海馬モクバさん、語る。 オレはコンビニが好きなんだ。
ある程度チープである程度高級な新製品たちがずらりと並んでいる。
新しいお菓子とか新しいサンドイッチとか新しいデザートとか行くたびに続々登場していて飽きることがない。
「チーズケーキ、前のヤツの方がうまくねえか?」 とかうんちくたれたりして、ちょっとしたオタクだ。
だけど最近は兄サマとずっと一緒にいたのでコンビニにもあまり行ってはいなかったのだ。 はっきり言って兄サマにコンビニは無縁だ。
ある日。
オレは急に某コンビニのアメリカンクラブサンドが食いたくなった。
「ねえ兄サマ、ちょっとあそこで車停めてもいい?」 「何か用があるのか?」 「うん、ちょっと」
オレは何の気なしにそう言ったんだけど…。
オレがお目当ての物を見つけたはいいけど、新製品にも目移りしてあれやこれやと見て回っていた。
あーこれもうまそうだなー、あ、こんなジュース見たことねえや。
そんなこんなで時間をかけてしまったようで、車で待っていてもらった兄サマがどういう気まぐれか知らないけど店の中に入ってきたのだった。 「フーン…随分と狭くてゴチャゴチャとしているのだな」 に…兄サマ?
「これでは物色しろと言われたところで見る気も起きん」 兄サマ声が大きいよ! 「モクバどこだ!」 「に…兄サマここだよ…」
ああ、店中の人が兄サマを見てる…。 兄サマはどこで何をしていようと兄サマだ。
外で突然「よそゆきの兄サマ」になったりなんか絶対しない。
と、いうより兄サマが「お買い物」に行ったことなんてあるんだろうか。 「どっちにしようか迷っちゃってて…」
「モクバ、何故そんなくだらん物を食う必要がある?」
ええっと、どうしよう…。別に食べる必要性はないんだけど…オレが食べたいだけだから…。 だけど兄サマは買うのをやめろとは言わなかった。 「迷う必要などなかろう。全部精算しろ。」
「あ、うん、そうだね!」 「誰かいないか!会計だ!」 「兄サマ!普通はレジに持って行くんだよ!」
兄サマ、小さいときには普通のお店に入ったことあるはずなのに…。 お願い、昔の兄サマに戻って…。
オレ達は今この店の中で見せ物状態だ。
こういう一般的な場所に来るとオレの兄サマがちょっと変わっていることを思い知る。
「1678円です」 覇気のない声でバイトのお姉ちゃんがそう言った。 兄サマが自分の財布を取り出した。払ってくれるんだあ。
…兄サマ、ゴールドカード出すのはやめてくれよ…?
さすがに兄サマもそこまでせずに、一万円札を差し出した。 ホッ。
出よう。早く出よう。そんでここのコンビニには二度と来ないでおこう。 「ではこちら、8322円のお返しです。」
終わった終わった。さあ早いところ車に戻ろう。 …と、思っていると、兄サマの様子が変。 「え、えっと…お釣り…」
お釣りを受け取る気配のない兄サマにバイトの姉ちゃんは戸惑っている。 に、兄サマ、まだ何かやるのっ…?
「釣り銭だと!?このオレに釣りを受け取るなどという、 人並みかつ貧乏くさい真似をしろと言うのか貴様は!」 め…目眩がしてきた…
ギャラリーがざわついている。このままじゃ何か呼ばれちゃうよ!
「に、兄サマいいから戻ろう!ね!お、お釣りは募金に入れといてくれ!行こう兄サマ!」
泣きそうになっているお姉ちゃんにそう言ってそそくさと兄サマを店から連れ出したのだった。
オレはコンビニが好きだ。 そしてもちろん兄サマも大好きだ。 好きな人と好きなところに来ても、楽しいとは限らない。
兄サマは選ばれた人間だ。
兄サマには民草の集う安っぽい場所なんて似合わないのだ。
思い知ったよ、兄サマ…。 「お前はよくあんな所に買い物に行っているのか?」
「うーん、たまにかなあ。」 新製品のサンドイッチはなかなかいける。 次の取引の会社まで道のりは結構ある。
兄サマ、お腹空かないかなあ。…これ、食べる…? 「兄サマ、コンビニのサンドイッチ、食べてみる?」 期待はせずに聞いてみた。
「…モクバは好きなのか」 「うん、割と好きだよ」 「では、少しもらおうか」 兄サマは一つ、サンドイッチを取って行った。
ヘヘッ なんか嬉しいや! END
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