「兄サマはどうして泣かないの?」
ベッドに体を預けている自分を見下ろしながら、モクバが不意にそんなことを尋ねてきた。最近、二人は一緒に寝ることが多い。瀬人も不快には思わないので、ベッドに入れてやっていた。
「何故そんな事を聞く?」 体を少し起こし、モクバの顔を見つめながら聞き返す。真顔で聞き返され、モクバも戸惑ってしまう。
「深い意味はないよ。ただ兄サマが泣いてる姿って見たことないなーって思っただけ…」
返ってきた言葉にくだらんと言おうとしたが、瀬人は何故かその言葉を口に出すのはやめた。言われてみればそうだ。自分には涙というものを流した記憶がない。モクバが生まれてからは特にだ。弱い所を見せてはいけないそんな思いがいつも胸に染み付いていた。
それは、モクバのためだった。愛する者を不安にさせたくないという強い信念を瀬人はいつも心に秘めていた。
(泣かないのではなくて、泣けないのだ。) 自分が考えついたものに自嘲気味に笑った。そんなことは今更考えなくてもいいことだ。
今、その存在はいつも隣で笑っている。幸せそうな顔で。 「兄サマ?」
考えている時間が長かったのか、モクバが心配そうに顔を覗きこんできた。少し笑って「大丈夫だ。」と言ってやるとモクバもふわりと優しく笑う。そんなモクバを瀬人は宝物を抱くように自分の胸に抱き寄せた。
「にっ、兄サマ!?」 胸の中で暴れるモクバを力で押さえ込み、瀬人は呟いた。 「俺が泣けない分、お前が泣いてくれればいい。」
「えっ?」 モクバが驚き自分を見上げてくる。何か言おうとしている唇を唇で塞ぎ、そのままモクバをベッドに押し倒した。
人は皆弱いから 愛を感じられてなきゃ 孤独の中 迷子になって 子供のように泣くの
繋がった心と体 愛が溢れてく… そんなメロディが風に乗って消えていった。
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