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「欲望の翼」

 


1990年 原題:阿飛正傳  英語題:Days of Being Wild
監督:王家衛(ウォン・カーウァイ)
脚本:王家衛(ウォン・カーウァイ)
撮影:杜可風(クリストファー・ドイル)
美術:張叔平(ウィリアム・チョン)
編集:譚家明(パトリック・タム)
出演:張國榮(レスリー・チャン)、劉嘉玲(カリーナ・ラウ)、劉コ華(アンディ・ラウ)、張曼玉(マギー・チャン)張學友(ジャッキー・チュン)、梁朝偉(トニー・レオン)、彭迪華(レベッカ・パン)

ストーリー
 サッカー場の売店に勤めるスー・リーチェン(張曼玉)は、ある日、ヨディ(張國榮)という男に出会う。ヨディは「今夜、夢で会おう」と謎めいた言葉をつぶやき、去っていく。そして、次の日もまた次の日も同じ時間にヨディは現れる。最初は相手にしていなかったスーも、ヨディの不思議な魅力に惹かれていき、2人の過ごす時間は1分から2分、そして1時間に延びていった。スーはヨディとの結婚を望むが、彼ははっきりとその意志は無いと告げる。失望したスーはヨディの元を去る。
 ヨディの養母・レベッカ(彭迪華)は酒を飲んでは若い男に貢ぐ生活を送っていた。ある日、ヨディはレベッカのイヤリングを盗んだ男をナイトクラブで痛めつける。そして、ヨディは取り戻したイヤリングの片方をその場に居合わせたダンサー・ミミ(劉嘉玲)に渡す。ヨディに誘われるまま、ミミは彼の部屋までついて行く。
 その夜、窓からヨディの部屋に入ってくる男がいた。ヨディの幼馴染・サブ(張學友)であった。2人の邪魔をしては悪いと、サブは再び窓から出て帰っていく。翌朝、ヨディと一夜を共にしたミミが部屋を出ると、アパートの階下にサブが待っていた。短い会話を交わしただけの2人だったが、サブはすぐにミミの虜になった。

 ある雨の夜、警官・タイド(劉コ華)がヨディの部屋のドアをノックした。ヨディを訪ねて来たスーが部屋に入りかねて階下で座り込んでいたからだった。ヨディに会ったスーは、「結婚しなくても良いから、あなたの側にいたい」と言うが、ヨディは「自分は変わらない」と告げる。ヨディの部屋にミミがいることを知ったスーは部屋を飛び出してしまう。
 巡回中のタイドは放心状態のスーを見かけ、帰りのタクシー代を貸す。ヨディのことを忘れられないスーは、夜になると彼のアパートに向かうが、会わずに帰る日が続く。そんなスーを見守るようにタイドは夜の巡回を続けるのだった。やがてスーはタイドにヨディへの想いを打ち明ける。
スーとタイドはお互いの身の上話をしながら、夜の街を歩いた。タイドはスーに話し相手が欲しいときは、公衆電話のベルを鳴らすように伝える。それから、タイドは巡回中に公衆電話の前でスーからの電話を待ったが、ベルが鳴る事は無かった。やがてタイドは警官を辞め、船乗りになった。

 レベッカは初老の恋人とアメリカに渡る決心をする。彼女を非難するヨディに、レベッカは初めてヨディの本当の母親の話をする。ヨディはミミと自分の車をサブに託し、本当の母親の住むフィリピンへ旅立つ。
残されたミミは狂ったようにヨディの行方を探す。レベッカの元を訪れたミミは彼女の口からヨディがフィリピンへ行ったことを知る。ミミの心はヨディにあることを知ったサブは、預かった車を売りその金をミミに渡すのだった。
 ヨディは本当の母親の住む大きな屋敷を訪ねるが、貴族の娘だった母親は不義の息子である彼に会おうとはしなかった。傷ついたヨディは自暴自棄になり、酔いつぶれ街中で眠り込んでいたところを一人の船乗りに救われる。その船乗りはタイドだった。ヨディは偽パスポートを手に入れ国外に出ようとするが、取引に来たギャングを殺してしまう。タイドも事件に巻き込まれ、ヨディと一緒に列車で逃げることになるが...。

この作品の見所
 今更繰り返すまでもありませんが、香港電影史上に残る名作のひとつです。今では実現不可能な豪華キャストに名前を見ているだけでため息が出てきます。1960年の香港を舞台に、奔放に生きる男・ヨディと彼に惹かれる2人の女性、彼女たちに密かに想いを寄せる警官とヨディの友人、5人の男女のせつない恋愛模様を描いた秀作です。張國榮(レスリー・チャン)の出演作の中で、私が最も好きな作品はこの「欲望の翼」なのです。

 張國榮(レスリー・チャン)演じるヨディは、その不思議な魅力で女性たちを虜にします。サッカー場の売店に勤めるスーを口説くときも、まず「今夜、夢で会おう」と謎めいた言葉を残して去り、次の日から毎回同じ時間に売店に現れるようになります。スーも最初は彼のことを無視しようとしますが、ヨディは彼女に自分の腕時計を見るように言います。スーが言われるままに1分間彼の腕時計を見つめた後、ヨディは次のように語りだします。「1960年4月16日、3時前の1分間、君は俺といた。この1分は忘れない。君とは1分の友達だ。」。私がこの作品をビデオで見たとき丁度広東語レッスンで日付、時間の言い方を習ったばかりでこのセリフだけは字幕なしでも分かり感激した覚えがあります(笑)。スーとヨディは1分間の友達から徐々に関係を深めていくのです。
 ちなみにこの「1分間の友達」は周星馳(チャウ・シンチー)と張國榮(レスリー・チャン)が共演した「ハッピー・ブラザー」(原題:家有[喜喜]事、1992年)にもパロディで出てきます。周星馳(チャウ・シンチー)がこのセリフを言うのですが、興味がある方は「ハッピー・ブラザー」をご覧下さい(^_^;)。

 ヨディはナイトクラブのトイレで養母・レベッカの恋人を痛めつけ、盗まれたイヤリングを取り返します。偶然、その場に居合わせた踊り子・ミミにイヤリングを与えるのですが、なぜか片方しか渡しません。ミミが「片方しかないわよ」と言うと、ヨディは持っていたイヤリングを見せ微笑みながら「下で待ってるぜ」と答えます。ミミも一気に彼の虜になり、会ったばかりなのに部屋までついていってしまいます。イヤリングを見せながら微笑む張國榮(レスリー・チャン)は非常に魅惑的でミミに限らず誰でも虜になってしまうでしょう。私はこの張國榮(レスリー・チャン)の微笑を見る度に「こんなに魅力的なんて、犯罪だよ」と思ってしまいます(^_^;)。

 スーとミミは共にヨディに想いを寄せますが、その姿は非常に対照的です。張曼玉(マギー・チャン)演じるスーは物静かな女性で自分の想いを内に秘めるタイプです。ヨディのアパートで彼と付き合い始めたミミと顔を合わせてしまった時も、心の動揺を押し殺して彼らの前から去っていきます。張曼玉(マギー・チャン)は若い頃は成龍(ジャッキー・チェン)映画で恋人役を演じるなどアイドル的なイメージでしたが、「いますぐ抱きしめたい」(1988年)あたりから演技が変わってきたように思います。
 劉嘉玲(カリーナ・ラウ)演じるミミはナイトクラブの踊り子らしく、派手で思ったことをはっきり言うタイプの女性です。ヨディが実の母親を探しにフィリピンに発ってしまった後も狂ったように彼を探しまくり、スーに向かって「あんたが彼を隠したんでしょう!」と激しくなじり、養母・レベッカに対しては涙を流しながら「もし、彼から連絡があったら、ミミが探していたと伝えてください」と訴えます。劉嘉玲(カリーナ・ラウ)もTVBドラマから映画に出るようになりましたが、この作品で演技開眼したと思います。

 張學友(ジャッキー・チュン)演じるサブは子供の頃からヨディのことを知っており、自分は彼にはかなわないと自覚している男です。サブはミミに一目惚れしますが、ミミからは「私に惚れるんじゃないわよ!」と釘をさされ、おどおどしてしまいます(^_^;)。ヨディが去った後もミミが彼のことを忘れられないと分かり、自ら身を引く決心をします。ヨディから譲り受けた車を売ってそのお金をミミに渡す場面はせつなくてたまらないですね。「万一、ヨディが見つからなかったら、俺の元へ...(戻ってくれ)」と語る姿に胸がしめつけられそうになりました。學友は「いますぐ抱きしめたい」(1988年)や「楽園の瑕」(1994年)など王家衛(ウォン・カーウァイ)作品に起用されていますが、どの作品でもキラリと光る演技を見せていて、「隠れた名優だなぁ」と思います。
 一時期は映画から遠ざかっていましたが、最近は「男人四十」(2002年)、「金鶏2」(2003年)で香港電影金像奨最優秀主演男優賞にノミネートされ、「江湖」(2004年)で久々に劉コ華(アンディ・ラウ)と共演するなど映画出演が続くのは喜ばしい限りです(*^_^*)。これからも良質の作品に出て欲しいと思います

 劉コ華(アンディ・ラウ)演じる警官・タイドもヨディと別れたスーの話しを聞くうちに、密かに彼女に想いを寄せるようになります。「話し相手が欲しいときは、公衆電話で呼んでくれ。毎晩、このあたりを警邏(けいら)しているから」とスーに伝え、電話ボックスの前で待つ姿は片思いの寂しさが伝わってきました。タイドは病気の母親のために警官の職についたのですが、母親の死後はかねてからの希望だった船乗りになります。仕事で行ったフィリピンで偶然ヨディと再会し、ヨディの起こした騒ぎに巻き込まれて一緒に逃げる羽目になってしまいます。
 この作品での劉コ華(アンディ・ラウ)の抑えた演技は当時の他の出演作(アクションやコメディ)とはかなり趣が違います。華仔(わーちゃい)も当時はアイドル人気が先行していましたが、この作品の演技を見るとただのアイドルではないことが分かります。後に金像奨最優秀男優賞を受賞する演技力の片鱗を見ることが出来ます(*^_^*)。

 ちなみにサブ、タイドという役名は「欲望の翼」パンフレットには載っていますが、実際の映画の中では2人ともこの名前を呼ばれるシーンはありません(^_^;)。なので、本当に名前があるのかどうか私は疑っています。日本で公開するときに名前が無いのでは不便なので、適当につけちゃったんじゃないかと思ってるんですが(笑)。
 映画の最後になぜか梁朝偉(トニー・レオン)がチラリと出てきます(^_^;)。彼は身支度を整えて出かける仕草だけで全くセリフがなく、最初見たときは「えっ、一体何者?」と思いました(笑)。後で色々と調べると、実は「欲望の翼」は続編を撮る予定があり、その続編では梁朝偉(トニー・レオン)演じるギャンブラーが登場するはずだったそうなのです。ところが、「欲望の翼」は香港公開時は興行収益がパッとせず、続編を撮る話は立ち消えになってしまったのでした(^_^;)。ちなみにパンフレットには梁朝偉(トニー・レオン)のにもちゃんと「スマーク」という役名がついていました(笑)。

 この作品に出てくる有名なセリフに「脚の無い鳥がいるそうだ。飛び続けて疲れたら、ただ風に乗って眠る。地上に降りるのは、死ぬ時だけだ」があります。張國榮(レスリー・チャン)の死後、この作品を見てこのセリフを聞くたびにどうしても彼の死がオーバーラップして辛くなります。でも、この作品の張國榮(レスリー・チャン)ほど魅力的な俳優は他にいないと思います。私は張國榮(レスリー・チャン)という稀有なアーティストがいたことを忘れることはないでしょう。



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