モクバは広すぎる部屋で一人溜息を付いていた。
(どうしよう。)
何を悩んでいるかと言うと、兄である海馬瀬人がいる社長室に行くかどうかということだ。
大企業の社長ともなれば、家に帰らないことは多い。
何より、瀬人は家で仕事をするのを嫌う。本人曰く、公私を混同したくないということだ。 だから、一週間帰らないことなど珍しくはない。 だが、モクバはそれが我慢出来るほど大人ではない。
兄に逢いたくて仕方がなかった。
何度か逢いに行こうと思ったが、邪魔をしたくないという思いがあり、出来なかった。
今日も帰らないということは分かっている。 (やっぱり、だめだ。もう我慢できない。) モクバは立ち上がると、早足で部屋をでた。
(これで、全部か。)
デスクの上にある書類を見て、珍しく瀬人は溜息を付いた。
仕事が忙しい今は、片付けても片付けても仕事がやってくる。 (モクバはどうしているのだろうか。)
電話くらいしてやろうと思っても出来なかった。
寂しい思いをさせているのは、誰に言われなくても分かっていた。
そんな時だった。 社長室のドアがノックされた。 「入れ。」
真夜中の訪問者は、瀬人が最も逢いたいと思っていた人物だった。
END
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