『流れ星に願い事を3回唱えると願い事がかなうのよ。』
それはモクバが生まれてまもないころ、家族で星空を見た時に母親が言った言葉。
それから母が亡くなり、父が亡くなり、瀬人とモクバは施設に入ることになる。
「兄サマ!ボクね、今度クリスマス会で”流れ星”の役をやるんだよ。」
大きい瞳をキラキラ輝かせ、モクバは兄のもとへ走った。
施設に入って初めてのクリスマス会。モクバは楽しみにしている。
「そうか、すごいぞ、モクバ。」
「うん、ボク頑張るから兄サマ見てね。」
「ああ。」
瀬人はモクバの頭をなでた。
ある日瀬人はモクバ達がクリスマス会の練習をしている所を見かけた。
「はい、次”流れ星”の人出てきてー。」
先生の言葉に従い、頭の額に星型の絵をつけた輪をかぶり、肩から足の先まで黄色い布をすっぽりかぶったモクバくらいの年齢の子供達が出てきた。
「モクバは・・・・。」
思わずモクバを捜してしまう瀬人。
一番最後にモクバが走って出てきた。が、つまずいて転んでしまう。
「先生ー!またモクバ転んでまーす。」
「モクバくん、転ばないでよー!!」
次々とモクバに文句を言う他の子供達。どうやら足の先まである黄色い布につまずきしょっちゅうモクバは転んでいるらしい。
「困ったわねー。この布これ以上あげられないし。」
先生はモクバのすそをあげながら困った顔をしていた。
瀬人はその場に行こうとしたが、泣きそうな顔で涙を堪えているモクバを見、行くのを止めた。
”モクバは頑張っている。”そう感じた。
ふと自分の右袖口についている星型のボタンに気づく。
『流れ星に願い事を3回唱えると願い事がかなうのよ。』
そんな言葉が頭によみがえる。
「流れ星じゃないけど・・・・。もともと左のボタンはどこかでなくしてるし。」
瀬人は右袖口の星型ボタンをハサミでとった。
そして両手でボタンを握り締め、
「モクバがクリスマス会で成功しますように。成功しますように。成功しますように。」
と、3回つぶやいた。
クリスマス会当日。
努力が実ってか、願いがかなってか、モクバは転ぶことなく役をこなし、劇は成功をおさめた。
「あっ、兄サマ!!」
劇の終了後、休憩時間。モクバは椅子に座っている瀬人を見つけた。
「ボク、うまかったでしょ!!」
「よくできたな、モクバ。」
「へへ・・・・。」
顔だけでなく全身で喜びを表しているモクバに愛おしさを感じた瀬人はモクバの頭をなでる。
「あ、あのね・・・兄サマ。」
急にモジモジしたモクバは瀬人の椅子の隣に登り、耳に両手を近づけヒソヒソ話をした。
「ボクね・・・・お守り持ってんだ。」
「お守り?」
やや照れながらモクバはポケットから何かを取り出し、瀬人に見せた。
「流れ星に願い事を3回言うと願い事がかなうんだよね。流れ星じゃないけどボク、このボタンにうまくできるようにお願いしたんだ。でもこれ兄サマこの前落としたボタンだよね・・・・今まで返さなくてゴメンナサイ。」
にっこりとモクバは微笑み、手にした物を瀬人に渡した。
・・それは瀬人がなくした左袖口の星型ボタンだった。
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