朝起きたら、机の上に白い紙が置いてあった。 なんだろう・・・?
オレは病み上がり特有の気だるさを感じながら、机へと近づいた。
「熱は引いたみたいだけど、まだ本調子じゃないな。」
そんな事を思いながらその紙を手に取ると、オレは思わず破顔した。 紙片には、たった一言。
『 行ってくる 』 たったそれだけ。 名前も何も書いていない。
でもオレには、これを誰が書いたのかが直に分かった。 これ、兄サマの字だ。
白い小さな紙片には、たった五文字のメッセージ。 クスクス笑いが止まらない。
兄サマの手紙を何度も何度も読み返す。
その度に、何だか体中がくすぐったくてたまらなかった。
兄サマは、今日からL.A.へ出張だって言っていた。
前に打ち合わせでそんな事を言っていたから、知っている。
兄サマだって、オレが知っていることを知っている。
知っているのに、わざわざこうして知らせてきたんだ。
多分、オレが病気で寝ていて見送りが出来なかったからだろう。 でも・・・でも。
兄サマは普段、一度言ったことを何度も言うような人じゃない。
むしろ、「何度も言われんと分からんような奴は、このKCに必要ない!」というような人だ。 それなのに・・・
それなのに、わざわざたったこの五文字を伝えに来たんだ。
オレはベッドの上にコロコロと転がった。
そして白い毛玉のようにポーンポォンと嬉しく跳ねた。
兄サマからの手紙をぎゅっと抱きしめながら足をバタつかせると、オレはベッドから跳び下りた。
再び机のほうへと行き、手紙をそっと引き出しにしまうと、小さな小さな鍵をかけた。
そして、机の上にあった紙とペンを取って、こう書いた。 『 兄サマ、いってらっしゃい 』
書き終えるとオレは、その手紙を真っ白な紙飛行機にして折った。
窓を開けると冷たい冬の風が吹き込んできて、とても気持ちが良かった。 オレは思いっきりその手紙を空へ飛ばした。
―――ちゃんと、兄サマにオレの気持ちを伝えてくれよ。
そんな願いを知ってか知らずか
青い青い 冬の澄んだ空に、真っ白なオレの手紙は融けていった。
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