空はオレンジ色から薄暗くなり、風が静かに吹き木々を揺らす。 そんな中、静まり返った公園にモクバの姿があった。
ブランコに座り、黙ったまま俯いていた。 しばらくすると公園の電柱にチカチカと電気が付く。 モクバは変化した自分の影をじっと眺めた。
ふと音がしてその方向を見ると、黒いリムジンが止まっていた。
中から出てきたのは兄である瀬人だ。 「お前は先に帰れ。車はいらん」 「し、しかし…」
「帰れと言っている!何度も言わせる気か!!?」 「い、いえ!申し訳ございませんッ!!」
リムジンが去ると瀬人はゆっくりとモクバに近づいた。 「モクバ」
そう声をかけじっとモクバを見つめた。 モクバはすぐに目を逸らしてまた俯いてしまう。 別に瀬人は怒っているワケではない。
それは声で分かる。 『どうした…?』
自分の名前を呼ぶ声がそう聞こえるのは気のせいだろうか…。
「帰るぞ」 兄の穏やかな声にモクバは小さく頷いた。
昔から変わらない。
何か嫌なことや悲しいことがあるとモクバはよく公園にいる。 そして…いつもブランコに座っていた。
帰り道、黙って並んで歩く瀬人とモクバ。 と、そのときモクバが立ち止まった。
瀬人がモクバに一瞬遅れて立ち止まる。 「…兄サマ、ごめんなさい。俺…」 モクバは瀬人をチラッと見て俯いた。
仕事の忙しい兄は疲れているだろうに自分に構ってくれている。
迷惑をかけてしまったのだとモクバは自己嫌悪していた。
瀬人はモクバの背に合わせるように地面に屈んだ。 ふわりと弟の黒い髪をなでる。
「何故お前が謝る…?気にするな」 この優しい兄は自分の一番欲しい言葉をくれる。 ボロボロと知らずのうちに涙が流れる。
ごしごしと手の甲でぬぐっても止まらない。 瀬人はモクバを優しく包み込むように抱きしめた。
まるで壊れやすい大切な宝物のように。 「泣くな…」 瀬人の言葉にまた涙が溢れた。
|