁ!!な、何?兄様!!」
突然の声に思わずビックリ、いやものすごくビックリだぜぃ!!感想と同時に自分のカバンを渡された。
「ソレを車内に忘れただろう、、ところで、何を隠しているんだ?」 「えっ…ι」(マジ?マジマジι)
俺は自分の今やっている行動を考えた。はっ…咄嗟に怪我した手を後ろに思いっきり隠してしまっている。
「な、、なーに言ってるの兄様〜ほらぁ〜俺何も隠してなんかいないよ」
アハ…アハハ…腑抜けた顔で笑ってるんだろうな、、今の俺。怪我した手を、包帯とったばっかりで傷パッカリの手を(痛いよ〜ι)グーにして兄様に見せた。 「…手のひらを開け」
(うわ〜悟ってる?さっすが兄様、、ってそんな事考えてる場合じゃねー!!もしかしたら友人Aの命がかかってるのかもしれないんだぜぃ、隠し通すぜぃ!) 「兄様〜今日はなんだかとても暖かいね☆」 「俺は寒いがな」
「あ、兄様、俺テレビ見に行くぜぃ!」 「今お前の見たい番組はやっていないはずだが?」 「うーん、、俺急に眠気がきやがったぜぃ…」
「そうか、、ゆっくり眠るといい。手のひらを開いてな…」
、、だめじゃん!!、、全然忘れないよ!!それどころかそういう雰囲気にもならないじゃん!こうなったら、、男の意地だ!どこまで嘘付けれるか勝負だぜぃ!!
ハァハァ、、二時間たった今も兄様は引いてくれないぜ…
俺の方一直線ってだけ、、こう、、こうなりゃー…逃げるが勝ちだぜぃ!!
「…うりゃーー!!!」(どんな声よ…ι) 「!!モクバ!!」
よいよ、始まった兄弟競争対決!走る!走ります二人とも!!
(うっそー!兄様はえーよ!追いつかれる!!) 血相変えて追いかけてくる実兄。 (うぎゃああ〜〜!!)
おっとここで、コーナーだ!しかーし!! 【ズザザザザ!!】いってぇ〜!!! 不覚!思いっきり転倒!モクバ選手!!しかも…
「モ…モクバ!!、、何だ!!この大怪我は!?」 バレた〜!!! 「に、、兄様、いってて」
「言え!!誰に、誰にこんな負傷を負わされた!!」
大事な弟の怪我発見に殺気で今にも辺りを燃やし尽くすかの様な眼光を持つ瀬人。
「いや、、これは、その、、」 もたつくモクバ、、その時… 【ピンポーン】 「モクバ様、友人の方がお見えで、、」
「え?、、あ、あいつ今日の、、」 「モクバ!!あいつか!あいつなんだな!!」 勘付いた瀬人!(早っ!)もうこうなったら仕方が無い。
「お願い兄様!怒らないでやってよ、絶対仕返しなんてしないで!、、じゃないと、俺兄様の事嫌いになっちゃうから…」
「何!?」
瀬人は石化しそうになった。モクバがそう言ってる間も銃の準備までしてた彼だ…多分本気だったのだろう…
「わ、わかった。何もしない。」 兄のその言葉にすっかり笑みを持つモクバ。 そして安心しきって友人の待つ玄関先に向かった。
しかし、、元はといえばそれが甘かったのだ… 「スイマセン、モクバ様、、今日は。本当に…」
「もういいってば、気にすんなよ、な♪」 俯むいたままの友人Aに明るく振舞うモクバ。 「モクバ様…ありがとうござ、、!?!?!?」
感動の涙で上を向いた友人Aの嬉しさもそこまで。目先の方向を見てしまえばもう愕然。凍り付いてしまった。
目先の向こうにあった物、、いや、居た者。それは目で圧倒的に威圧していた瀬人の姿。その口からは何一つ言わないものの、恐ろしい殺気感と憎悪が感じられた。というか、明らかなオーラを発していた。少年は思った。自分は彼に…
少年はどんどん青ざめていった。それにはまったく気づく気配の無いモクバ。
「、、ねぇ、兄様。あいつ最近ずっと俺見るたび泣き出すんだよ…」 「ほう、それは不思議なものだな…」
数週間たった今。うーん、と首を傾げ続ける弟に、どこか不気味に小さな笑みを作る兄。
しかし、兄の中には安心感があった。自分が弟に初めて付いた小さな小さな…嘘へ安心感が。
END
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