お題(去り行けど君は)
寒空雪乃様



去り行けど君は




想うのは

去ってしまった君の事。


日曜日。
会社を休んで、朝早くから俺はある場所にやってきた。
そこは、都会から離れた、小さな丘。
ここはかつて、俺が最愛の者と一緒に来た場所。
俺が唯一愛した、お前と。

――――ずっと前の事。
忙しくて中々構ってやれなかったお前に、やっととれた休みの日、何処に行きたい?と、俺は聞いた。
そうしたら、迷わずに言われた。

『昔、兄サマと行った、あの小さな丘に行きたいぜぃ!』

そこは、孤児院にいた頃、よく遊びに来ていた丘。
適度に伸びる草が昼寝には丁度良く、二人して寝ころんでいた。
ただ寝ころんでいるだけだったけれど、穏やかにゆっくり流れる空気が、嫌いではなかった。
それに。
お前が、一緒だったから。

『‥‥ねぇ、兄サマ』

共に寝ころぶお前から話しかけられて、視線を空から移す。

『何だ?』

しかし、お前は俺を見ず、空を向いたまま。

『もし‥‥もしだよ?俺が、死んだら‥』
『何!?』

聞こえた単語に、上半身を起こす。
すると、お前は慌てた様に、やっと俺を見た。

『だ、だから‘もしも’の話だってば‥』
『仮定の話でも、お前が死ぬなどと‥‥!』

例え仮定の話であっても、死ぬなどと、言って欲しくなかった。
死ぬという事は、俺の傍から居なくなるという事。
俺の隣から、お前という存在が消えるという事に他ならない。

『そんな事は認めん‥!』

そんな事に、耐えられるはずがない。
お前が居なくなるなど‥‥!

『俺も‥‥ずっと兄サマの傍に、隣にいたいと思う‥でも‥‥でもなんだよ』

悲しそうに、そのくせ、儚そうに笑う。

『それは、無理だから‥‥何時かは分からないけれど、必ず死ぬ時はやってくる‥‥だからね』

風が、吹いた。

『もし、俺が死んだ時は――――――‥‥』




それから、半年後。

お前は、死んだ。

病気、だった。
しかも。

『な‥‥に‥?』

医者の話によると。

『知っていたと‥言うのか‥‥?』

お前は、自分が病気であると。

『‥‥‥‥はい‥』

ならば、半年前には既に知っていた‥‥?

『‥何故‥‥っ!何故俺に言わなかった‥!!』

医者の胸倉を掴んで怒鳴った。
医者は、数瞬躊躇って、言った。

『あの方から‥‥瀬人様にはくれぐれも言わないでくれと‥‥』

愕然と、した。
お前は‥‥どうして‥‥!?
医者は言葉を続けた。

『瀬人様の、邪魔だけはしたくないと‥‥心配はかけたくないと、申されて‥‥』
『―――――そんな心配は無用だ‥‥!』

知っていたら出来た事があったかもしれないのに。
仕事なんか、どうだっていいのに。
お前と共にいる方が、どれだけ大切か。

お前が、俺の全てだというのに‥‥‥!

『‥‥‥‥‥馬鹿者が‥っ!』


呟いた言葉と共に、雫が、頬を流れた。



そして、俺は今、ここにいる。
お前が望んだ、小さな丘に。
海に臨む、この小さな丘に。
そこにあるのは、あの時咲いてなかった、踏みつけてしまいそうな小さな花と、小さな墓。
小さかったお前の、小さな、墓。
片手に持っていた、クチナシの花束をその墓の前に置きながら、俺は問う。

「お前が生まれた日の花と同じように」

その墓に彫られた、お前の名前をなぞりながら、俺は問う。

「お前は幸せだと、言ってくれるだろうか‥‥」

そこにはアルファベットで、彫られていた。
KAIBA MOKUBA
俺が、唯一愛した者の名前。
俺の、最愛の弟。

「幸せに、俺はしてやれただろうか‥‥?」

何時も笑ってくれた。
忙しくて構ってやれない事がほとんどだったけれど。
それでも、気にしないでと、何時も笑ってくれていた。
そして、そんな俺を、お前は愛してくれた。

「幸せ、だったか‥‥?」

幸せにしたいと思ってた。
けれど、幸せに出来たとは、自信を持って言う事は出来なくて。
だから、聞きたいのに。

「この、クチナシの様に‥‥」

風が、吹いた。

俺を包み込む様に、優しく。
お前の、様に。
まるで、返事をくれているかの様に。
幸せだと、言ってくれるのか。

「モクバ‥‥」

愛しさを込めて、空に言った。


『もし、俺が死んだ時は、この丘に、墓を作ってね。死んじゃって、兄サマの隣に居れなくなるのは凄く寂しいけれど、この海がある丘なら、何時も兄サマと一緒に居る気分になれるから。海は、兄サマの色だから。例え死んでも、兄サマを傍に感じたいの。ねぇ、兄サマ――大好きだぜぃ!』


そう言って、花の様に笑ったお前は、もう居ない。
それでも、心にお前はちゃんと居て。
俺の心の中に、存在していて。



去り行けど君は、我の心より去り行く事はなく

常に心は共に在って

我に微笑む

死して尚

我と共に歩め


 
END
 



 コメント

な、何とコメントして良いやら‥‥兎に角、タカツキ様、ごめんなさいっ!
数えてみて吃驚です‥200行軽く超えてました(汗)
削りに削って更に削っても200行手前‥‥ごめんなさい‥‥(泣)
これ以上に長い話を最初考えていたので‥こ、こっちにして、まだ、良かった‥!!(涙)
話的にも‥自信がないのですが‥‥初めてセトモク書いたので何とも‥(汗)
兎に角全てに置いて『ごめんなさい』なお話です‥‥。

備考:7月7日 クチナシ 「私は幸せ者」
兄サマが知ってたかは、分かりませんが‥(苦笑)

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