お題(徹子の部屋)
古花様



徹子の部屋にて






  「まったく・・・社のイメージアップとはいえ磯野め。
  このオレが何故あの様な低俗な番組に出てやらねばならんのだ。」
 
  兄サマはだいたい不機嫌だ。
  でも今日はそれに輪をかけて不機嫌だ。
 
  理由はたぶん・・・今度、テレビ番組に出演することになったからだろう。
  おまけに生放送だ。
 
  番組名は『徹子の部屋』
  兄サマが一番嫌う一対一のトーク番組だ。
 
  兄サマ曰く
 
  「個人の人生を根掘り葉掘り聞き出そうとする姑息な主旨が気に食わん。
  そして何よりあの司会の女の口調と髪型が気に食わん!」
  ・・・・・なんだって。
 
  ・・・とりあえずゴメン・・・黒柳 徹子・・・。
 
  「ねぇ兄サマ!オレも一緒に出るの!?」
 
  オレはちょっと期待してた。でも・・・。
 
  「安心しろ。お前の出演だけは断固拒否した。」
 
  兄サマはそう言ってオレの頭を撫でた。
  それからすぐに磯野に呼ばれて、仕事に行ってしまった。
 
  どうやら兄サマは、オレはテレビに出たくないって思ってるみたい。
  確かに前に出たチャレンジ番組はスゲェ疲れたからもう二度と出たくないけど。
  番組名は、えっと・・・『東京フレンド・・・』とかゆー奴だったかな?
 
  それはともかく一度合って見たかったんだよなぁ、黒柳 徹子。
  あーゆーキッパリ物言うタイプのおばさんは見てて楽しいから。
  オレは母親ってモンを知らないから、"お母さん"ってイメージのある人間に弱いのかも知れないな。
 
  ・・・と、今はそんなことどーでもイイぜ!
 
  黒柳 徹子に会えないのは残念だけど仕方がない。
 
  それより心配なのは番組での兄サマがどーゆー態度を取るかだ。
  兄サマのことだからたぶん敬語なんか使わないんだろうなぁ。
  冗談も言わないだろうし。
  笑顔なんて見せた時にはオレが驚くよ。
 
  昔はもう少し愛想良かったのに、今はクスリッともしないもんな。
  そりゃオレには優しくなってくれたからイイんだけどさ。
 
  まぁ、オレがあーだこーだ考えてても何にもならないんだけど。
 
  どうか兄サマが番組内でキレて、そこから悪い噂が発ってまたKCの株が大暴落!なんてことがありませんよーに!と、オレは心から祈った。
 
  数日後。
 
  上方にあるデジタル時計ははもうすぐ1:30になろうとしていた。
  オレはチャンネルをセットして、テレビの前のソファーに座る。
 
  そして番組はいつもの様に定番の音楽に乗せて始まった。
 
  「さて、本日の御客様は・・・世界のアミューズメント業界でご活躍中の海馬コーポレーションの社長、海馬 瀬人さんにお越し下さっております〜。」
 
  徹子さんに紹介されて、兄サマはテレビ画面に堂々と出て来た。
 
  真っ白なスーツと真っ青なネクタイをビシッと着こなしてる姿は、弟のオレでも見惚れるくらいカッコイイ!
 
  ・・・ああ!兄サマ!
  徹子さんが挨拶してんだから、会釈くらいしなきゃ!
  それにそんなブスッとした顔してたら"KCは怖い"って印象与えちゃうよ!
  オレはテレビの前で、一人アタフタと焦っていた。
 
  そんなオレのことなど知らないだろう兄サマは徹子さんとトークを始める。
 
  「海馬さん、会社の経営にあたって成功する秘訣は?」
  「特にない。」
  「海馬さん、これからは他分野にも手をお広げになるおつもりで?」
  「特に考えていない。」
 
  せっかく社のイメージアップを計ってテレビ出演したのに、これじゃ意味ない。
  ・・・どちらかと言うとイメージダウンしたと思えて、今後が怖い。
 
  兄サマの協調性のなさにオレは溜息が止まらず、全身の力が抜けて行った。
 
  兄サマが他人と話するのが嫌いなことも、愛想笑いが出来ないことも知ってる。
  でも今回ばかりは会社のためにガマンしてくれると思ってた。
 
  "世界中の恵まれない子供のために世界中に海馬ランドを建てる"
  そのオレ達の絶対の夢のためなら何でもしてくれると思ってたのに・・・。
 
  オレはほんの少し兄サマを見損なった。
  嫌いになった訳じゃないけど、大人気ないなぁって・・。
 
  睨む様な目でオレ見られてるとも知らずに、兄サマは仏頂面のまま徹子さんとトークを続ける。
  トークって言うか・・・徹子さんの一人語りみたいなモンだけど。
 
  「そう言えば、海馬さんには小学生の弟さんがお一人いらっしゃいますよね?」
  「・・・・・・。」
 
  オレの話題になると兄サマは微妙に眉を吊上げた。
 
  「こんなに立派で素敵なお兄様がいらっしゃるなんて、弟さんはさぞかしご自慢に思ってるでしょうね〜?」
 
  徹子さんの言う通り、兄サマはオレの超自慢だよ。
  でも兄サマはどうせ「どーでもイイ」みたいなコメントしかしないんだろうけど。
 
  「いや・・・。」
 
  兄サマは足を組替えて、組んでいた手の平を膝に乗せた。
  そして兄サマの顔からはさっきまでのトゲトゲした攻撃的なオーラが消えた。
  もちろん兄サマらしく微笑んでなんかいないけど、何か優しい感じ・・・。
 
  「弟はいつでもオレの影となり適切で完璧なサポートをしてくれる。オレはやった仕事に対し、それに値する最高の評価がないと気が済まん。しかし弟はそんなことはまったく気にせず、会社のためならばどんな小さな仕事でも嫌な顔一つせず必死にやってくれる。弟はオレが出来ない事が出来る、オレが持っていない物を数え切れぬ程持っている。そしてどんな時でもオレに力を与えてくれる。だからオレよりも弟の方がよほど自慢できる人間だと思う・・・いや、弟はオレの自慢だ。」
 
  兄サマがオレのことを自慢だって言ってくれた。
 
  オレなんか誰でも出来る雑用みたいな仕事しかやってないのに。
  兄サマに比べたら何もやってないようなモンなのに。
  それなのにオレのことを褒めてくれた。
 
  「まぁ〜、海馬さんは弟さんと仲が良いんですね。
  最近は兄弟でもまったく会話をしない家庭が増えてるらし
  いんですが・・・」
 
  徹子さんが何か言ってるけど、もう何も聞えない。
  兄サマの「弟はオレの自慢だ」って言葉が耳の中で何度も響いてるから。
 
  オレは嬉しすぎて、ガマンしきれず泣いてしまった。
  そして一瞬でも兄サマを見損なった自分が情けなすぎて・・・。
 
  なかなか泣き止めなくてマブタが腫れたのか、目を擦る度に痛い。
  周りに誰もいなくてよかった。
  こんなグシャグシャの顔、誰にも見られたくない。
 
  とりあえず兄サマが帰って来たら真っ先に出迎えて、精一
  杯の気持ちで謝ろう。
  そして許してもらえた後に「兄サマの方が絶対に自慢の兄
  だよ」って言おう!
 
  その後、兄サマはオレ達兄弟ののことをたくさん話してくれた。
  施設時代のこと、オレが攫われた時と兄サマがそんなオレを助けてくれた時のこと。
  相変わらず徹子さんの質問することには答えてあげないけど、堂々とテレビの前で話してる兄サマの姿は本当に格好良かった。
 
  やっぱりオレはテレビだろうと何だろうとコビない兄サマは凄いと思う。
  だってテレビを見てる奴が自分をどう思おうが関係ないってことだろ?
 
  それって「自分を偽る必要はない」ってゆー凄い自信の表れなんだ。
  誰にどー思われようが、自分の道を進める人間・・・それが兄サマなんだ!
 
  オレはそんな兄サマが大好きだっ!
 
  ・・・会社のことはどうなったかって?
  大丈夫!兄サマとオレがいれば会社は永遠に安泰だぜぃ♪
 
  でも気になることが一つだけあるんだ。
  徹子さんが最後に「アフリカのある部族では血縁での結婚も許されてますのよ」
  って言ってたけど、どーゆー意味だったんだろう?
 

 

 

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 コメント

  いやはや予約してからかなりの時間だってしまって申し訳ありませんでした。
  時間かけたわりにはとんだ駄文で本当にスミマセン!
  でもこの上なく楽しく書かせてもらいましたよ〜。(自己満足)
  やはりセトモクは良いですね。(笑)
  それでは企画に参加させて頂きありがとうございました!

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