まるで、縋るようだと。
いつからだろうか、そう思うようになったのは。
(こういうの、幸福感って云うんだよな・・・。)
事後特有のけだるさの中、年恰好からは想像も付かないような事をぼんやり考えながら、モクバは隣りで眠っている
兄の顔を覗き込んだ。
その寝顔は、普段に比べるとひどく幼く感じる。
(兄サマって可愛いよなぁ・・・。)
そう思うと急に可笑しくなって頬が緩んだ。
自分自身の、余りに似つかわしくない思考に余計笑えたのだ。
しばらくは口に手を当てて笑みを噛み殺していたが、ふと突然、雲の翳りのようにあわただしく、別の思考が入り込んだ。
まるで、縋るようだと。時々思うのだ。
自分を抱く、兄は。
(縋る?オレに?・・・兄サマが?)
そんな筈が無い、とモクバは自嘲を浮かべる。
兄は強い人間である、自他共にそれは認めるに違いない。
その兄が、幼くて無力な自分に縋る等有り得ないのだ。
(どうして・・・そんな風に思ったんだろう・・・。)
再び兄の寝顔を見つめ、緩慢な動作でその頬に小さな手を伸べる。
冷たかった。
感触で目を覚ますかと思ったが余程深い眠りらしい、その気配は無いようだ。
モクバは再度兄を可愛いと思ったが、今度は笑わなかった。
−どうして、そんな風に思ったのか。
本当は分かっていた。
(兄サマは、)
冷えた頬を、微かに撫でる。
(寂しいんだ・・・。)
そう思った瞬間、胸が詰まった。
泣きたかった。
気を紛らわそうと、兄越しに窓の外に目をやった。外は今だ闇で、夜はまだ明けそうに無い。
モクバは小さくため息をついて、再び兄に視線を戻した。
頬に手を添えくちづける。
「・・・オレが居るのに。」
呟きが一つ、布地にしみ込む水のように闇の中に消えて行った。
|