お題(ぬくもり)
みかりん様


ぬくもり




「それでね、瀬人くん。モクバくんをぜひ養子にしたいとおっしゃるの。」
(またか。)
 瀬人は思う。
 施設に入り何ヶ月過ぎただろうか。幼い子供の中でも人目を引くモクバを養子にしたいという話はたくさんあった。だが、毎回モクバ本人の拒否により成立はしない。
「そのご夫婦は5歳の一人息子を病気で亡くしたばかりで、モクバくんをとっても気に入ったそうなの。かわいがってくれると思うわ。瀬人くんもたまに遊びに来てもいいとおっしゃってるし・・・いいお話と思うの。どうかしら、瀬人くんからモクバくんに話してくれる?」
 施設の職員は言いにくそうに瀬人に言った。
 モクバばかりが気に入られる・・・・しかし、その事を瀬人は不快に思った事は一度もない。年齢の割に子供らしくない自分。大人から見ればかわいいモクバをかわいがるのは当然だと思う。実際実兄の自分が見てもモクバはかわいい。しかも自分になついているモクバ。全身全霊をかけて守ってやりたい。
 だが自分はまだ非力な10歳の子供。モクバを守りきれるか。
「あっ、兄サマ。お話ってなあに?」
 モクバがもじもじしながら室内に入ってきた。
「じゃあ瀬人くん、お願いね。」
 そう言って職員は出て行く。室内は瀬人とモクバの2人きりとなった。
「あのね、さっきおじさんとおばさんから飴もらったんだ。兄サマにもあげる。」
 モクバは満面に笑みを浮かべ瀬人に飴を2個渡した。その人達はモクバを養子にしたいと言った夫婦に間違いないだろう。瀬人もさっき会ったが優しそうな夫婦だった。モクバは幸せになれる、そう感じた。
「モクバ、そのおじさんとおばさん好きか?」
「うん。ボク大好き。」
「その人達がモクバを養子にしたいそうだ。養子に行くんだ、モクバ。」
「本当!?兄サマも一緒だよね。」
「お前だけだ。」
「えっ?・・・ボクだけ・・・?」
 モクバはキョトンとして瀬人を見た。
「いやー!そんなのヤダー!!兄サマと一緒じゃなきゃボク、養子にいかない!!」
「言う事聞くんだ!!モクバ!!」
 瀬人に怒鳴られビクッとし、大きい瞳をさらに大きく開けたモクバ。その瞳から涙がこぼれる。
「ヒ・・・ヒック・・・兄しゃま・・・兄しゃまのバカー!!!」
 モクバは泣きながら室内を飛び出した。
 瀬人はそんなモクバを見つめていた。
「これでいいんだ・・・モクバにはお父さんやお母さんが必要なんだ。」
 瀬人は唇を噛む。そしてその瞳から涙が流れた。
「でも・・・でも・・・オレはやっぱりモクバと離れたくない。あいつのそばにいたい・・・オレの我儘かもしれないけど、モクバを手放したくない・・・・。」
 他人に弱みを見せない瀬人。しかし、誰もいない室内で一人、瀬人は涙を流す。
「モクバ・・・。」
 瀬人は泣き声をかみ殺しながら泣く。
 胸に締め付けられる痛みを伴いながら・・・。

「ヒック・・・に・・・兄しゃま・・・。」
 施設から飛び出したモクバは近くの廃屋にいた。隙間から風が入り、モクバは震える。
 そんな時、兄の暖かいぬくもりを思い出す。
(兄サマ・・・何であんな意地悪を言うの?・・・・それともボクの事、嫌いになったのかなぁ・・・。)
 自問自答を繰り返すモクバは、ガタッと入口の方で音がするのを聞いた。
「兄サマ・・・ボクの事迎えに来てくれたんだ・・・!」
 かくれんぼをしてもすぐ自分を見つける兄。モクバは入口の方に走り出した。
 チュウ。
 だが、出てきたのは一匹のネズミ。
「ひゃあ。ネ・・・ネズミ・・・さん・・・ヤダー、兄さ・・・兄しゃま・・・・ウエ〜ン。」
 大声でモクバが泣き出す。
 とその時、足音が近づいてきて戸がバーンと開いた。
「モクバ!!!ここにいたのか。捜したぞ。」
 瀬人だった。その姿は今迄モクバを必死に探していた事を物語っていた。
「兄しゃま〜〜〜〜〜!!!」
 モクバは瀬人の胸の中へ飛び込む。
「に・・・兄しゃま・・・ごめんなしゃい。兄しゃまの事バカって言ってごめんなしゃい・・・。ウエ〜ン。」
 瀬人に抱きつき泣きながら謝るモクバ。瀬人は優しい表情でモクバを抱きしめていた。

「兄サマ・・・ボクの事嫌い?」
 施設への帰り道、瀬人の背におぶさったモクバは瀬人に尋ねる。
「どうしてだ、モクバ?」
「だって・・・ボクだけ養子に行けなんて・・・ボクの事嫌いになったのかなって。・・・兄サマ、ボク、いい子になるから・・・夜、一人でトイレに行くから・・・だからもうそんな事言っちゃヤダ。」
「・・・モクバ・・・兄さんのそばにいるか?一緒にいるか?」
「うん!兄サマと一緒にいる!!兄サマ、ボク、兄サマの事大好きだよ。」
「・・・・。」
 モクバは笑顔を浮かべギュッと瀬人にしがみつく。
(兄サマあったかい・・・ボク・・・兄サマと一緒にいて・・・いいよね?)
 モクバは瀬人の暖かいぬくもりを感じながら、やがて深い眠りに入る。
 瀬人もまた、背中にモクバの暖かいぬくもりを感じていた。
 それはこの世に残った唯一の肉親のぬくもり。
 このぬくもりを手放したくない。モクバと別れたくない。何とかモクバと2人養子にしてくれるお金持ちの家に養子に入らなくては。いつかモクバと離れ離れになってしまう前に。
 そう思う瀬人だった。

 数ヶ月後、瀬人はイカサマゲームをし、瀬人とモクバの2人は海馬剛三郎の養子となる。





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コメント

幼少海馬兄弟シリーズ、いかがだったでしょうか?
(嘘です。そんなシリーズありません/笑)。


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