夕方の人気のない公園に佇む小さな影。時計が5時を告げても帰る様子はない。少年は迎えに来てくれるはずの父を待っていた。あの角を曲がってやってくるはずの父を。 「モクバ」 おだやかな優しい声。しかし、その声の主は父ではない。
自分の一番大好きな存在である兄のものだった。 「かえるぞ、モクバ。」
さしだされた手を無言でつかみ、少年は公園をあとにした。
「ごめん、兄さま。オレ、あの公園にいれば父さまがまた迎えに来てくれるんじゃないかって・・・。」
父はもう自分を迎えになど来れないのだ。母と同じように遠く手のとどかないところへいってしまった。 「モクバ」
「なに?兄さま。」
「いつか必ずおまえにいい暮らしをさせてやるからな。だから、信じて待っていろ。父さんがいなくたって、オレがおまえを守ってやる。」 兄は嘘をつかない。だからきっと大丈夫だ。 「うん、兄さま。オレ待ってるよ。」
彼らはこれから自分達に振りかかるであろう災いをまだしらない。 夕日が幼い二人の少年を真っ赤に照らしていた。
まるで鮮やかな血のように・・・。
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